↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラント ~大妖の森で君と暮らす~  作者: 天鵞絨色の紫陽花
テラリア大陸編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/81

小さなお返し


午後。


このはは居間で本を読んでいた。


少し離れたところでは、白雨が机に向かい、何かを書き留めている。


普段はあまり見かけない光景だった。


「……白雨、何してるの?」


このはが尋ねると、白雨は顔を上げた。


「少し、記録をつけているんだよ」


「記録?」


「この森で起きたことや、植物の様子などをね。長いこと生きていると、覚えておきたいことも増えるものだから」


「へえ……。そんなこともしてるんだ」


このはは机の上を覗き込んだ。


そこには、見慣れない文字で書かれた紙が何枚も並んでいた。


「……これ、全部白雨が書いたの?」


「もちろん。私以外に誰が書くんだい?」


「いや、そうだけどさ……。すごい量だね」


「ふふ。長い年月の積み重ねだからね」


白雨はそう言って、再び紙に目を落とした。


このははしばらくその様子を眺めていたが、ふと思いついたように立ち上がった。


「……ちょっと待ってて」


「おや、どこへ行くんだい?」


「すぐ戻るよ」


そう答えて、このはは台所へ向かった。


しばらくして、湯気の立つ湯呑みを二つ持って戻ってくる。


「はい、白雨」


「……おや?」


白雨は差し出された湯呑みを見つめた。


「お茶を淹れてくれたのかい?」


「うん。いつも白雨に淹れてもらってるからね。たまには俺が淹れようと思って」


白雨は一瞬だけ目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。


「ありがとう、このは」


「どういたしまして」


このはは白雨の隣に座り、自分の湯呑みに口をつけた。


「……どう?」


「うん。おいしい」


白雨は穏やかな声で答えた。


「このはが淹れてくれたから、なおさらね」


「……またそういうことばっかり言って」


このはが少し呆れたように言うと、白雨は楽しそうに笑った。


「ふふ。ちゃんとおいしいよ」


「ならいいけど……」


このはも小さく笑った。


二人はお茶を飲みながら、しばらく他愛のない話をした。


やがて、白雨が湯呑みを置く。


「こうしてお茶を淹れてもらうのも、悪くないものだね」


白雨は湯呑みを両手で包み、目を細めた。


「何かをしてもらうというのも、誰かさんのおかげで良いものだと最近思うようになったよ」


その言葉に、このはは少しだけ考えた。


白雨は、何でも自分でできてしまう大妖だ。


食事も、家のことも、森の管理も。自分ができることを、わざわざ誰かに頼る必要はない。


それでも、こうして自分が淹れたお茶を喜んでくれている。


「……そっか」


このはは微笑んだ。


「じゃあ、また淹れてあげるよ」


白雨はこのはを見つめ、嬉しそうに笑った。


「ふふ。楽しみにしているよ」


そのあと、白雨は再び記録に戻り、このはも本を開いた。


けれど、しばらくすると白雨がそっと肩を寄せてきた。


「……白雨?」


「少し休憩しようと思ってね」


「さっき休憩したばかりじゃない?」


「そうだったかな?」


白雨は何食わぬ顔で微笑んだ。


このはは小さく息をついたものの、肩を離すことはなかった。


「……まあ、好きなだけ休めばいいんじゃないかな」


白雨は満足そうに目を細めた。


午後の光が、二人のいる部屋を穏やかに照らしていた。


誰かのためにお茶を淹れること。


そのお茶を、嬉しそうに受け取ってもらうこと。


そんな小さなやり取りが、二人の日常にまた一つ増えていた。

励みになりますので良ければブックマーク、評価、感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。