白雨の変化
朝の光が、障子越しに居間へ差し込んでいた。
このはは目を覚ますと、いつものように身支度を整え、居間へと向かった。
「おはよう、白雨」
「おはよう、このは。よく眠れたかい?」
「うん。よく眠れたよ」
「それならよかった」
白雨は微笑みながら、朝のお茶を用意していた。
このははその様子を眺めながら、自然と席に着く。
もう、この家で朝を迎えることにもすっかり慣れた。
朝起きて、白雨と挨拶を交わす。
一緒にお茶を飲み、今日の予定を話す。
そんな日々が、いつの間にか当たり前になっていた。
「今日はどうするんだい?」
白雨が湯呑みを差し出しながら尋ねた。
「そうだな……。特に予定もないし、家でのんびりしてようかな」
「ふふ。そうかい」
「白雨は?」
「私も特にないね。せっかくだから、今日はゆっくり過ごそうか」
「うん。そうしよう」
二人はお茶を飲みながら、穏やかな朝の時間を過ごした。
やがて、このはが湯呑みを置く。
「……あ、そうだ」
「どうしたんだい?」
「あとで庭の花でも見てこようかな。昨日、少し気になるところがあったんだよね」
「そうなのかい?」
「うん。ついでに、また少し手入れでもしようと思って」
白雨は嬉しそうに目を細めた。
「それなら、私も一緒に行こうかな」
「もちろん。白雨の庭だし一緒に見てよ」
このはは何気なくそう答えた。
その言葉に白雨はほんの少しだけ目を伏せた。
自分の庭だから。
確かに、ここは白雨の領域だ。
けれど、このははもう、そこにある花々を自分の暮らしの一部として見ている。
庭の様子を気にかけ、手入れをしようと思い立つ。
誰かに頼まれたわけでもなく、自然に。
「……どうかした?」
このはが不思議そうに尋ねる。
「いや。なんでもないよ」
白雨は顔を上げ、いつものように微笑んだ。
「それじゃあ、あとで一緒に行こうか」
「うん」
朝食を済ませた二人は、庭へ出た。
秋の空気は少し冷たかったが、日差しは暖かい。
このはは花壇の前にしゃがみ込み、葉の様子を確かめていた。
「この花、前より少し元気がない気がするな……」
「そうかい?」
白雨も隣にしゃがむ。
「少し水をあげれば大丈夫だよ。根はしっかりしているからね」
「そっか。よかった」
このはは安心したように頷き、水を用意しに立ち上がった。
その背中を、白雨は静かに見送った。
この家で過ごすこと。
庭の花を気にかけること。
何気ない一日の中に、当たり前のように自分がいること。
それらが、白雨には嬉しかった。
長い時を生きてきた彼女にとって、変わらないものは少ない。
けれど、今は。
「……ふふ」
白雨は小さく笑った。
このはが戻ってくる。
水を入れたじょうろを手に、こちらへ歩いてくる。
「白雨、これでいい?」
「うん。ありがとう」
二人で花に水をやり、伸びた蔦を整えていく。
特別なことは何もない。
それでも、白雨は思う。
こういう日々が、これからも続いてくれたらいい。
「……ねえ、このは」
「ん?」
「お昼も一緒に食べようね」
このはは不思議そうに瞬きをしたあと、笑った。
「もちろん。そのつもりだったよ」
「……そうかい」
白雨は穏やかに微笑んだ。
どうやら、自分が思っている以上に、このははもうこの家に馴染んでいるらしい。
そのことが、どうしようもなく嬉しかった。
秋の庭に、柔らかな日差しが降り注ぐ。
二人のいつもの一日は、今日も静かに始まっていた。
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