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プラント ~大妖の森で君と暮らす~  作者: 天鵞絨色の紫陽花
テラリア大陸編

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白雨との暮らし

今日はあと2話投稿する予定です。


朝。


このはが目を覚ますと、障子の向こうから柔らかな光が差し込んでいた。


「……ん」


まだ少し眠い。


布団の中でしばらくぼんやりしてから、ゆっくりと身体を起こす。


ここへ来てから、何度目の朝だろう。


最初は何もかもが分からなかった。


今だって、分からないことはたくさんある。


けれど。


少なくとも、この家で目を覚ますことには慣れてきた。


「……」


部屋を出る。


廊下を歩いて縁側へ向かう。


すると。


「おはよう、このは」


「おはようございます、白雨(はくう)さん」


白雨はいつものように縁側に座っていた。


朝の庭を眺めている。


その袖から、細い蔦が何本も伸びていた。


「……」


このはは立ち止まる。


蔦の一本が、庭に落ちていた葉を拾い上げる。


別の一本が、廊下を軽く撫でている。


さらに別の一本が、洗濯物を運んでいく。


「……朝から働いてる」


「そうだね」


「白雨さんは?」


「私は見ているよ」


「それだけ?」


「うん」


あまりにも堂々と言われて、このはは思わず笑った。


「いいなあ」


「……?」


「俺も蔦に家事やってもらいたいです」


「してもらえばいいんじゃないかな?」


「俺のところにはいませんよ」


「そうだったね」


白雨が少し笑う。


その間にも蔦は動き続けている。


掃除。


洗濯。


庭の手入れ。


片付け。


一つ一つを器用にこなしていく。


「……本当に器用にやるんですね」


「羨ましいかい?」


「そりゃそうですよ」


「この蔦も私みたいなものだからね」


白雨は平然としている。


このはは庭を見る。


「便利すぎる……」


「長く暮らしていると、こういうものも使い方が上手くなるものさ」


「なるほど…?」


このはは頷いた。


ふと気づく。


「そういえば」


「うん?」


「白雨さんって、朝ご飯食べないんですか?」


白雨は少し考えた。


「今日は食べようか」


「今日は?」


「普段はあまり食べないからね」


「え?」


このはは驚いた。


「食べなくても大丈夫なんですか?」


「生きるためには必要ないよ」


「……」


このはは白雨を見る。


「妖だから?」


「そういうことだね」


白雨はあっさり答えた。


白雨は人間ではない。


人間と同じように生きる必要もない。


「でも」


白雨が立ち上がる。


「食べること自体は嫌いじゃないよ」


「じゃあ一緒に食べましょうよ」


「君は食べたいのかな?」


「俺は食べたいです」


「ふふ。では、そうしようか」


白雨の袖から蔦が伸びる。


蔦が台所へ向かっていく。


「何を食べたい?」


「え?」


「君の食べたいものを用意させよう」


「何でも?」


「私の家にあるものならね」


このはは少し考える。


「じゃあ……普通の朝ご飯がいいです」


「普通?」


「ご飯と、汁物とか」


「なるほど」


白雨が台所へ視線を向ける。


「……作ってくれてるんですか?」


「うん」


「便利だなあ」


ほどなくして、蔦が料理を運んできた。


器を並べる。


ご飯。


汁物。


簡単なおかず。


「……」


このはは思わず笑った。


「なんか不思議ですね」


「そう?」


「はい」


この世界に来てから。


不思議なことばかりだ。


けれど。


こうして食卓を囲んでいると、少しだけ普通の生活をしているような気がした。


「いただきます」


「いただきます」


二人で食事を始める。


このはが一口食べる。


「……おいしい」


「それはよかった」


白雨も少し口にする。


「うん、おいしい」


「白雨さん、これからも一緒に食べません?」


白雨の手が一瞬止まった。


「……それも良いかもね」


「約束ですよ」


「約束かい?」


「はい」


白雨は少しだけ笑った。


「分かったよ」


⸻


食事を終える。


蔦が器を片付けていく。


このははその様子を眺めていた。


「……」


「どうしたのかな?」


「いや」


このはは少し考えてから言った。


「白雨さんのこと、少し分かってきた気がします」


「私のこと?」


「はい」


「どんなところが?」


「蔦に家事を任せて」


「うん」


「食事もあまり必要なくて」


「うん」


「でも、寝るのは好きで」


白雨が少しだけ目を細める。


「いつ知ったのかな?」


「なんとなくです」


「そう」


「あと――」


このはは白雨を見る。


「意外と普通に笑う」


「……」


白雨が少し黙る。


「それは、褒めているのかな?」


「褒めてます」


「そう…なら、ありがとう」


白雨が微笑んだ。


このはも笑う。


庭では、蔦がいつものように動いている。


その花の間を。


青い蝶がふわりと飛んでいった。


「……あ」


このはが気づく。


青い蝶は一度だけこのはの近くを飛び、それから庭の奥へ消えていく。


「今日も来ましたね」


白雨はその姿を追わない。


「そうだね」


「いつか名前、教えてくれるかな」


「どうだろうね」


「気長に待ちます」


「それがいいと思うよ」


このはは庭を眺めた。


知らない世界。


妖。


精霊。


妖精。


そして。


まだ知らない白雨のこと。


けれど、少しずつ。


この場所で過ごす時間そのものが、当たり前になり始めていた。

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