小さなプレゼント
昼下がり。
このはは、白雨と一緒に森の中を歩いていた。
木々の葉はすっかり秋の色に染まり、風が吹くたび、赤や黄色の葉がひらひらと舞い落ちてくる。
「……秋って、こんなに綺麗だったんだね」
このはは、足元に落ちた葉を拾い上げた。
赤く色づいた一枚の葉。
光に透かすと、葉脈までよく見えた。
「気に入ったのかい?」
隣から白雨が尋ねる。
「うん。」
このはは葉を眺めながら答えた。
「この世界に来る前も、秋はあったんだけどさ。こうしてゆっくり景色を見ることって、あんまりなかった気がする」
「そうなのかい?」
「うん。なんだかんだ、忙しかったからね」
白雨は少しだけ目を細めた。
「……そうか」
それ以上、深くは尋ねなかった。
このはがどんな日々を送ってきたのか。
白雨はまだ、すべてを知っているわけではない。
けれど、今こうして隣を歩いていることを、彼女は大切に思っていた。
このはは拾った葉をもう一度眺め、それからふと白雨へ視線を向けた。
「……白雨は、こういうの好き?」
「こういうの?」
「落ち葉とか。綺麗な葉っぱとか」
白雨は足元へ目を落とした。
「そうだね。嫌いではないよ」
「そっか」
「ただ、私にとっては見慣れたものだからね。」
「なるほどね」
このはは頷き、手の中の葉を見つめた。
それから、少し考えたあと。
「……じゃあ、これ白雨に」
白雨へ差し出した。
「私に?」
「うん。なんとなく、白雨に似合いそうだなって」
白雨は差し出された葉を見つめた。
ほんの一枚の、赤く色づいた葉。
この森にいくらでもあるものだ。
彼女にとって、珍しいものでも何でもない。
それでも。
「……ふふ」
白雨は嬉しそうに微笑み、両手でそっと受け取った。
「ありがとう、このは。大切にするよ」
「えっ、いや、そんな大げさな……」
「大げさかな?」
「だって、ただの葉っぱだよ?」
「そうだね。ただの葉っぱだよ」
白雨は葉を指先で優しく撫でた。
「でも、このはが私にくれたものだからね」
そう言って、穏やかに笑う。
このはは少しだけ言葉に詰まった。
そこまで喜んでもらえるとは思っていなかった。
「……そっか」
照れくささを誤魔化すように、このはは視線を逸らした。
白雨はそんな様子を見て、楽しそうに目を細める。
「ふふ。嬉しいものは、嬉しいんだよ」
「……うん」
それ以上、何かを言うことはできなかった。
二人は再び歩き始めた。
しばらくして、白雨がふと思い出したように口を開く。
「そうだ。この葉は、家に帰ったら飾っておこうかな」
「飾るの?」
「うん。せっかくこのはからもらったものだからね」
「……本当に大事にするんだね」
「もちろん」
白雨は迷いなく答えた。
「私にとっては、十分に価値のあるものだから」
このはは隣の白雨を見た。
その横顔は、いつもと変わらず穏やかだった。
けれど、手の中の一枚の葉を大切そうに持つ姿を見ていると、自然と笑みがこぼれた。
森の中を、秋の風が吹き抜ける。
木々の葉が揺れ、また何枚かの葉が地面へと舞い落ちた。
その中で、白雨は一枚の葉を大切そうに持ち続けていた。
何気ない散歩の途中で交わされた、小さな贈り物。
けれど、それは二人にとって、少しだけ特別なものになっていた。
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