夜長
日が沈み、白雨の森に夜が訪れていた。
昼間よりも冷たくなった風が、庭の草花を静かに揺らしている。
このはは縁側に座り、湯気の立つ湯呑みを両手で包んでいた。
「……夜は、結構冷えるようになったね」
「そうだね。もう少ししたら、上着が必要になるかもしれないね」
隣に座った白雨が、庭を眺めながら答えた。
二人の間には、穏やかな静けさが流れている。
しばらくして、白雨がこのはのほうへ顔を向けた。
「ねえ、このは」
「ん?」
「少し、そちらに寄ってもいいかい?」
このはは隣を見た。
「……別に、いいけど」
「ありがとう」
白雨は微笑みながら、そっと身体を寄せた。
肩と肩が触れ合う。
それだけでは足りないのか、白雨はさらに身体を傾け、このはの肩に頭を預けた。
「……白雨、また?」
「また?」
「いや……なんでもない」
白雨は小さく笑った。
「ふふ。嫌なら離れるけれど?」
「……嫌じゃないよ」
このはは湯呑みを置き、少しだけ姿勢を変えた。
白雨が寄りかかりやすいように。
その動きに気づいた白雨は、何も言わずに目を細めた。
「……今日は、ずいぶん素直だね」
「いつも素直だと思うけど」
このはが答えると、白雨は楽しそうに笑った。
「ふふ。そういうことにしておこうか」
二人は再び、庭へと視線を戻した。
夜空には星が瞬き、木々の隙間から月明かりが差し込んでいる。
このはは、肩に寄りかかる白雨を見た。
長い時を生きてきた彼女が、こうして誰かと過ごす時間を大切にしている。
それがなんだか無性に嬉しかった。
このはは少しだけ迷ってから、白雨の頭にそっと手を置いた。
そして、ゆっくりと撫でる。
白雨は一瞬、目を丸くした。
「……ふふ」
やがて、いつもの穏やかな笑みが戻る。
「今日は、ずいぶん甘やかしてくれるんだね」
「……甘えてくるのはいつも白雨のほうでしょ」
「それは否定できないね」
白雨は楽しそうに笑い、このはの肩へ再び頭を預けた。
今度は、このはも手を離さなかった。
夜風は相変わらず冷たかったけれど、二人はしばらくそのままでいた。
秋の夜は長い。
そして、二人で過ごす静かな時間も、まだ終わりそうになかった。
励みになりますので良ければブックマーク、評価、感想よろしくお願いします。




