感覚
永刻時計塔から二人は帰る準備をしていた。
「本日はありがとうございました、刻守さん」
「こちらこそ。お二人とも、よい時間を過ごしていただけたようで何よりです」
「うん。色々見せてもらえて楽しかったよ」
白雨もそう言って微笑む。
二人が塔を出ようとしたところで、このははふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、刻守さんって白雨とはどれくらい前から知り合いなんですか?」
「そうですね……」
刻守は少し考えるように目を伏せた。
「おそらく、八百年ほど前だったかと」
「八百年……」
このはは思わず聞き返した。
「そんなに前なんだ」
「ええ」
刻守は何でもないことのように頷く。
「ただ、そこまで昔という感覚はありませんね」
「……え?」
「つい先日のことのようにも感じます」
このはは隣にいる白雨を見る。
白雨は特に驚いた様子もなく、小さく笑っていた。
「刻守は昔からそうなんだよ」
「そうなんですか……」
「もちろん、何年前の出来事なのかは正確に把握しておりますよ」
刻守が懐中時計を開く。
「今が何月何日の何時何分なのかも、当然分かります。時間の経過そのものを間違えることもありません」
「じゃあ、時間の感覚がおかしいってこと?」
「おかしい、という表現が適切かは分かりませんが……」
刻守は少し考える。
「一年と百年では、時間としては明確に違います」
「うん」
「ただ、それが私にとってどれほど長いかと言われると……あまり大きな差はありませんね」
「……やっぱり不思議だな」
このはが苦笑する。
白雨はそんな二人の会話を聞きながら、どこか楽しそうにしていた。
「大妖にとっての時間なんて、そんなものなのかもしれないね」
「白雨もそうなの?」
「私も人間とは、かなり違うと思うよ」
「そうなんだ……」
このはは改めて二人を見る。
何百年という時間を生きてきた二人にとって、それは人間が感じるほど遠い過去ではないのかもしれない。
「では、そろそろお帰りになりますか?」
刻守が懐中時計を閉じる。
「うん。今日はありがとう、刻守さん」
「こちらこそ。またいつでもお越しください」
「また近いうちに来ます」
「ええ。百年後でも千年後でも構いませんよ」
「……それは近いうちじゃないよ」
このはが苦笑すると、白雨が隣で小さく笑った。
「ふふ。刻守らしいね」
二人は永刻時計塔を後にした。
長い道のりを歩き、やがて見慣れた森が見えてくる。
紫色の花々が咲く、白雨の森。
「……やっぱり、ここに帰ってくると落ち着くな」
「そうだね」
白雨が穏やかに答える。
永刻時計塔で過ごした不思議な時間は、長かったような、短かったような。
それでも、今日という一日は二人にとって忘れられないものになっていた。
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