愛の一撃
ツツジの屋敷を出た二人は、躑躅と桃の花が咲き誇る庭園を歩いていた。
「本当に綺麗な庭だな」
このはは辺りを見渡す。
「そうだね。ツツジは昔から、花を眺めるのが好きだったから」
「白雨の森とは、また雰囲気が違うな」
「うん。私の森はもっと静かだからね」
二人は花を眺めながら、ゆっくりと庭園を歩いていく。
「そういえば、ツツジさんってどれくらいここに住んでるんだろう?」
「かなり長いよ。私が知っているだけでも、ずっと昔からここにいる」
「じゃあ、この庭も昔から?」
「少しずつ変わっているけれどね」
白雨がそう答える。
「長く生きていると、同じ場所でも色々変わっていくものさ」
「そっか」
そんな話をしながら歩いていると、このははふと足を止めた。
「この花、綺麗だな」
道の脇に咲く桃色の花を眺める。
「本当だね」
白雨も隣に立ち、その花を見つめる。
二人がそんな時間を過ごしていると――
「白雨ちゃんたち見つけたわ~」
少し離れたところから、ツツジが二人を見つけた。
二人のもとへ向かおうとする。
「服が完成したから呼びにきたわよ〜……」
そのときだった。
ツツジの視界の端で、茂みが大きく揺れた。
「……あら?」
次の瞬間。
茂みから、一匹の大きな獣が飛び出した。
鋭い牙を剥き出しにしながら、二人へ向かって駆けていく。
「白雨!」
このはが声を上げる。
白雨もすぐに獣へ目を向けた。
だが――
「まあ♡」
ツツジが急加速し、二人の前へ飛び出した。
その表情は、柔らかな笑みを浮かべながらも青筋が浮かんでいた。
「白雨ちゃんとこのはくんの……」
拳を強く握る。
「愛を邪魔するなんて……!」
地面を蹴った。
「この私が許さないわよ~!」
次の瞬間。
ツツジの拳が、獣の顔面に叩き込まれた。
――ドゴォン!!
獣の巨体が地面から浮き、そのまま庭園の奥へと吹き飛んでいく。
花々が大きく揺れ、周囲に土煙が舞った。
「…………」
このはは呆然とその光景を見ていた。
白雨はというと、特に驚いた様子もなくツツジを見ている。
「相変わらずすごいパワーだね、ツツジ」
「え〜?」
ツツジはきょとんとした顔をする。
「だって、せっかく二人で仲良くお散歩してたのに~」
「いや……」
このはがようやく口を開く。
「ただ殴っただけ……?」
「そうよ~」
ツツジはにこっと笑う。
「このはくん、怪我はない?」
「俺は大丈夫だけど……」
このはは、獣が吹き飛んでいった方向を見る。
「……ツツジさんって、すごく強いんだね」
「そうかしら~?」
本人は不思議そうに首を傾げる。
「まあ、それよりも」
ツツジがぱっと表情を明るくする。
「服、できたわよ~♡」
「……切り替えが早い」
このはが思わず呟く。
白雨はそんな二人を見ながら、くすりと笑った。
「ふふ。ツツジらしいね」
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