服
このはは、縁側で自分の服を眺めていた。
「……ここ、結構ほつれてきてるな」
袖の端に、小さなほつれがある。
「どうしたんだい?」
隣に座っていた白雨が、このはの服へ目を向ける。
「ちょっと傷んできたみたい」
「そうだね」
白雨は袖を手に取り、ほつれた部分を眺める。
「そろそろ新しいものを用意したほうがよさそうだね」
「まだ着られるから大丈夫だよ?」
「そうだね。けれど――」
白雨が少し考える。
「せっかくだから、ちゃんと君に合ったものを作ってもらおうか」
「作ってもらう?」
「うん」
白雨は庭へ目を向ける。
「ツツジに頼んでみよう」
「ツツジ?」
このはが首を傾げる。
「ああ、まだ話していなかったね」
白雨は穏やかに笑う。
「私と同じ大妖の一人だよ」
「白雨と同じ……」
「そう。愛の大妖さ」
「愛の大妖……」
このはは少し驚いたように呟く。
「そんな大妖もいるんだ」
「いるよ。とても優しい子でね」
白雨は立ち上がる。
「それに、服を仕立てるのが上手なんだ」
「へえ……」
このはも立ち上がる。
「じゃあ、そのツツジさんに頼みに行くの?」
「そうしようか」
白雨はそう言って、庭の植物へ手を伸ばす。
すると、蔦の一部がゆっくりと伸びてくる。
白雨はその蔦を手に取り、何本かを丁寧に切り分けていく。
「これは?」
「服の素材にするんだよ」
「これで服が作れるの?」
「うん。私の力でいい感じに作ったからね」
白雨はそれをまとめる。
「ツツジなら、きっと上手に仕立ててくれるさ」
「なんだか、すごいな」
「ふふ。他でもない君のためだからね」
「……」
このはが少し照れたように目を逸らす。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
二人は家を出る。
森を抜ける道を、並んで歩いていく。
「ツツジさんって、どんな人なの?」
「そうだね……」
白雨は少し考える。
「一言で言うなら、世話焼きかな」
「世話焼き?」
「うん。困っている子を見ると放っておけないような子だよ」
「そんな人に服を作ってもらうのもなんだか申し訳ないな」
「気にしなくていいさ」
白雨は微笑む。
「むしろ、喜んでやってくれると思うよ」
「そうなの?」
「うん。きっとね」
半日ほど歩くと、景色が少しずつ変わっていく。
緑の中に、鮮やかな色が見え始めた。
「……あれ?」
このはが足を止める。
遠くまで続く花。
赤や白、紫がかった躑躅が、斜面いっぱいに咲いている。
「すごい……」
白雨がその景色を眺める。
「着いたね」
「ここが……」
このはは、初めて見る庭園を見渡す。
その先に、二人を待つ大妖の気配があった。
「この先にツツジがいるよ」
白雨が静かに言った。
二人は、躑躅と桃の花が咲き誇る庭園へと足を踏み入れた。
励みになりますので良ければブックマーク、評価、感想よろしくお願いします。




