【間話】妖精の一日
森の中を、一匹の蝶が飛んでいる。
青い光をまとった、小さな蝶。
ルミナス。
今日もこのはの近くを飛んでいた。
このはが歩けば、ついていく。
このはが止まれば、近くの枝に止まる。
どうして?
分からない。
でも。
このはがいる。
それだけでいい。
木々の間を抜ける。
風が吹く。
葉っぱが揺れる。
面白い。
たぶん。
ルミナスは風に乗って、高く飛ぶ。
くるくる。
くるくる。
「ルミナス?」
このはが見上げている。
ここにいるよ。
青い光を揺らす。
「……元気だな」
元気。
たぶん、そう。
このはが笑っている。
それを見ると、なんとなく嬉しい。
だから、もう少し飛ぶ。
高く。
低く。
このはの周りを一周する。
楽しい。
たぶん。
しばらくして、このはが木陰で休み始めた。
本を開く。
また本。
このはは本が好き。
ルミナスは本の上を飛ぶ。
「ルミナス、そこにいると読めないよ」
怒っている?
違う。
笑っている。
なら、ここにいる。
「……まあいいか」
このははそのまま本を読む。
ルミナスは本の端に止まった。
文字は分からない。
でも、この時間は好きだった。
静かで。
暖かくて。
このはがいる。
それだけ。
しばらくすると、ルミナスは何かを感じた。
風。
木。
森。
いつもと少し違う。
ここはよくない。
ルミナスは飛び立つ。
このはの前へ。
「どうした?」
こっち。
でも、言葉にはできない。
ただ、何となく嫌だった。
このはが立ち上がる。
「ここにいちゃ駄目なのか?」
ルミナスはその場で羽ばたく。
このはが木陰から離れたその直後。
大きな枝が落ちた。
「……」
このはが枝を見る。
それから、ルミナスを見る。
「もしかして、教えてくれたのか?」
ルミナスは答えない。
ただ、青い光を揺らす。
このはが笑う。
「ありがとう、ルミナス」
ありがとう。
その言葉は、分かる。
嬉しい。
たぶん。
ルミナスは、このはの肩へ近づく。
そして、また飛び始めた。
森の中を進んでいく。
いつものように。
いつからだったかは、分からない。
このはが来る前のことも。
どこから来たのかも。
どうしてこのはについて行きたいのかも。
よく分からない。
でも。
それでいい。
きっと。
それが、ルミナスにとっての「いつも」だった。
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