髪
午後。
このはは縁側で本を読んでいた。
森を渡る風が心地よく、木々の葉が静かに揺れている。
しばらくすると、白雨が庭から戻ってきた。
「このは」
「はい?」
「今日は何を読んでいるんだい?」
「魚の本です。昨日海に行って、もっと色々なものを知りたくなって」
「なるほど」
白雨が隣に腰を下ろす。
「熱心だね」
「白雨さんにも色々教えてもらってますから」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
白雨が微笑む。
ふと、このはは白雨の髪に目を向けた。
「……あれ?」
「どうしたんだい?」
「白雨さん、髪に葉っぱがついてます」
「葉っぱ?」
白雨が自分の髪へ手を伸ばす。
「どこかな?」
「後ろのほうです」
「見えないね」
「よかったら、俺が取りますよ」
「うん。お願いしようかな」
白雨がこのはに背を向ける。
このはは白雨の長い白髪に手を伸ばした。
指先に、さらりとした髪が触れる。
「……ここですね」
小さな葉を摘まみ取る。
「取れました」
「ありがとう」
白雨が振り返る。
その瞬間、このはの手がまだ白雨の髪に触れていることに気づいた。
「……」
「……」
このはが慌てて手を引こうとする。
しかし白雨は、その手をそっと掴んだ。
「どうしたんだい?」
「いえ……その」
白雨は掴んだ手を離さない。
そのまま、少しだけ顔を近づける。
「……ふふ、照れてるのかい?」
「……白雨さんが近いからです」
白雨は嬉しそうに微笑んだ。
「君に髪を触られるのは、嫌じゃないよ」
白雨は自分の髪を一房、指先ですくう。
「君になら、好きなだけ触らせてあげてもいい」
「……」
このはの顔が赤くなる。
「えっと……その、それは……」
「ふふ」
白雨は楽しそうに笑う。
「そういう顔をする君を見るのも、最近は少し楽しくてね」
「やっぱり最近意地悪ですよ」
「そうかな?」
「そうです」
「少しくらい許しておくれよ」
白雨はそう言って、このはの手を自分の手で包む。
「昨日、君が握り返してくれたのが嬉しかったからね」
「……はい」
「だから、今日も」
白雨はそのまま、このはの手を優しく握る。
「こうしていてもいいかい?」
このはは少し照れながらも、手を握り返した。
「……はい」
「ありがとう」
白雨は満足そうに微笑む。
二人の間を、穏やかな風が通り抜ける。
白い髪が風に揺れ、白雨はこのはを静かに見つめる。
その表情には、いつもの余裕と。
ほんの少しの嬉しさが滲んでいた。
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