森への帰り道
食事を終え、三人は港へ戻ってきた。
潮の香りが風に乗って流れてくる。
このはは足を止め、もう一度海を眺めた。
「……やっぱり、広いですね」
「初めて見るとそうなるよな」
わだつみが隣に立つ。
「海はどこまでも続いてる。森とはまた違った面白さがあるだろ?」
「はい。来てよかったです」
「そうか」
わだつみは満足そうに笑った。
「海はな、見えてるところだけが海じゃねぇんだ」
「?」
「この下にも、ずっと世界が広がってる。魚もいるし、海の妖もいる。人間が知らねぇ場所だってまだまだある」
「へぇ……」
このはは興味深そうに海を覗き込む。
「海の中にも街があるんですか?」
「おう。俺の国もその一つだ」
「いつか行ってみたいです」
「そのうち招待してやるよ」
わだつみは笑う。
「ただ、普通の人間が気軽に来られる場所じゃねぇけどな」
「そうなんですね」
「まあ、白雨と一緒なら話は別かもしれねぇが」
「私?」
白雨が少し首を傾げる。
「お前さんなら、海の底まで植物を持ってきそうだからな」
「海中で植物を育てるつもりはないよ」
「はは、冗談だ」
わだつみは楽しそうに笑った。
「今日はありがとう、わだつみ」
「気にすんな。俺も久しぶりにお前と話せてよかったよ」
「そうかい」
「またいつでも来い。海なら俺が案内してやる」
「そのときは、このはも一緒にね」
白雨がそう言うと、わだつみはこのはを見る。
「もちろんだ」
「ありがとうございます」
「次は魚だけじゃなく、海でしか食えねぇもんも見せてやるよ」
「楽しみにしてます」
「おう!」
わだつみは大きく頷いた。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「わだつみもね」
「白雨、お前も相変わらず無茶すんなよ」
「君に言われるとはね」
「はは、違いねぇ」
わだつみは笑う。
「じゃあな!」
「またね」
二人に見送られながら、白雨とこのはは港を離れていった。
しばらく歩く。
港町の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。
「……楽しかったですね」
このはが言う。
「そうだね」
白雨も穏やかに返す。
「海を見るのも、魚を食べるのも初めてでしたけど……わだつみさんにも会えてよかったです」
「私も、君を連れてきてよかったと思っているよ」
「白雨さんも楽しそうでしたね」
「私が?」
このはが笑う。
「わだつみさんと話しているとき、少し嬉しそうでした」
白雨は少しだけ黙る。
そして。
「……そう見えたかい?」
「はい」
「なら、そうだったのかもしれないね」
白雨は小さく笑った。
二人は並んで、森へ続く道を歩いていった。
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