海の大妖
「久しぶりだね、わだつみ」
白雨が穏やかに返す。
「おう。白雨が海まで来るなんて珍しいじゃねぇか」
わだつみは白雨の隣にいるこのはへ目を向ける。
「……そっちは?」
「このはだよ。私と一緒に暮らしている」
「初めまして。このはです」
「そうか。俺はわだつみだ。海の大妖さ」
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
わだつみは気さくに笑った。
「大妖って言っても驚かないんだな」
「実はわだつみさんの他に星架さんとアギトさんにもお会いしたことがあって...」
「そりゃすげぇな!大妖が知り合いにいる人間なんてほとんどいないんだぜ。」
このはは少し笑う。
「この大陸には、あと2体大妖がいるがお前さんなら全員と仲良くなっちまうかもな」
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「しかし、白雨が人間を連れて歩いてるとはな」
「珍しいかい?」
「そりゃ珍しいさ」
わだつみは少しだけ白雨を見る。
「だが、悪くねぇ」
「……そうかい」
「お前がそんな顔してんのを見るのも、久しぶりだしな」
白雨は少しだけ目を細める。
「私がどんな顔をしているって?」
「昔より柔らかくなったってことだよ」
わだつみがこのはを見る。
「このはって言ったな。海の魚は初めてか?」
「はい。海を見るのも初めてです」
「そうか」
わだつみは少し意外そうな顔をする。
「なら、今日はいい日になりそうだな」
「いい日?」
「海ってのは、見るだけでも面白ぇが、せっかくなら飯まで楽しんだほうがいい」
そう言って、わだつみは港の奥を指差す。
「うまい魚を出す店がある。俺が案内してやるよ」
「いいんですか?」
「遠慮すんな。俺も久しぶりに白雨と飯を食いたいからな」
「私と?」
白雨が少し首を傾げる。
「お前さんもだよ」
「……ふふ。そういうことなら、付き合おうかな」
「よし、決まりだ」
わだつみが歩き出す。
このはもその後を追う。
「わだつみさんと白雨さんって、昔から仲がいいんですね」
「まあな」
わだつみが振り返る。
「こいつとは長ぇ付き合いだ。昔はいろいろあったが……まあ、今はこうして飯を食える。それで十分だろ」
白雨は何も言わず、わずかに笑った。
「……そうだね」
わだつみはそれを見て、満足そうに頷く。
「それにしても、このは」
「はい?」
「白雨と暮らしてて、大変じゃねぇか?」
「え?」
「こいつ、見た目は大人しそうだが、意外と頑固だからな」
「わだつみ」
「おっと、本人から苦情が来たな」
「余計なことを言わなくていいよ」
「はは、悪い悪い」
このはは二人のやり取りを見て、少し笑う。
「……でも、確かに頑固なところはありますね」
「このは?」
白雨が振り返る。
「いや、なんでもないです」
「そうかい」
白雨は少しだけ笑った。
三人はそのまま、港町の中へ歩いていった。
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わだつみに案内されたのは、港から少し離れた小さな食堂だった。
「ここなら魚は間違いねぇ」
「そんなに美味しいんですか?」
「ああ。俺も昔から贔屓にしてる」
店に入ると、わだつみは店主に声をかけた。
「久しぶりだな」
「また来てくれたのかい」
「近くまで来たからな」
わだつみはこのはを示す。
「今日はこいつに海の魚を食わせたくてよ」
「ほう」
店主がこのはを見る。
「それなら、いいのを出そうか」
「お願いします」
やがて料理が運ばれてくる。
焼き魚に、刺身。
煮付けや魚の汁物まで並んだ。
「わぁ……」
このはは思わず声を漏らす。
「好きなものから食え」
わだつみが笑う。
「海の魚は種類も多いからな。気に入ったのがあったら、また食えばいい」
「いただきます」
このはは焼き魚を一口食べる。
「……美味しい」
「だろ?」
わだつみが嬉しそうに笑う。
「こっちも食ってみろ。こいつはここじゃよく食われてる魚だ」
「はい」
このはが箸を伸ばす。
その様子を、白雨は静かに眺めていた。
「白雨さんは食べないんですか?」
「私は君ほど楽しみにしていたわけじゃないからね」
「でも、美味しいですよ」
「ふふ。それなら一口もらおうかな」
このはが魚を取り分ける。
白雨はそれを受け取って、ゆっくり口に運んだ。
「……うん。美味しいね」
「でしょう?」
「君がそんなに嬉しそうにしているなら、来た甲斐があったよ」
「……はい」
このはが微笑む。
向かいでは、わだつみがそんな二人を見ながら酒を飲んでいた。
「なるほどな」
わだつみはそれ以上言わず、魚を一切れつまむ。
「まあ、たまにはこういう飯も悪くねぇな」
港町の喧騒に包まれながら、三人の食事は続いていった。
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