海
朝。
箸を手に取り、焼き魚を口へ運ぶ。
「……この魚、美味しいですね」
「そうだね」
白雨も魚を箸でほぐす。
「森の川で獲れた魚だから、新鮮だよ」
「川魚なんですか?」
「うん」
このはは焼き魚を見る。
「そう言われると、確かに少し違う気がします」
「ふふ。分かるものなのかい?」
「なんとなくですけど」
このはは少し考える。
「海の魚も食べてみたいなぁ」
白雨は湯飲みに口をつける。
「海の近くの街へ行けば、いくらでも食べられるよ」
「へぇ……それじゃあ、行ってみたいです」
「それなら、サーガへ行こうか」
「サーガ?」
「海に面した街だよ」
「ここから近いんですか?」
「マークよりは、ずっと遠いね」
「……どれくらいです?」
「歩いて一日近くかかるかな」
「そんなに?」
「うん」
このはは少し驚いた。
白雨はそんなこのはを見て、微笑む。
「たまには遠出するのも悪くないだろう?」
「……そうですね」
このはも笑った。
「行ってみたいです」
「じゃあ、決まりだね」
---
それから少しして。
二人は森を出た。
「サーガって、どんな街なんですか?」
「港のある街だよ。漁業とか交易が盛んなんだ。」
「魚を扱う店も多いし、港にはたくさんの船が来る」
「船……」
「見たことがないかい?」
「ないですね」
「なら、ちょうどいい」
白雨は前を向いたまま、少し笑う。
「見せてあげるよ」
「楽しみです」
ルミナスも二人の周囲を飛んでいる。
森を抜け、いつもとは違う街道を進んでいく。
「……こうして遠くまで歩くのも、なんだか新鮮ですね」
「そうだね」
白雨は穏やかに答えた。
「私も、この道を歩くのは久しぶりだよ」
「サーガには昔よく行ってたんですか?」
「何度かね」
白雨は少し懐かしそうに笑う。
「昔とは、ずいぶん変わっているだろうけれど」
「それでも覚えてるんですね」
「長く生きているからね」
「……」
このはは白雨を見る。
「便利ですね、それ」
「ふふ。そうかもしれない」
---
昼を過ぎた頃。
遠くに海が見え始めた。
「……あ」
このはが足を止める。
木々の向こう。
青い海が広がっている。
「海……」
白雨も足を止める。
「初めて見るのかい?」
「はい」
このははしばらく海を眺めていた。
「……大きいですね」
「そうだね」
「森の川とは全然違う」
「当たり前だよ」
白雨が少し笑う。
「川が全部集まっても、海の広さには敵わないからね」
「すごい……」
このはは感心したように頷く。
ルミナスも海のほうへ飛んでいく。
「ルミナスも楽しそう」
「ルミナスも初めて海を見るのかもね」
三人は再び歩き始めた。
---
港町サーガへ辿り着く。
街には多くの人が行き交っていた。
「すごい……」
このはは辺りを見回す。
「マークとは全然違いますね」
「マークよりかなり大きい街だからね」
白雨も周囲を見る。
昔と変わったところを探すように、静かに眺めている。
「さっそく魚を見に行きましょう」
「そうだね」
二人は魚屋らしき店へ向かった。
見たことのない魚がいくつも並んでいる。
「これも魚なんですか?」
「そうみたいだね」
「大きい……」
「こっちは焼くと美味しいよ」
「白雨さん、意外と魚にも詳しいですね」
「昔、食べたことがあるからね」
「じゃあ、今日はこれにしましょう」
「うん」
このはが魚を選ぶ。
白雨はその隣で、楽しそうに眺めていた。
---
買い物を終え。
二人は港の近くへ出た。
潮の香りがする。
波が静かに岸壁へ打ち寄せている。
「……いい匂いですね」
「そうだね」
このはが海を眺める。
その時。
「……ん?」
海の向こうから、大きな影が近づいてきた。
船ではない。
波を割るようにして、何かがこちらへ向かってくる。
白雨が目を細める。
「……まさか」
次の瞬間。
「よう! 白雨じゃねぇか!」
豪快な声が港に響いた。
このはが驚いて振り返る。
白雨は。
「……」
ほんの少しだけ、嫌そうな顔をしていた。
「……その声は」
海面から、巨大な身体が飛び出してくる。
「久しぶりだなぁ!」
白雨が小さく息を吐く。
「……わだつみ」
銀色の長髪を濡らしながら。
サングラスをして。
焼けた肌の巨漢が現れる。
「お前さん、こんなところで何してんだ?」
白雨は隣にいるこのはを見る。
そして。
「少し、魚を買いにね」
「魚だぁ?」
わだつみが目を輝かせる。
「そりゃいい! せっかく海に来たんだ、うまいもんたくさん食ってけ!」
ガハハと豪快に笑う大男。
「……相変わらずだね」
そう言いながらも、どこか懐かしそうに笑っていた。
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