↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラント ~大妖の森で君と暮らす~  作者: 天鵞絨色の紫陽花
テラリア大陸編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/84

例外


このはは白雨と向かい合って、いつものように朝食を取っていた。


「いただきます」


「いただきます」


箸を進めながら、このはは昨日の話を思い返していた。


三つの国を滅ぼし。


人間に期待することをやめ。


それでも、白雨は自分を受け入れてくれた。


「……白雨さん」


「うん?」


「昨日の話なんですけど」


「うん」


白雨は箸を置く。


「白雨さんは、最初から人間が嫌いだった訳じゃなかったんですよね」


「うん」


白雨は少しだけ笑った。


「むしろ、最初は人間に興味があったよ」


「興味?」


「人間が何を考えて、何を望んで生きているのか」


白雨は湯飲みに手を添える。


「知りたかったんだ」


「……」


「だから昔は、姿を隠して人間の町へよく遊びに行っていたよ」


「今とあまり変わらないですね」


「ふふ。そうかもしれないね」


白雨は少し楽しそうに笑う。


「人間の作るものを見るのが好きだったんだ。料理も、道具も、建物もね」


「へえ……」


「私たち妖とは違うものを作るから、見ていて飽きなかった」


このはは白雨の話を聞きながら、少し意外に思った。


今よりずっと昔の白雨。


人間の町へ遊びに行き、人間の暮らしを眺めていた。


「じゃあ、その頃は人間と仲良くなりたいとも思っていたんですか?」


「そうだね」


白雨は素直に頷く。


「私自身を見てくれる人間がいるかもしれないと思っていた」


「……」


「けれど」


白雨の声が少しだけ静かになる。


「なかなか、そういう人はいなかった」


---


白雨は、昔のことをゆっくりと話した。


力を求めて近づいてくる人。


自分の美貌に惹かれて近づいてくる人。


妖という存在を恐れ滅ぼそうとする人。


「最初は、それでも気にしなかったよ」


「この人は違うかもしれない」


「毎回そう思っていたんだ」


けれど。


何度会っても。


何人と話しても。


「最初のうちは期待していた」


「……」


「いつか、私を私として見てくれる人が現れるんじゃないかってね」


風が庭を抜けていく。


「でも、何度も続くとね」


白雨は少しだけ目を伏せる。


「期待することに疲れてしまったんだ。期待しなければ、失望することもない」


淡々とした言葉だった。


怒りも、恨みもない。


ただ、長い時間をかけて諦めた者の声だった。


「だから、君は例外だったんだよ。」


「……?」


「君は、私のことを何も知らなかった」


白雨は、このはを見る。


「植物の大妖だということも。紫蔦妖姫と呼ばれていることも」


「……」


「だから君は、私を恐れなかった」


少しだけ笑う。


「私の力を欲しがることもなかったし、容姿に惹かれ、劣情をぶつけてこようとすることもなかった」


「……」


「ただ、一緒に暮らして、くだらない話をして……過去を知っても私自身を知ろうとしてくれた」


このはは少しだけ目を逸らす。


「それに」


白雨の口元に、いたずらっぽい笑みが浮かぶ。


「初めて私を見て顔を真っ赤にする人間なんて、この世界にはもういないからね」


「……」


このはの顔が、少し赤くなる。


「でも、俺は本当に何も知らなかっただけですよ」


「それでいいんだよ」


白雨は穏やかに笑う。


「何も知らなかったからこそ、君は私を見てくれたんだからね」


---


「白雨さん」


「うん?」


「白雨さんって……いつから生きているんですか?」


白雨は少し考える。


「植物というものが、この世界に生まれた頃からだよ」


「……え?」


このはが目を丸くする。


「そんな昔から?」


「うん」


白雨は庭へ視線を向ける。


「植物の大妖としてなら、私はずっと昔から存在している」


「じゃあ、白雨さんって……」


このはは少し考える。


「……」


白雨は一度だけ、このはを見る。


「今の私になったのは、1000年くらい前かな」


「……今の私?」


このはが首を傾げる。


「どういう意味ですか?」


「そのままの意味さ」


白雨は穏やかに答える。


「1000年より前も私ではあるよ」


「……」


「でも、今の私とは少し違う」


このははしばらく白雨を見る。


「……よく分からないです」


「そうだろうね」


白雨は小さく笑う。


「その話は、また今度にしようか」


「……分かりました」


それ以上、白雨は話さなかった。


---


このはは庭で花の手入れをしていた。


隣では白雨が蔦を操り、伸びすぎた枝を整えている。


「……」


作業をしながら、このははちらりと白雨を見る。


1000年より前も私。


でも、今の私とは違う。


どういう意味なのだろう。


「気になるかい?」


「……はい」


白雨がこちらを見る。


「やっぱり分かります?」


「顔に出ているからね」


「そんなにですか?」


「うん」


白雨は楽しそうに笑う。


「私は、君のそういうところを好ましく思っているよ」


「……」


このはは少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らした。


「でも、今はまだ話してくれないんですよね」


「私の昔話は長いからね」


「じゃあ、ゆっくり聞きます」


「……ふふ、いつか全部話すよ」


白雨は柔らかく笑った。


励みになりますので良ければブックマーク、評価、感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。