↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プラント ~大妖の森で君と暮らす~  作者: 天鵞絨色の紫陽花
テラリア大陸編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/82

距離


朝。


このはは台所に立っていた。


「……よし」


味噌汁の味を確かめる。


「うん。大丈夫」


器へ盛り付ける。


「白雨(はくう)さん、できましたよ」


「ありがとう」


縁側にいた白雨が立ち上がる。


このはが器を運ぶ。


白雨はその様子を見ながら、ふと微笑んだ。


二人で暮らし始めて、もう随分経つ。


こうして朝食を用意することも。


向かい合って食事をすることも。


すっかり当たり前になっていた。


「いただきます」


「いただきます」


静かな朝だった。


⸻


食事を終える。


このはが器を片付けようと立ち上がる。


「俺、洗ってきますね」


「私も行こうか」


「え?」


白雨が立ち上がる。


「手伝うよ」


「いや、大丈夫ですよ」


「そうかい?」


「はい。これくらいなら一人でできますから」


このはが台所へ向かう。


白雨もその後ろをついていく。


「……白雨さん?」


「うん?」


「何かありました?」


「別に何もないよ」


白雨は笑う。


それでも離れない。


「……」


このはは少しだけ首を傾げながら、食器を洗い始めた。


その隣に白雨が立つ。


肩が触れそうなくらい近い。


「……白雨さん」


「うん?」


「ちょっと近くないですか?」


「そうかな?」


白雨は何でもないように答える。


「そうですよ」


「嫌かい?」


「……嫌ではないですけど」


このはは少しだけ頬を赤くする。


「なら、いいよね」


「……」


白雨はそのまま隣にいた。


⸻


昼前。


このはは庭に出ていた。


紫陽花の様子を見ながら、伸びてきた草を抜いていく。


「こっちは大丈夫そうだな」


しゃがみ込んで作業をしていると。


「このは」


「はい?」


白雨が近づいてくる。


「そこ、少し残っているよ」


「え?」


白雨が指差す。


このはが振り返る。


「どこです?」


「そこ」


白雨の手が伸びる。


このはの髪に触れた。


「……」


髪に付いていた小さな葉を取る。


「これだよ」


「……あ」


白雨は葉を見せる。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


白雨が微笑む。


このはは少しだけ視線を逸らした。


「……今日の白雨さん」


「うん?」


「なんだか距離近くないですか?」


白雨は少し考える。


「そうかな」


「はい」


「……嫌かい?」


「だから、嫌じゃないですって」


このはは困ったように笑う。


「ただ……ちょっと恥ずかしくて」


「ふふ。君のそういう顔も良いと思うけどね」


「……」


このはの顔が、さらに赤くなる。


「そういうところですよ」


白雨は楽しそうに笑った。


⸻


午後。


二人で森を歩いていた。


ルミナスも一緒だ。


「今日はこっちへ行ってみようかな」


このはが道を選ぶ。


白雨が隣を歩く。


以前なら少し後ろから見守っていた白雨が、今日はずっと隣にいる。


「……」


このはは横を見る。


白い髪が風に揺れている。


いつもと同じ白雨。


けれど。


やっぱり今日は妙に近い。


「どうしたのかな?」


「いえ」


このはは前を向く。


「なんでもないです」


しばらく歩く。


小さな川へ差し掛かった。


このはが石へ足を乗せる。


その瞬間。


少しだけ足が滑った。


「――っと」


白雨がすぐに手を伸ばす。


このはの手を掴む。


「大丈夫かい?」


「はい」


「気をつけて」


「ありがとうございます」


白雨は手を離そうとする。


けれど。


ほんの少しだけ、その手を握ったままになった。


「……白雨さん?」


「……」


白雨は自分の手を見る。


そして、静かに笑った。


「もう少し、このままでいようか」


「……え?」


このはの顔が赤くなる。


「いや、その……」


何と言えばいいのか分からない。


けれど。


嫌ではなかった。


「……はい」


小さく答える。


白雨は嬉しそうに目を細めた。


二人はしばらく、そのまま歩いた。


手を繋いだまま。


⸻


夕方。


家へ戻る。


「今日は結構歩きましたね」


「そうだね」


縁側へ座る。


ルミナスが二人の周囲を飛んでいる。


「……」


このはは自分の手を見る。


さっきまで白雨と繋いでいた手。


なんとなく、まだ感触が残っている気がした。


「どうしたのかな?」


「……なんでもないです」


白雨はそんなこのはを見て、少しだけ笑う。


「そう」


それ以上は聞かなかった。


けれど。


白雨の手が、そっとこのはの手の近くへ置かれる。


触れそうで、触れない距離。


このははそれに気づく。


「……」


少し迷ってから。


自分から手を近づけた。


指先が触れる。


白雨がこのはを見る。


「……」


このはは少し恥ずかしそうに笑った。


「……こういうのも」


「うん?」


「悪くないですね」


白雨は何も言わなかった。


ただ。


今度は自分から、このはの手をそっと握った。


二人の間に、穏やかな時間が流れていく。


以前よりも少しだけ近い距離で。


それが、今の二人には心地よかった。

励みになりますので良ければブックマーク、評価、感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。