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【連載版】あなたが『当たり前だ』と仰ったので。  作者: 夕綾 るか


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第四十三話


「ああ、よかった……」


 王都での仕事を片付けて駆けつけた兄セドリックが私をぎゅっと抱きしめた。


「心配でどうにかなってしまいそうだったよ……」

「い、痛いわ。セディお兄様」

「ああ、すまない!」


 回復したとはいえ、まだまだ満足に動くことはできないし、痛みもある。

 いつものように抱きしめられると、いろいろなところを打っていたのだと改めて認識する。


「事故に遭ったと聞いて、すぐにでも駆けつけたかったのだけど……遅くなってすまなかった」

「いえ、お仕事は大事ですもの」


 心から申し訳なさそうにうなだれる兄を見て、胸がズキリと痛んだ。


「あの……セディお兄様。お伺いしたいことがあるのですけれど……」

「うん? 何だい?」


 ここに兄が来たということは、多分ルディの耳にも入っているということだ。


(でも……来てくれていない……)


 あんなにそばにいてくれたのに。

 紅茶事件の時も、カメリア様に婚約解消を迫られた時も、離れたことを後悔していたのに。


(私から離れたから、怒ってるの? それとも、呆れられたのかな?)


 離れたがらないルディの言葉を聞かずに、いつも私のほうから離れていた。

 今回も私がルディと別々にいることを決めて、彼を待たずに発ってしまった。

 愛想を尽かしてしまわれても仕方のないことだ。

 それでも――事実が知りたい。


「ルディは……今どうしているの?」


 私から身体を離した兄は私の手を優しく握った。


「ルディはフィーが領地に向かった翌朝、学園に休学届を出して、後を追ったんだよ」

「え……?」

「馬で行ったから、そのうち追いつけると思っていたんだけど」


 私は横に首を振った。


(そんなの、知らなかった……でも、それなら何で……)


 私の疑問を解消するように兄が言葉を続けた。


「フィーはルディと会っていないんだね。私もその後、ルディと連絡が取れなくなってしまって。だから、レイナイト侯爵家に確認したんだ。もしかしたら、フィーのことを聞いて戻っているのではないか、ってね」

「え……? でも……」

「うん。フィーはルディと会えていない」


(今までレイナイト侯爵領にいたのに、会いに来てくれなかったの? まさか、ルディもどこかに怪我でもしたの?)


 私が呆然としていると、兄は包み込む手に少し力を込めて、私の注意を引きつけた。


「だから、ここに来るまでの間にレイナイト侯爵家に寄ってきた」


 私がハッと顔を上げると、兄は悲哀に満ちた表情で私を見つめていた。


「セディ、お兄様……?」

「ルディはレイナイト侯爵家にいたよ。無事だった。ただ、会わせてはもらえなかった」


 兄は端正な顔を歪め悔しそうに唇を噛み締めると、意を決したように口を開いた。


「婚約準備のため、パルヴィン侯爵家へ行っている、と言われたんだ」

「…………え?」


 理解が追いつかない。

 兄に言われた言葉がすんなりと頭に入ってこない。


(ルディが……婚約準備? 誰と……? パルヴィン侯爵家? それって……)


『これからはまたあの頃のように頻繁に会うことになると思うわ。だから、よろしくね』


 真っ白だった頭の中に、突然、マルティナ様のはにかむような笑顔が思い出された。 

 あの時、少し頬を赤らめ、嬉しそうに微笑んだマルティナ様を見て、胸の奥がドキリと鳴った理由が、今ならわかる。


(そんなこと……ない)


 ルディの隣でマルティナ様が微笑みかけ、お互いに笑い合う――そんな光景が浮かんでしまう。


(そんなの……無理よ)


 自分の感情がぐちゃぐちゃで、私は兄の手を振りほどき、顔を覆った。


「……フィー?」


 戸惑いを隠しきれない兄の声に、私はハッと意識を取り戻す。


「何だか体調が優れないみたい。ごめんなさい……セディお兄様。少しの間、眠ってもいいかしら?」

「フィー、大丈夫かい? 無理をさせてしまったかな。悪かった。すぐに医師を呼んでこよう」

「呼ばなくていいです。少し寝れば良くなると思うから……」

「わかった。じゃあ、ゆっくりお休み」


 兄は私の頭を優しく撫でると、名残惜しそうに部屋を出ていった。


 一人になって、目を閉じる。

 私とダニエルの再婚約と、ルディとマルティナ様の婚約。

 私たちは貴族。そして、結婚は貴族同士の契約だ。

 そんなこと、よくわかっている。

 けれど――心がついていかない。


「罰、なのかな……」


 未だに目覚めないアンナと、護衛騎士には戻れなくなったカイル。

 私は自分のしたことの責任を取るべきだと誓ったばかりだろう。

 きっと、私の決意を鈍らせないためにこうなったのかもしれない。


「しっかり、受け入れないと」


 私は閉じていた目を開くと、大きく息を吸った。

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