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父は嬉しそうに保護者欄にサインをしている。
そして、とても大事なことがある。
週の労働日数を決めることだ。
1週間を7日で考えているこの国で、週の労働日数を決めるために父は4と指で示す。行儀見習いを兼ねているはずなのに、4日しか働かないのか。
週の休息を2日と定めているこの国で4日の労働とは如何なものなのか。
不満で父にもっと働きたいと強請ってみようとすれば、ニコライさんも「それくらいが妥当でしょう」と言うので、4日で決まったようだ。
「何故、私の意見を聞いてくださらなかったの」
勝手に話をすすめるニコライさんと父に置いてきぼりにされ、不貞腐れたように尋ねる。
「お前は、ハミルトン家に嫁ぐためにも花嫁修業をしなくてはいけない身だということを忘れるな。4日は働くとして、残り2日は花嫁修業として、淑女の勉強をしろ」
「…花嫁修業って、行儀見習いを兼ねているアルバイトはどう違うのですか?」
「そ、それはだな…ニコライくん説明を頼む」
困ったときのニコライさんじゃないんだけどな…。
まあ、ジェード殿下の使いで来たのならその辺りは父よりも詳しいだろう。
「簡単に言えば、アンジュ嬢の仕事は接客と給仕だけ。特に接客中心かな。他の人たちは接客部門と調理部門で別れている。中にはメイド・オブ・オール・ワークと同じように働いている者もいるけれど、此方は特殊だから気にしなくていいよ。勿論、爵位を持つ家の者は接客中心だけれどね」
家名を名乗らなくても、接客中心でやっていたら、私が爵位持ちの家出身だということがわかるではないか。
契約書の意味はなんだったのだ。
「調理部門で働きたいなら働いても私はいいと思うけれど、君はハミルトン侯爵家に嫁ぐのだから、その身体に傷を負わせることは出来ないからね」
「そうだぞ。伯爵家から侯爵家に嫁ぐのだから、身体には気を付けるんだ。傷など負ってしまえば、破棄になる可能性もあると考えろ」
「はい」
小さく返事することしか出来なかった。
ハミルトン侯爵家に望まれたからといって、身体に傷を負った状態での私を受け入れてくれるとは限らない。
そのことが頭から抜けていたので、私は兄のことをバカとは言えない。
「花嫁修業に関しては、ハミルトン侯爵家からの申し出だから無下にすることは出来ないんだ。アンジュ、頼むよ」
「わかりました」
侯爵家からの申し出を伯爵家から断ることも出来ないので、アルバイト+花嫁修業も頑張らなくてはいけない。
きっと、ハミルトン家に行ってもユーゴには会うことが出来ないのだろうな。
きっと、私がいると知れば出掛けたりするはずだ。
「わかればいい。そうだ、ニコライくん。此処に1つだけ書き加えたいのだがいいかな?」
契約書の余白を指しているが、何をする気だ。
「まあ、変なことでなければ」
「アンジュが仕事の日は、昼食を届けてもらいたいのだよ。届けることをここに書いてもいいかね」
だらしない顔をしている父を窘められる人がいない。
苦笑するしかないニコライさん。
父にドン引きする私。
何故、ここに母がいないのだ。
よくよく、考えればこの契約者を書いたのはジェード殿下のはずなのに、勝手に付け加えても本当にいいのか。
父よ、ジェード殿下に逆らう気か。
「そう言われると思っていましたよ。殿下も、予想はしていましたが、敢えて記載しなかったみたいです」
えっ、予想していたって。
どういうことなのですか?
説明を求む。
じーっとニコライさんを見つめている。
「グレアム伯爵とケイのアンジュ嬢溺愛は有名だからね」
笑いながら言われるが、どういうことだ?
知らない人たちにも私の情報が行き渡っているということか。
父を睨んでみるが、嬉しそうにだらしない顔を直そうとしないので諦めた。
そして、新たに
・出勤日に父に昼食を届ける
が契約内容に加わった。
そして、私は署名欄に署名をするしかなかった。




