給仕服に異議があります
一気に疲れた気がする。
契約が終わったなら、部屋に戻り刺繍の続きをしたいと思っていたのだが、どうやら契約以外にもやらなくてはいけないことがあるようだ。
ニコライさんに「準備が出来ました」と、告げに来たのは従者ではなく部下らしい。
部下ならこの部屋にいてもよかったのではないかと思ったが、どうやら契約中に客室で色々と何かの準備をしていたみたいだ。
何の準備だかは教えてくれないが。
「準備が出来たみたいですね」
満面の笑みを浮かべているニコライさんと父に何があった。
そのまま、部下の方と一緒に客室へと足を運ぶ。
室内では待機している侍女が恭しく頭を下げているが、その後ろにある服に目がいく。
その服は————グラッチェの給仕服
人型の人形が、膝丈までの黒のスカートに白いエプロンとキャップを纏っていた。
「は、破廉恥です」
「アンはそれを知らないでここで働きたいと言ったのか」
ここにいるはずのない兄の声が聞こえて、後ろを振り返れば息を整えている最中だった。
何故、息を整えている。わけがわからない。
「父様、あの丈は淑女として、いい如何なのですか」
父を押し退けてやって来たであろう兄をみるなり何か言いたそうだだったが、私の問いについて答えて欲しい。
父も咳払いをしているので何か言ってくれるのだろう。期待していますよ。
「ニコライくん、やはり丈は少し長めにして欲しいのだけれど」
「だと思いました。丈については、いろいろと意見をいただいています。まあ、ほとんどの方は丈を長めにしていますね」
丈を長めにしますね、じゃなくて、最初から長めにしておきなさいよ。
爽やかそうな顔をして「残念ですね」なんて、どの口がいう。
全然、残念そうじゃない。
そして、兄が何を想像したのかは知らないが顔を赤らめながら「アンの生足をユーゴ以外が見るのか」とわけのわからないことを言っている。
生足を見せるのは淑女として恥ずかしいので、私は拒否します。
「兄様、変な妄想は止めてください。それに、ユーゴにだって足など見せてことありません」
「当たり前だろう。アンの足をみたなんて知ったら俺が根性叩き直してやる」
「ケイ、期待しているからな」
兄の肩にそっと手を置く父をみて、何故ユーゴに対してそれほどまでに厳しいのだろう。
そもそも侯爵家嫡男に伯爵家嫡男が難癖をつけるなんてあってはいけないことだ。
それに、ユーゴはどこまでも紳士だ。
婚約者と仲睦まじい関係を築いている令嬢たちは、唇を重ねたりしていると聞く。
それなのに、ユーゴときたら私と腕を組むか手を繋ぐことしかしてくれない。
魅力がないのかといつも考えてしまうのに。
「アンジュ嬢、ハミルトンはきっと膝丈のスカートの方が好みだと思うよ」
なななななな、なにを言っているの。
ユーゴがそんな破廉恥なことが好きなはずがない。
どこまでも紳士であるユーゴが私にふしだらな恰好を要求するはずはない。
「ニコライさん、ふざけたこと言わないでください。だったら、あなたの婚約者にその服着せればいいじゃないですか」
「ケイくんは血気盛んでいいね。是非、ジェード殿下の護衛になってもらいたいよ」
「それは、何度も断っているではないですか」
「そうだけれど、やはり惜しい人材だよ。君はクリス殿下ではなくジェード殿下の元にいれば、もっと正当な評価を受けられるはずだよ」
正当な評価。兄はいまでも正当な評価を得ているはずだ。
それなのに、何故そのようなこと言われなくてはいけないのか。
父を見れば苦々しい表情をしている。
「クリスの元を離れるつもりはありませんので」
「そう、君の元婚約者がクリス殿下の婚約者でも…か」
私の給仕服を見に来たはずなのに、ユーゴのことからクリス殿下のことまで、私の知らないことばかり話している。
私には理解できないことばかりだ。
それでも、視界に入る給仕服のスカート丈が許せない。
給仕服(メイド服)はイギリスのを参考にしています。




