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雇用契約書にサインするみたいです

雇用契約書は、想像です。

「お嬢様にお客様です」

 ユーゴに贈る予定のハンカチに刺繍をしてると、侍女のリリアナが声を掛けてくる。

 私にお客様なんて、珍しいこともあるものね。

 鼻唄交じりに応接室に向かえば、「やあ、アンジュ嬢」とカロリーナの兄であるニコライ・リブロン伯爵令息がいる。ジェード殿下の1つ上で殿下付き事務官をしているらしい。ただの秘書だ。

 彼が私を訪ねてくることなんて、今までなかった。あっても困るが。

「本日はジェード殿下の使いでここにいるので、ここに来ているのから、あまり気を張らないでくれ」

「ニコライさん相手に気を張るほうが、難しいです」

 ニコライさんは兄と同じでガサツだ。

 そんな人がよくジェード殿下の使いをしていると感心してしまう。

 心の中で思ったことが伝わってしまったのか、苦笑いをしている。

「ほら、アンジュ嬢はグラッチェで働くんだろう。そのことでな。この雇用条件で問題ないか確認してもらいたいんだ」

「そういうことなのですね!」

「ああ、普通は店に来てもらって雇用契約を交わすんだが、殿下がきっと両親に話していないだろうって言い出してな。それで、ここまで来た。ついでに、あと少しで伯爵も来る」

 父に内緒で働けないのか。

 残念だ。父に知られたら、きっとお説教されるはず。

 だから、黙っていたのに。

 それにしても、雇用契約とか雇用条件とかよくわからないけれど、書面に起こしてくれているので、きちんと読めばいいか。

 きっと、理解できるはずだから。

 そうこう考えているとチチが慌ただしく入室してきた。

「アンジュ、ニコライくん。待たせたみたいで申し訳ない」

「いえ、此方も貴方の在宅を考えて訪問させていただいたので、休日に申し訳ありません」

「それは、問題ないよ。それにしても、我が娘が王宮ではなくグラッチェで働きたいとはな。まあ、あそこはジェード殿下の管轄だから間違いはないと思うが、契約書を見せてもらってもいいかな」

 渡された契約書をみながら、「ふむふむ」と言っているが私はその書面がみえていないので、何がふむふむなのかがわからない。

 ジェード殿下管轄だと、働いても問題ないらしい。父の考えていることがわからない。

「あのどのような方が働いていらっしゃるのですか?」

 疑問に思ったことは、兎に角聞くべきだと家庭教師に教わったので、ニコライさんに聞いてみる。

 ジェード殿下の使いなら知っていそうだから。

「伯爵家の者も何人かいますからね。殆どは商家や土地持ち、裕福な労働者階級の子、貴族なら子爵、男爵家の者が多いですね。王宮に伝がない者が多いと思われますが、アンジュ嬢と同じく自ら選ぶ方もいますので、安心してください」

 私の質問に丁寧に答えてくれるのだが、どう考えても父に対する説明じゃないか。

「流石、王太子殿下。よく出来た内容で驚かされる」

 よくわからないが、父が褒めてるので、すごいことらしい。

 父は王宮で労働担当の部署で働いているらしい。らしいというのは、兄が言っていたからだ。あれは、適当に何かを言っていることがあるから、信じられない。

「アンジュも、これをよく見なさい。お前に関係あることだからな」

 渡された雇用契約書を読み込む。


 関係ありそうなところは


  ・成人前の者は18時までの労働とする

  ・成人前の者は6時間以上の労働を禁ずる

  ・社交参加資格を持つものは、社交を優先


 まではいい。納得する。


  ・成人前の者は、()()()()()を必要とする

 

家族の送迎とは?

 兄は目立つ。本当に目立つから止めて欲しい。

 あと父は……なんか嫌だ。


  ・婚約者がいる令嬢は家名を名乗ることを禁ずる

  ・とりあえず、変装しろ


 最後の2項目どうみても手書きだよ?

 絶対、私に対して書き出したよね。

 何考えてるの??どうみても、おかしいよね??

 私だけ可笑しな契約させられていない?

 父を見ると「いい契約書だろ」と言いたげな目をしている。


Jesus(ジーザス)」と叫ばせて。

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