↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の蝕 - 破邪の刻印  作者: Daikon


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

全能の夢で宇宙を創ったら、タケシに風呂場へ引きずり込まれた

うーむ、さて、どうしたものか。

夢を見ているのは確かなのに、視界には何もない。息が詰まるような、ただの「無」だ。

こんな場所でも、何かを創り出したりできるんだろうか。……試してみるか。


思考を「創造」という概念へと集中させてみる。すると次の瞬間、暗闇の真ん中にぽつんと、 つの白い点が現れた。はっきりと見えてはいるものの、今の僕には肉体がないため、手を伸ばして触れることはできない。


僕はただその点をじっと見つめながら、取り留めもなく考えていた。もし、この点が爆発したらどうなるんだろう?


僕の思考に呼応するように、白い点が弾けた。その爆発は荒々しくも荘厳で、エネルギ 、チリ、物質、空間、そして時間そのものを噴き出し、新たな宇宙(コスモロジ )を誕生させた。だが、その創造はまだ粗削りで、不完全なままだった。


次はどうする? この世界を形作るための存在でも創ってみるか?


そう思った瞬間、先ほどと同じ原初的な虚無から、新たな存在が立ち現れた。明確な姿形は持たないものの、広大な宇宙のあちこちに数百万もの眩い目が開いていく。僕は自分が「偏在(オムニプレゼンス)」 つまり、あらゆる場所に同時に存在する概念のような存在を創り出したのだと悟った。


けれど、実体のない意識にどうやって世界を形作れるというのか?


僕の疑問に答えるかのように、その存在の巨大な瞳の つが静かに閉じた。そしてその単眼の中から、新たな命が産み落とされた。中央に鎮座する巨大な眼の周囲を、互いに逆方向へ回転する二つの巨大な環が囲み、その背には四つの大きな羽が生えている。


聖書に描かれる、本物の天使そのものの姿だった。ネットで見たことのあるあの造形だ。


僕は存在しない眼で、その神聖な存在を見つめていた。肉体も、感覚も、実体すらもない。ただ現実を自由に改変できる、至高の意識だけがここにあった。


突然、天使がその巨大な中央の眼をパチリと瞬かせた。しかし、何も起きない。


なぜだ?


そこでハッとした。僕はあらゆる場所に存在する「観察者」を創ったが、この世界に秩序や意味を与える「全知(オムニシエント)」の力を与えていなかったのだ。


そう理解した瞬間、さらに別の存在が姿を現した。


その存在は天使とは異なり、あの偏在する存在の眼から生まれたわけではなかった。天使やその親と同じように、無そのものの底から直接湧き上がってきたのだ。まるで虚無という器自体が、僕の問いに答えてみせたかのように。羽も、回転する環も、外から見て分かるような特徴は何 つない。ただ内側へと固く凝縮され、静寂を保っている。まるで存在を開始するよりはるか昔に、すでに思考を終えてしまったかのように。


天使が眼をパチリとさせた時と同じく、根拠のない直感で、僕はその存在の性質を即座に理解した。


こいつは、最初からすべてを知っている。


いま無数の眼で宇宙をくまなく観察しながらも、何 つ理解できていないあの天使のように、これから学んだり観察したりする必要がないのだ。この存在は、周囲で何かが起こるより前に、すでに完全に「知り尽くして」いる。


偏在する存在の数百万の眼が、 斉にこの動かない静寂へと向けられた。空間に、視線という名の波紋が広がるのを肌で感じる。けれど、その静かな存在が振り返ることはなかった。どこに何があるかなど、見なくても最初から分かっているのだから。


なるほどな、と僕は思った。起きている現象を表現するのに、それ以外の言葉が見つからなかった。これで、すべてを見る存在と、最初からすべてを知っている存在が揃ったわけだ。僕が「全能」の力で創造を司り、無数の眼が全宇宙の「偏在」を担い、いま生まれた存在がすべての知識を持つ「全知」を体現している。僕たちは……創造の三位 体(クリエイション・トリオ)とでも呼ぶべきなのだろうか? あらゆる「有」と「無」は、僕たち三人から始まっているのだろうか?


だが、 つのパラドックスが頭を離れなかった。


そもそも、あの白い点が弾ける前の「無」は、どうやって存在していたんだ? 爆発によって時間が始まったのだとすれば、「前」や「後」なんて言葉でどうやって説明すればいい? 空間が創られる前に、どうして無が存在できた? ということは、創造主である僕よりも前に、すでに空間と無が存在していたことになる。これじゃあ、誰から与えられたかも分からないキャンバスに絵を描いているようなものじゃないか……。いや待てよ、なんで僕はこんな場所で論理なんて気にしてるんだ? 全能の存在なら、論理なんて超越しているはず


「シン、起きろって!」


声が、宇宙の広がりを 瞬で切り裂いた。


あらゆる世界も、異形の存在も、星々も、まるで誰かがキャンバスを力任せに破り捨てたかのように内側へと巻き込まれて消えていった。 気に手足へと感覚が戻ってくる。


そうだ……僕は明晰夢を見ていたんだ。


5秒ほど格闘してようやく瞼を開けると、バルコニーから差し込む眩しい朝光と、すぐ目の前にあるタケシの心底鬱陶しそうな顔が飛び込んできた。


「おいおい、頼むから起きてくれよ! あと2時間で出発なんだぞ!」


タケシは僕の肩を揺さぶりながら、うめくように言った。


「うぅ……朝っぱらからなんでそんなにゲンナリした顔してんだよ」


僕が痛む目をこすりながら尋ねると、タケシの態度が一変した。急にハイテンションになり、僕の手首を掴むと、そのままベッドから浴室の方へと引っぱり出そうとしてきた。


「昨日の夜、楽しみすぎて 睡もできなかったんだよ! 急がないと新幹線に乗り遅れるぞ!」


「は、おい、待てって! 人で歩けるから離せよ!」


「ダメだね! どうせお前のことだからシャワ に 時間かける気だろ! 今日は俺が洗ってやる!」


「はぁぁぁ!?」


僕は叫んだ。彼は僕をほとんど引きずり回すようにして浴室へと運んでいく。どこからそんな馬鹿力が出てくるのか、それとも昨日のダメージで僕の体がまだ弱っているだけなのか、皆目見当もつかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。