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永遠の蝕 - 破邪の刻印  作者: Daikon


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10/12

急展開の東京旅行と、僕らを運ぶ2台のロールスロイス

「結衣様、お朝食をお持ちいたしました。温かいうちにどうぞ」


二十代前半とおぼしきメイドが部屋に入ってくると、できたての朝食が載ったトレーをテーブルに置いた。


「ありがとうございます! 朝早くからお疲れ様です」


私は彼女に温かい笑みを向けた。


「滅相もございません。仕事でございますので。どうぞお召し上がりください。それでは失礼いたします」


「あ、ちょっと待ってください!」


部屋を出ようとする彼女を慌てて呼び止める。


「あの……もしよかったら、今日の服を選ぶのを手伝ってもらえませんか?」


私はベッドの上に所狭しと並べられた服を前に、困り果てた様子で手振りを交えた。素敵な服が多すぎて、どれを選べばいいのかさっぱり分からないのだ。


「勿論でございます、結衣様。喜んでお手伝いさせていただきます」


彼女は丁寧にお辞儀をした。


「そんなにお辞儀しなくていいですよ!」


私は慌てて手を振った。


「それに……『様』をつけるのもやめてください。だって私たち、同年代じゃないですか。正直、ちょっと落ち着かなくて……」


仕事なのだとは分かっているけれど、ことあるごとに頭を下げられるのは、どうしても馴染めなかった。


メイドは数秒ほど躊躇し、考え込むように間を置いてから、ようやく小さく頷いた。


「そこまでおっしゃるのでしたら……分かりました」


「ごめんなさい、ちゃんと自己紹介もしてませんでしたね。私、神崎結衣っていいます。大学生なんです。あなたは?」


「森山清美と申します。しろ坊っちゃまにお仕えしております」


「坊っちゃま?」


私は首をかしげ、パチクリと目を丸くした。


「差し支えなければ……清美さんっておいくつなんですか?」


「今月で二十歳になります」


「じゃあ、なんであのバカのことを『坊っちゃま』なんて呼んでるんですか! 同い年じゃないですか」


「同い年であることは承知しておりますが、高橋家の方々に敬意を払うのが私の仕事ですので」


「気持ちは分かりますけど、頼むから『坊っちゃま』なんて呼ぶのはやめてください。こっちが恥ずかしくなってきます」


思わずクスッと笑ってしまう。


「あとで私からもあいつに言っておきますから」


「承知いたしました、結衣様」


「『結衣』でいいですよ!」


「は、はい……結衣さん」


「よし! じゃあさっそく、この服の山を攻略しましょう!」


私はベッドの上の服の山を指さし、ニッコリと笑った。


*************************************************


「しーんー! あとどんだけかかるんだよ!?」


浴室のドア越しに、タケシの苛立った大声が響きわたる。さっきはなんとか奴の手を振りほどき、 人でシャワ を浴びることに成功したものの、あいつはそれからずっとドアの外を行ったり来たりしているのだ。


「もう終わるって! あと2分待て!」


僕も負けじと大声で言い返す。


「『あと2分』だあ!? それ言うのもう3回目だぞ! ヒマすぎて死にそうなんだよ、お前のせいで遅刻したらどうすんだ!」


僕は浴室の鍵を開けて外へ出ると、濡れた髪をタオルで乱暴に拭った。


「大声出すなよ……ほら、出ただろ」


「出ただろ、じゃない! 全然準備できてないじゃん!」


タケシは不機嫌そうに鼻を鳴らすと、あらかじめ畳んでおいた服の山を僕の胸に押し付けてきた。


「俺が服選んでおいてやったから、5分で着替えろ!」


あいつの全身からは、抑えきれない興奮と焦りが滲み出ていた。昨日までは「東京なんて面倒くさい」とか抜かしていたくせに、 体なんで急にこんなにハイテンションになっているのか、さっぱり理解できない。本当に気分屋な奴だ。


「着替えるから部屋から出てってくれ。5分後にリビングでな」


僕はあいつの背中を押して部屋の外へ追いやった。


「へ、おい押すなよ! 人で歩けるわ!」


手を離すと、タケシは軽く睨みつけてから、廊下の奥へと歩き去っていった。どこまでも長く、静まり返ったその廊下は、相変わらず現実感を失わせる異次元空間(リミナルスペース)のような異様な雰囲気を漂わせていた。


宣言通り、僕は5分ぴったりで着替えを済ませた。タケシが選んだコーディネートは、意外にもかなり筋が通っていた。チャコールグレーのオーバーサイズTシャツに、ダボッとしたカーゴパンツ、厚底のスニーカー。仕上げにシルバのチェーンネックレスとリング、そしてクロスボディバッグ。少なくとも、あいつの着こなしのセンスは悪くない。


例の異様な廊下を抜け、リビングへと続く大階段を降りていく。


「5分で行くって言ったくせに、7分かかってんぞ!」


僕の足が階段の下に着いた瞬間、タケシがすぐさま噛みついてきた。


「うるさいぞバカタケシ!」


間髪いれず、結衣の岩のようなげんこつがあいつの頭に振り下ろされた。


「痛っ! 分かった、分かったから!」


頭を押さえて悶絶するタケシを無視して、あいつは僕たちの方を振り向いた。


「よし、みんないるな? 出発できるか?」


「ああ、バッチリだ」


しろが靴ひもを結び直しながら答えた。


「ちなみに、今回の旅行には清美も一緒に行くから」


「え? 清美って誰だ?」


聞き覚えのない名前に僕が首を傾げると、結衣が隣に立つスタイリッシュな服を着た女の子を指さした。


「この子だよ。森山清美さん。しろの専属メイドさんなんだって。元々はおじいさんが長年しろに仕えてたんだけど、高齢で引退したから、お孫さんの清美さんが跡を継いだらしいよ」


「へえ、そうなんだ」


僕は小さく呟いた。


「車が外で待ってる。そろそろ行こうか」


しろが旅行バッグを持ち上げながら言った。


「新幹線のチケットはもう買ってあるんだ。正直……楽しみな反面、ちょっと緊張してるよ。一般の人と一緒に新幹線に乗るなんて初めてだからね」


本気でソワソワしている様子のしろを見て、タケシがニヤリと笑う。


「はいはい、お坊っちゃまの悩みは大変ですねー。ほら、行くぞ!」


その宣言を合図に、僕たちは大邸宅の重厚な玄関を後にした。車道には、ぴかぴかに磨き上げられた二台のロールスロイスが待機していた。僕たちを駅まで送るための車だ。……ただの電車に乗るために、数千万円クラスの超高級車で駅に向かうなんて、どこか奇妙で現実感がなかった。


一台目のロールスロイスには僕とタケシ、しろの三人、そしてボディーガードが一人の乗り込んだ。二台目には結衣と清美、そしてボディーガードが二人。セレブの移動に護衛がゾロゾロついてくることくらい、今の僕にはもう驚くようなことではなかった。

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