厄介な集まり
「ぐ、ああッ!」
男の頭から血が噴き出し、傷口を必死に押さえている。今にも意識を失いそうだ。
「タケシ、お前マジで何してんだよ!? 怒りを抑えろって言ったろ!」俺は怒鳴った。
俺だって頭に血が上っていたが、冷静にならなきゃいけなかった。深呼吸だ。大丈夫、俺なら抑えられる。大きく息を吸い込み、無理やり心を静めた。
「だ、だってアイツ、俺たちを殴ろうとしてきたんだぞ、シン! なんでそんな平然としていられるんだよ!? あのクソ野郎、マジで殴りかかって——」タケシの興奮は冷めやらない。怒りのあまり言葉がうまく噛み合っていなかった。
「わかってる、わかってるから落ち着けって。ほら、深呼吸しろ」俺は奴の背中に手を当て、一緒に息を吐かせた。指示に従うとタケシの体の力は少し抜けたが、その奥でまだ怒りが渦巻いているのが伝わってきた。
「うわっ! 倒れたぞ!」タケシが指差した先で、男がアスファルトの上に崩れ落ちていた。
「シン、誰かに見られる前にトンズラするぞ!」タケシが俺の手を引っ張り、今にも走り出しそうになる。
こうなった以上、逃げるしかなかった。俺は奴に引かれるまま、しろの家に向かって走り出した。
「なあ……どうすんだよ、マジでやばいだろ俺」走りながらタケシがパニックを起こしている。
「気にすんなって。どうせろくでもない奴だ、ちょっとお仕置きされたくらいが丁度いい」俺は少しでもタケシを安心させようと、わざと軽快なトーンで言った。
だが、頭の中では思考がぐるぐると渦巻いていた。最近の奴らは、些細なことですぐブチ切れやがる。世界中がこんな傲慢な奴ばかりになったらと思うと、ゾッとした。
「タケシ、ほら落ち着け。しろの家についたぞ、もう大丈夫だ」
俺たちは巨大な門の前に立ち止まった。高さは少なくとも6メートル以上あり、俺たちを見下ろすようにそびえ立っている。
ここはしろの父親、高橋タカハシが暮らす邸宅だ。彼は日本の経済を動かすメガコングロマリット「高橋グループ」の8代目CEOである。奇妙に聞こえるかもしれないが、これほどの金持ちの家に生まれながら、しろは自分をさらに金持ちにしてくれる「お宝」を探すことに執着していた。
理由は単純だ。父親がすでに、長男の和樹カズキを9代目CEOに指名していたからだ。兄を超えたいしろは、とてつもない価値のあるものを見つけて自力で起業し、対抗しようと考えていた。まるで映画に出てくるような典型的な兄弟喧嘩だ。
まあいい、中に入ろう。好奇心が限界だった。
「聞こえますか? しろの友達の星野シンです。入ってもいいですか?」俺はインターホンのボタンを押し、中にいる警備員に声をかけた。
5秒もたたないうちに重厚な門がゆっくりと開き、息をのむような大庭園が現れた。何度も来ている場所だが、見るたびに圧倒される。まるで映画のセットに出てくる城のようだ。
「おい、ぼーっとしてないで早く行くぞ」タケシが肩を揺らし、俺を現実に戻した。
門をくぐり、屋敷へと足を進める。
「よっ、お前ら遅かったな。どうしたんだ?」
出迎えてくれたしろは、まるで王子様のような男だった。ルックス抜群、鍛え上げられた体、そして圧倒的な財力。うちのグループのアイドル的存在で、世間から見れば完璧超人だ。だが、身内である俺たちだけが、こいつがどれほど面倒くさい性格をしているかを知っていた。
「来る途中で、ちょっとしたトラブルがあってな……」タケシが鬱陶しそうに頭の後ろをかきながら呟く。
「大したことないならどうでもいいや。早く上に来てよ、見せたいものがあるんだ。カンザキユイも来てるぞ」しろが目を輝かせながら言った。
「ユイが? なんでだよ、野郎だけの集まりだと思ってたのに」タケシが退屈そうに呟く。
神崎カンザキユイは俺たちの女友達で、底抜けに明るい性格をしている。俺たち4人は同じ大学、同じクラスの仲間だった。
俺たちはしろの後を追い、2階の部屋へと向かった。相変わらずバカみたいに広い部屋だ。俺のアパートの自室が5個は余裕で入るだろう。




