理不尽
「なんであのおじいさんにいつも絡むんだよ。結構いい年だろ」
「ああ、気にすんなって」タケシは手をひらひらと振った。「俺たちいっつもあんな感じで喧嘩してるけど、結局は家族なんだから。落ち着けよ、何も起きやしないって」
確かにその通りだ。どれだけ言い争おうが、心から大切な相手なら最終的には許してしまうものだ。
「ところで、俺たち今どこ向かってんの?」タケsiが尋ねてきた。
「シロの家だよ。昨日電話があって、面白いもの見せてやるから来いってさ」
シロは僕たちの友人で、かなりの変人だ。彼の大望は大金持ちになるための秘宝を見つけることだが、その趣味のせいでテストの成績はいつもどん底。それが原因で、今は母親に外出禁止を食らっている。かわいそうだとは思うが、何を頼みにして僕を呼んだのか気になりもした。退屈なものじゃなければいいが。
「絶対に担がれてるって」タケシは鼻で笑った。「家に一人でいて死ぬほど暇だから、話し相手が欲しかっただけだろ。それよりさ、お前知ってるか」
タケシが言い終えるより前に、向こうから歩いてきた男が彼に正面からぶつかってきた。僕たちは道の端を普通に歩いていたのだから、タケシの落ち度では絶対にない。
「おい、前見て歩けよ」タケシが鬱陶しそうに言った。
「ああ? 前見て歩けだ?」男が振り返る。「ぶつかったのはそっちだろ、ガキ」
「そっちがぶつかってきたんだろ。この目ではっきり見たんだよ。嘘ついてんじゃねえよ、ジジイ」タケシの頭に血が上り始める。
「俺がぶつかったって証拠はどこにあるんだ?」男がタケシに一歩詰め寄った。
体つきはそれほど筋肉質には見えないが、男の周りには不吉な空気が漂っていた。裏社会の人間特有の、嫌な鋭さのようなものだ。
「証拠だあ? 俺が見たんだよ。それに隣の友達だって見てたんだ。ふざけたこと言ってんじゃねえぞ、クソガキ扱いしやがって」
「へえ、誰がそんな話信じるんだ?」男は腕を伸ばし、タケシの肩に重々しく手を置いた。「お前の連れなんだから、味方するに決まってんだろ。もっとまともな証拠出しな」
男の構えを見る限り、すぐにタケシに殴りかかる気はなさそうだ。だが、慎重に行動したほうがいい。
「タケシ、やめとけ。行こう」僕はタケシの腕を引いて後ろに下がらせた。
「ああ、そうだな。こんなゴミ相手に争っても一文の得にもならんしな」タケシは嘲笑うような口調で言った。明らかに相手を煽ろうとしている。
「誰がゴミだと? このクソガキが」男の怒りは今や頂点に達していた。こんなに簡単に煽りに乗るとは思わなかった。
「ちょっと、すみません。僕たちが悪かったです。ここらで収めましょう」僕は間に入り、場を宥めようとした。
だが男は聞く耳を持たず、突如拳を振り下ろすと僕のみぞおちを力任せに殴りつけた。その衝撃は、朝に妹から食らった拳の十倍重かった。
「ぐはっ……」
僕は腹を押さえ、その場に膝をついた。見た目は痩せて見えても、男の力は異常に強い。人は見かけによらないとはよく言ったものだ。だが今はそんなことどうでもいい。なぜ収めようとした僕が殴られなきゃならないんだ。
「シン! おい、大丈夫か!」タケシが屈み込み、僕の腕を自分の肩に回して立たせてくれた。
「この野郎! こいつは穏便に済ませようとしてただろ! なんで殴んだよ!」タケシがブチギレて叫ぶ。
「た、タケシ、やめろ……」僕は咳き込みながら言った。「感情に任せたら、ここでみんな余計な怪我をするだけだ」
前にも言った通り、怒りは大きな罪の一つだ。そしてこの現代において、人々の怒りと強欲はまさにピークに達していた。
「ガキのくせに、俺に威勢よく怒鳴ってんじゃねえよ」男は拳を握り締め、底知れぬ悪意を瞳に宿して歩み寄ってきた。
「おい、そこのお前たち! そこで何やってるんだ!」
巡回中の警察官がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。助かった。警官なら絶対に僕たちを助けてくれるはずだ。市民を守るのが彼らの仕事なのだから。
「これでも受け取って失せろ、クソポリ公」男は呟くと、ポケットから分厚い札束を取り出し、警官の足元に投げつけた。
「あ、あら……誰もいないみたいだな。気のせいだったか」警官は一切の躊躇もなく札束を拾い上げると、僕たちの存在など最初からなかったかのように無視して立ち去っていった。
「おい! 警官だろ! こんなヤクザから金受け取って恥ずかしくないのかよ!」タケシが背中に向かって叫んだ。
警官は聞こえないふりをしたまま歩き続け、角を曲がって消えていった。
「へっ、クソガキ共。これでどうするつもりだ?」
僕たちをあざ笑いながら、男はわずか十センチの距離まで間詰めると、倒れた僕たちを蹴り飛ばそうと足を高く上げた。
なぜこんな目に遭うんだ? こいつに蹴られれば痛い思いをする。でも、なぜだ? 僕たちは何も悪いことをしていないのに、どうして痛みを耐えなければならない?
これがインド教で言われる「カリ・ユガ(暗黒時代)」なのか。人間が欲望や傲慢という幻影に目を眩まされた時代。この時代では、真実の道を歩む無実の者が苦しみ、こんな悪党どもが人を支配して笑っている。
蹴られる瞬間を覚悟し、僕がそんな思考に没頭していた時、タケシは全く別の行動に出た。
彼にはおとなしく蹴られる気などサラサラなかったのだ。本能のまま、路地の壁に立てかけられていた重い鉄パイプを掴むと、全身の力を込めて振り抜き、男の頭部に叩き込んだ。タケシは腕っ節に自信があるわけではないが、鉄パイプという武器はあまりにも強力なハンデだった。




