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後宮の大華ー蟻は死せる花に忠を捧ぐー  作者: 幻燈 カガリ


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8/12

第 捌 話 「 後宮の主 」






「白瑛様、どう致しますか?」


 前へと進み出た女官は手を合わせた。

 頭を下げ、白瑛へと忠言する。


 その声で、今から何が行われるのか理解した。

 この蟻のような頭でも。


「これが、あの大華が目を掛けていたと?」


 言葉では把握したように言うが白瑛は私を見ようとはしない。


「はい、そうでございます。白瑛様」


 白瑛の傍に控えている女官が口を動かした。淡々と温度を感じられない声。私を取り囲むように並んでいる女官。その者たちが注ぐ瞳は、白瑛と同じ。私のことを人とは思っていなかった。


「こんな畜生を、か」


 鼻にかけた声。

 何が面白いのか、白瑛の肩は揺れた。


「わらわには分からぬな。こんな醜い者に気をかけるなんて、」


 声に嘲笑が混ざる。私を使い乱華を蔑んでいるとすぐに把握した。


「やはり異国の血の者は、───頭が浅はかなようね」


 許せなかった。私のことならどうと言えばいい。何も知らぬのに、乱華さまのことを悪く言うことがこの上なく耐えられない。



 床に接した指先が白へと変わる。小刻みに震え出す。床に突っ伏した身体を上げる。奥歯を噛み締め、白瑛を睨む。



「……ない」


 私の言葉が溢れた。激情が入り交じる。感情が抑えられるわけがない。あの方を侮辱されたのだ。私は我慢など出来る利口なモノではない。蟻も女王蟻を守るためなら噛みつくことを選ぶ。


 それは私にとっても同じ。何度繰り返しても、殺されることになってもこの選択をするだろう。


「───乱華さまを、侮辱するな!!」


 掠れた声に白瑛の片眉が跳ねる。不愉快だといわんばかりの顔を見せた。


「お前、白瑛様になんという口をきく!」


 背中に強い衝撃が走った。床へと押付けられ、肺が押し潰される。苦しい。


 手を前へと出す。私の爪は床を、掻く。少しでもあの女に喰らいつこうともがいた。


 それ許さぬ女官は私の指先を容赦なく己の足で潰した。硬い靴が肉に食い込むのを骨で感じ取る。


 虫を屠るかのように。


 痛みなど、あの方を失った胸の痛みに感じればこんなもの無に等しい。


 苦しみを、痛みを怒りに変え、私はあの女を見上げる。


「なんて子なの!?」


 私を潰す女官の足が弛む。私は隙を見逃さない。腕を立て、床を這いずる。あの女へと近付くために。


 そこに足音が加わった。

 軽くはない音。この音に私は聞き覚えがある。


 だが、わたしは目の前にいる者から目を離さない。

 乱華さまを侮辱したあの女を。



「────なんの騒ぎだ」




 轟くような低い声。空気が重く、身体にのしかかる。蟻にとっては同じ空気を吸うことはままならない。


 この世の全てを手に入れ、鳥籠に唯一入ることを許された男子。



「陛、下……」


 零れた吐息。

 顔を隠していた扇が剥がされ、妖魔の瞳が激しく揺れている。白瑛はその場から立ち上がることも出来ない。


 突き進む皇帝は私を一瞥するが、眉ひとつ動くことはなかった。皇帝の視線は白瑛へと流れる。


 皇帝のまとう赤い衣が目についた。

 あの方を、偲んでいるというのか。



「何をしていたのだ、白瑛」



 ガタ。


 白瑛の肩が跳ね上がった。


 絹衣が小刻みに震えている。

 顔色が更に悪くなり、視線が下を向く。



「……穢らわしい」


 皇帝の顔は歪む。

 先程、私に白瑛が向けた瞳と同じ。

 その蔑む瞳が白瑛へと注がれる。



「地に、堕ちたな。白瑛よ」



 その声は酷く、冷たかった。








お読み頂きありがとうございます。

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次回もお楽しみに♡

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