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後宮の大華ー蟻は死せる花に忠を捧ぐー  作者: 幻燈 カガリ


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7/12

第 漆 話 「 白き妖魔 」







 紅く燃えるような花と白い清廉な花。

 乱華さまは朝露に濡れたふたつの花を眺めていた。



 どこか寂しげで儚く見えた乱華さまの横顔。私は乱華さまが、煙のように消えてしまうのではないかと思った。



「……乱華、さま」



 気が付けば勝手に私の口が動く。

 乱華さまをこの世に結びつけるかのように。



「……ああ、阿梨か」


 乱華さまはそう言葉を呟くと、凛とした顔を私に見せる。


「仕事が、終わったのか?」


 私の手元を見て乱華さまがそう仰った。乱華さまに気にかけて貰えたことがこの上なく嬉しくて、キツかった仕事など忘れて顔が綻んでいく。


「先ほど、終わらせてきました」


 私は乱華さまのお傍へと侍る。隣へと立つ私を乱華さまは咎めない。


「そうか」


「乱華さま、こちらの花はなんですか?」


 乱華さまが見ていた花が知りたくて私は尋ねた。何も知らない無垢な蟻は知恵を求める。その相手が蟻にとって本来は手の届かない尊き者なのに。


「牡丹だ」


「ぼ、たん?」


 私は聞いた言葉を反芻する。美しい花だった。

 紅い牡丹はまるで乱華さまのよう。後宮に咲いた大華であるこの方そのもの。


「まるで、乱華さまみたいですね」


 私はそう乱華さまに笑いかけた。乱華さまは、私にその言葉に目を丸くする。だが、その顔はすぐに影が差す。乱華さまは白い指先を牡丹へと伸ばした。


「……花は、枯れたら終わり」


 乱華さまは小さく囁いた。その顔は今でも私の記憶に強く残っている。


 静寂が私たちを包む。

 音は無く、まるで私たちしかこの世界にいないかのような感覚に陥る。


 いや、乱華さまのお姿に魅入られていたのかもしれない。


「阿梨。毎日、私のために良く働いてくれて感謝する」


 静寂を解いた乱華さまのお声。

 大勢いる蟻一匹のために、乱華さまは礼を述べる。それがどれほど異質で、どれほど光栄のことなのか、あの時の私は全くといって気づいてはいなかった。





 ────────


 ─────


 ──



 開かれた扉。そこから漂う、鼻が曲がるほど炊かれた香。私は思わず、顔を顰めた。



「───白瑛様、かのものを連れて参りました」


 女官は頭を下げる。

 強気に引かれた紅。蒼白い肌にあの紅は不釣り合いのように見えた。


「何をしているのっ!早く頭を垂れよっ!!」


 視界が落ちる。いや、身体が落ちていく。

 受け身が取れない私の身体はそのまま硬い床へと叩きつけられた。


 衝撃で息が止まる。


「うっ……」


 鈍い音が身体から鳴った。



 這いつくばる蟻は天を仰ぐ。

 そこにいたのは、白き衣をまとった天女。


 ───ではなく、天女の皮を被った妖魔だった。



 人を見る目ではない。虫けらを見るような目で私を見下す。


 優雅に仰ぐ扇から覗かれた瞳は、古き思い出を呼び起こした。自分が何者なのかを知らしめられる。


「わらわを拝むなど、畜生などに許してはおらぬわ」


 そう、冷たく吐き棄てられた。








お読み頂きありがとうございます。

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次回もお楽しみに♡

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