第9話 たぬたぬ 2
囲炉裏端でおじいさんがおばあさんに話しかけました。
『たぬたぬは芋が好きだからねぇ。今年は芋をたくさん植えようか』
『おじいさんはたぬたぬに甘すぎだ。芋といっても種類があるからね。どれを増やすんだい?』
『そうだねぇ……サツマイモはどうだい?』
『ああ。それがいい。サツマイモは、よく育つからたくさん採れる』
たぬきはもっふもふの尻尾をふわんふわんと動かしながら、おじいさんとおばあさんの話を聞くのが好きでした。
おじいさんとおばあさんは、たぬたぬに甘い。
甘々です。
溺愛です。
たぬたぬは、畑仕事にもついていきましたし、ご飯を食べるのも一緒。
夜は一緒に寝ました。
たぬたぬの寝床は土間にありましたが、おじいさんとおばあさんは『内緒だよ』とか『今日は特別』とか言いながら布団のなかに入れてくれましたからね。
たぬたぬが一匹寝をしたことは、あまり記憶にありません。
そんなある日。
おじいさんがパタリと動かなくなってしまいました。
『ああ、おじいさん。わしを一人おいて先に死んでしまうなんて』
おばあさんは泣いていました。
おじいさんは動きません。
たぬたぬには【死ぬ】ということがどんなことなのか、よくわかりませんでした。
動かなくなったおじいさんの布団に潜り込み、添い寝をしてみました。
いつもとは違って、たぬたぬのもふもふの毛をもってしても、おじいさんの体が温かくなることはありません。
たぬたぬはキューンと鳴いて、おじいさんの体に鼻を寄せました。
そこにいつもの匂いはありませんでした。
おじいさんの体が消えて、たぬたぬとおばあさんとの生活が始まりました。
おばあさんは不愛想ですが、たぬたぬを片時も離しませんでした。
そしてたくさんの食べ物をくれました。
おじいさんがいなくなってしまいましたが、おばあさんがずっとそばにいてくれましたから、たぬたぬは寂しくありませんでした。
それからしばらくたったある日のこと。
たぬたぬは、たくさんのお芋に囲まれていました。
たぬたぬはお芋が大好きですから、食べました。
でも変ですね。
いっぱいいっぱい大好きなお芋があるのに、思ったほど食べられないのです。
おばあさんが泣いています。
どうしたことでしょう。
不思議に思いながらたぬたぬは、おばあさんを見上げると、コテンと横に転がりました。
たぬたぬは知らなかったのです。
たぬきにも寿命というものがあって、いずれは死ぬのだということを。
『たぬたぬっ。たぬたぬ……』
おばあさんの悲痛な声を聞きながら、たぬたぬは死にました。
死にましたが、たぬきはぽやんとしていますからね。
自分の体の側で、ぽかんと立っていました。
おばあさんは、しばらくたぬきの体を見下ろしていましたが、涙を拭うとザッザッザッと大忙しといった雰囲気でたぬたぬの毛を集めました。
そして立ち上がると、両手のひらでクルクルと回しながら、まぁるい玉にしました。
それを祠のなかに入れると、かがんだおばあさんは両手を合わせて話しかけます。
『たぬたぬ。お前は一匹じゃ迷子になってあの世にもいけんじゃろ。わしが死んだら一緒に連れてってやるけん、わしが死ぬまでココで大人しくまっておれ』
たぬたぬは、おばあさんが言う通りに祠のなかへとはいりました。
たぬたぬにはおはあさんがどうしてそうしたのかは分かりません。
おばあさんは時折来て、祠の前に芋や花を供えていきます。
『わしが死ぬまで、そこで大人しくしておれよ、たぬたぬ』
おばあさんがそう言うので、たぬきは大人しく祠の中で待つことにしたのです。




