第10話 たぬたぬ 3
たぬたぬは魂だけの状態で、祠の中でぼぅとして過ごしました。
体がありませんから、食べることはできません。
おばあさんが美味しそうなお芋を供えてくれても、食べられないので見ているだけです。
たぬきはとても暇でしたが、おばあさんが待っていろと言うのですから、ぼんやりぽやぽやしながら待ちました。
幽霊って暇ですよね。
他の幽霊はどうしているのでしょうか?
たぬきは祠から出られないので知ることはできません。
でも他の幽霊も暇だと思うのですよ。
食べることも、眠ることも必要がないですし。
踊ってみても、誰も見てくれないのです。
誰も見てくれないということは、誰も笑ってくれないということなのです。
暇ですね。
ある日のこと。
たぬきが祠のなかでぼぅとしていると、神さまが休憩のために立ち寄りました。
『たぬき……』
『はい。たぬたぬは、たぬきです』
神さまは白いおヒゲを右手で撫でながら、たぬたぬを見下ろしています。
左手には、いい感じの杖をもっています。
いいですね、そのいい感じの木の棒。
たぬたぬにくれませんか?
ダメですか。
そうですか。
しかたないですね。
たぬきはこんなにかわいいいのに。
『お前は死んだのだろう? どうしてこんなところにいるのだ?』
『おばあさんが、待っていなさいというので』
たぬきは説明しました。
たぬたぬの話を聞き終わると、神さまは白いおヒゲを撫でながらコクリとうなずきました。
神さまは祠にちょっと立ち寄っただけだからか、立ったままです。
そのいい感じの杖、便利そうですね。
だからたぬきに……いえいいです。
ちょっと神さまに睨まれてしまいました。
神さまは溜息を吐きながら言いました。
『そうか。たぬきはうっかりさんだからな。迷子になってあの世に辿りつけない可能性はゼロではない』
『はい』
神さまからのお墨付きをいただいてしまいました。
たぬたぬは迷子になるのは嫌なので、祠のなかで過ごすのはとっても暇で退屈ですが、言われた通りに、おばあさんが幽霊になる日を待つことにします。
『だがな、たぬきよ』
『はい』
神さまは勿体ぶって言葉を切り、たぬきをじっと見ています。
にらめっこですか?
たぬき、得意ですよ、にらめっこ。
たぬたぬは神さまをじっと見つめ返しました。
『なにかがあっても、お前は何もしてはいけないよ』
『なにかってなんです? たぬたぬは、なにもできませんよ?』
たぬきは意味が分からず、首をコテッと倒して神さまを見上げます。
こうすると、たぬきはとてもかわいくなるのです。
神さまは笑って言います。
『そうだな。だからお前は何もしないで、祠のなかにいればいいのだ』
本当にそうだな、と思ったので、たぬきはコクリとうなずきました。




