第8話 たぬたぬ 1
この家は懐かしい匂いがします。
たぬたぬは、こうして芋山さん家の子になりました。
たぬたぬはあやかしです。
でも最初からあやかしであったわけではありません。
たぬたぬは、山の中で生まれました。
気付いたときには一匹きりで、キューンキューンと鳴いていました。
お腹が空いて、とても空いて。
一匹きりで、とてもとても心細くて寂しくて。
キューンキューンと鳴きました。
『ありゃ、こんなところで何してんの、アンタ』
『どうした? ばーさん』
『ほら。見てごらんよ、じーさん。こんなにちびっこいたぬきが』
たぬたぬは、痩せてはいるけれど温かな手に掬い上げられるように持ち上げられました。
目の前にあったのは、しわしわの男性の笑顔です。
『おや、迷子かい? めんこいな』
『ダメだよ、じーさん。下手に抱っこなんてしたら愛着が沸いて連れて帰りたくなるじゃないか』
『ふふふ。ばーさん。もう手遅れだ』
『もう、じーさんってば』
おばあさんはおじいさんに文句を言いながらも、たぬたぬの頭をこちょこちょとくすぐるように優しく撫でてくれました。
こうしてたぬきは、おじいさんとおばあさんに拾われて育てられることになったのです。
『名前はどうしようか?』
『たぬきだからたぬたぬでいいんじゃないか?』
『おじいさんがそういうのなら、そうしましょうか。アンタは今日から「たぬたぬ」だよ』
たぬたぬはおじいさんから名前をもらい、おばあさんに頭をポンポンとされました。
小さいたぬきだった、たぬたぬは、おばあさんとおじいさんから重湯をもらい、大きなたぬきになりました。
おじいさんとおばあさんの家は、貧しい農家でした。
ですが山の実りは豊かで、たぬたぬがお腹を空かせるようなことはありませんでした。
たっぷりのご飯で、たぬきの毛はもふもふしています。
おじいさんとおばあさんが代わる代わる撫でるので、たぬたぬは毛並みも綺麗。
何よりもたぬきはかわいいですから、おじいさんも、おばあさんも、たぬたぬを愛でずにはいられないのです。
なんと罪なたぬきでしょう。
まぁ、たぬたぬのことなんですけどね。
そんなこんなで愛されているたぬたぬは、ご飯に困ったことはありません。
『畑仕事もしないといけないが、食べ物を山で探してこないと足りないな』
『おじいさん、もう若い時とは違う。山に入るなら皆で行ったほうが安全だ』
『ああ、分かってる。たぬたぬも一緒に行こうな』
たぬきはおじいさんに向かってコクリとうなずきました。
『はは、たぬたぬはちゃんと反応して偉いな』
『たぬきなんだから、ちゃんと内容を理解してうなずいているわけじゃないよ』
『いやいや。たぬたぬは賢いから』
おじいさんとおばあさんの話題の中心は、いつもたぬたぬです。
それはともかく、たぬきはワクワクしました。
たぬたぬは畑仕事についていくのも、山についていくのも大好きでした。
それはたぬきが食べられそうな物を見つけると、たぬたぬにくれるからです。
たぬきは雑食ですから、カキやミカンも食べますし、ミミズやムカデ、カミキリムシといった虫も大好き。
おじいさんも、おばあさんも、それを知っているから何か見つけると、たぬたぬにくれるのです。
だからたぬたぬは、2人と山に行くのが好きでした。




