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たぬきはもうお終いです ~ 祠を壊したら、あやかしたぬきの世話係に任命されてしまいました  作者: 天田 れおぽん @初書籍発売中


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第5話 団らん

『たぬきはもう、おしまいですぅ~……』

「はは。もう最初から終わってるじゃん。お前、あやかしだし」


 オレは笑いながら、魂が抜けたようになったたぬたぬを右肩に乗っけて、古い廊下をギシギシ音を立てて居間へ向かった。


 しっかり洗って、しっかり乾かしたから、たぬきはふわふわだ。

 風呂上りのいい匂いをさせたたぬたぬなら大丈夫だろうと、オレは食事を摂るために居間へと向かった。

 建物同士を繋げる廊下は庭に面していて、簡単に外せそうなガラスのはまった木枠の引き戸がついている。

 庭は広いが、チョロチョロと雑草の生えたむき出しの土が広がっていた。

 家の敷地を主張するように所々に建てられた小屋は、農機具の納屋だったり、収穫物の納屋だったりするが、ぽっと出の住人であるオレには区別がつかない。


『うぅ~……たぬたぬは、たぬたぬは……』


 風呂上りでいい匂いのするたぬきは、たぬきなりの葛藤があるらしく、オレの方の上でモフモフボディをポフポフと細かく揺らしながら悶えている。


 コイツ器用だな?


 などと思いながら居間の扉をガラッと横に引く。

 ごちゃごちゃと物が乗っかった箪笥に囲まれた四角いコタツには、既に頬を赤くしたじーちゃんが座っていた。

 酒の入ったコップを右手に持ったじーちゃんはオレを見上げると、上機嫌といった調子で口を開いた。

 

「お、来たな。修司。ワンコも、もふもふになって、可愛いなぁ~」

「キュッ」


 たぬたぬは自分が褒められたことに気をよくしたのか、可愛らしい声を上げた。


 お前、たぬきなりの葛藤はどうした?


 オレは突っ込みたかったが、面倒なのでやめた。


「ははは。可愛い、可愛い。ほら、じーちゃんトコにおいで。撫でてあげよう」

「キュッ」


 オレはじーちゃんの要求に従って、じーちゃんの膝の上にたぬたぬを置きながら腰を下ろした。


「おーら、もふもふもふもふ……気持ちいいか? ハハッ」


 じーちゃんは左手でワシワシとたぬたぬを気分よさそうに撫でた。

 たぬたぬもまんざらではないようで、大人しくじーちゃんの膝に収まっている。


 だから、たぬきなりの葛藤はどこへいった?


 オレは突っ込みたかったが、もっと気になる話題を口にした。

 

「じーちゃん。晩御飯なに?」

「今日は天ぷらじゃないかな。山菜採ってきたし」


 言われてみれば台所から揚げ物のよい匂いがする。


「山菜かぁ。野菜もいいけど肉もいいなぁ」


 オレが呟くと、じーちゃんがカッカッカッと声を上げて笑った。

 たぬたぬの体が一瞬、ビクッとなったような気がするが大人しく撫でられている。

 たぬたぬは、じーちゃんの手が気に入ったようだ。


 じーちゃんの手はデカくて温かいからな。

 わかるよ、うん。

 

 じーちゃんはコップに入った酒をゴクッと飲み干して、ぷはっと息を吐きながらワハハと豪快に笑った。

 

「食欲が出たみたいだな。散歩に行ってよかったな、修司」

「うん」


 じーちゃんが嬉しそうに笑うのを見ながら、そーいやオレは今朝まで引きこもりしていたな、と思い出す。

 暗く部屋に引きこもるオレを見て、じーちゃんも感じるものがあったのだろう。

 何も言われなかったが、じーちゃんだって娘を亡くしているのだ。

 悲しくないわけがないし、寂しくないわけがない。

 

 情けなく引きこもるオレに、言いたいことも色々とあっただろう。

 でも用意してもらった食事はちゃんと食べていたし、風呂にも入っていたから、うるさいことは言われなかった。


 たぬたぬにご飯をあげるためにスッと居間へと来てしまったオレだが。

 よくよく考えてみれば、じーちゃんたちと食事を摂るのは久しぶりだ。

 

 じーちゃんは愉快そうに笑いながら、たぬたぬの頬をこにょこにょとこねる。

 

「こいつは何を食べるのかな?」

「たぬたぬは……なんでも……食べるかな?」

「でも犬にくれちゃダメなもんもあるだろ? たまねぎとか」

 「ん……よくわからん……」

 

 オレはテキトーに誤魔化した。

 たぬたぬは、たぬきは何でもいただきますが、というキラキラした表情を浮かべてオレを見ている。


 だが今のお前は犬だ。

 犬なんだ。

 だから犬が食えないものは食うな。

 食いたいときには、内緒で食え。


 そんな気持ちを込めてオレはたぬたぬを見たが、気持ちが伝わっている感じはない。


「お待たせ」


 ばーちゃんが大きなお盆を持って居間に入ってきた。

 お盆の上には山盛りの天ぷらが載っている。


「ワンコ……いや、たぬたぬだっけ? アンタには芋をあげるよ」


 ばーちゃんはそう言いながら、小鉢に乗ったサツマイモを畳の上に置いた。


「ふかしたのと、生と、どっちがいいかわからないから、両方用意してみたよ」


 たぬたぬはキラキラとした表情を浮かべて、小鉢とばーちゃんを見比べている。


「いいよ、食べな」

 

 ばーちゃんに促され、たぬたぬはじーちゃんの膝から下りて小鉢のなかにあるサツマイモをクンクン嗅いでいる。


「ばーさん、今日の天ぷらも輝いてるねー」

「そりゃ、じーさん。料理人の腕がいいからさー」


 じーさんとばーさんは顔を見合わせて豪快に笑った。

 オレは天ぷらのチェックを始めた。

 山盛りの天ぷらは、タケノコにスナップエンドウ、アスパラガスにタラの芽、フキノトウと賑やかだ。

 

 フキノトウは苦手だが、タラの芽は好物だ。

 オレは遠慮なく箸を持った手を伸ばした。

 

「タケノコも湯がいたのがあるけど……この子は、タケノコを食べるかね?」

「ん~……」


 ばーちゃんに言われて、オレはたぬたぬの方を見た。

 あきらかに輝いている。

 どうやら好物のようだ。


「食べる、かも? あげてみていい?」

「ああ。ちょっと待ってな。持ってくるから」


 ばーちゃんは軽やかに立ち上がると台所のほうへ向かった。


 じーちゃんもばーちゃんも元気を絵に描いたような人たちだ。

 

 でもなんでオレの父さんと母さんはココにいないんだろう?


 オレの箸がちょっとだけ止まった。

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