第3話 家族に紹介するなら彼女がよかったな
オレは、たぬきのたぬたぬを抱きかかえて、ばーちゃん家へと戻った。
ばーちゃん家は、とても簡単な作りの建物だ。
木と漆喰で出来た一階建ての簡素で素朴な古い家。
とはいえ小さいというわけではなく、田舎の広い敷地を活かして、渡り廊下で何軒かを繋げたような作りになっている。
「ただいまー」
オレは防犯能力などほぼ無い木枠にガラスのはまった玄関ドアを、ガラガラと音を立てて開けた。
するとちょうど帰ってきていたばーちゃんと鉢合わせした。
「おかえり。お散歩はどうだった?」
玄関を入ってすぐのところは土間で、汚れ落としの流し台がある。
ばーちゃんはそこで採ったばかりの野菜を洗っていた。
野良着を着たばーちゃんは、19歳のオレから見れば老人ではあるが、背筋が伸びたシャンとした人だ。
そのくらいでないと畑仕事などできない。
ばーちゃんは髪こそ白いが、オレなど片手でぶっ飛ばされそうな引き締まった細マッチョタイプだ。
そのばーちゃんが、オレの腕のなかを見て動きを止めた。
「ぇ……それは?」
ばーちゃんがたぬたぬを指さして聞く。
オレは簡単に説明しながら聞く。
「拾った。犬、飼っていい?」
「……犬?」
ばーちゃんが首を傾げて、オレの腕のなかをまじまじと見ている。
確かにたぬたぬはたぬきだが、たぬきだと色々と面倒だろ?
そこは犬ってことにしとこうよ、ばーちゃん。
「きゅ~……わきゅん」
オレの腕のなかでたぬたぬが吠えた。
惜しい。
犬はワンワンだ。
惜しいな、たぬたぬ。
「ん、犬だね」
お、ばーちゃんは納得したようだ。
ニコッと笑ったばーちゃんが、たぬたぬのもけもけした頬をツンと突いた。
「犬か。犬かい」
「うん。犬。飼っていい?」
「いいよ。犬くらい。その代わり、きちんと面倒みるんだよ」
「うん」
オレはコクリと頷いた。
つられてたぬたぬもコクリと頷く。
「ははっ。可愛いもんだね」
ばーちゃんが笑った。
こうして無事、オレはたぬたぬを飼うことに成功した。
そこに見慣れた禿げ頭がやってきた。
「お、楽しそうだな」
「じーちゃん。犬。飼う」
オレはたぬたぬの両脇を掴んで、禿げ頭のマッチョに向かって掲げた。
「お、犬か。……犬? 犬か」
じーちゃんもばーちゃんのように首を傾げてたぬたぬを眺めていたが、納得したようだ。
「犬なら動物病院へ連れて行けよ。ちゃんと狂犬病のワクチンとか打っとかないとな」
「あー、病院……」
じーちゃんに言われて、オレは気付いた。
動物飼うなら動物病院へ行くのは当然だよな?
うっかりしてたわ。
たぬたぬはオレの腕のなかで首を傾げている。
あー、そうか。
あやかしは動物病院行かないもんな。
初耳か、病院は。
「そうだねぇ。田舎は近所付き合いが濃くて、ペットの管理もわりかしうるさいからね。ちゃんと動物病院へ連れてっておやり」
「うん、わかった」
ばーちゃんにも言われて、オレは頷いた。
正直、動物病院とかメンドクサイ。
「はは。動物病院と聞いても、まだ怯えないな?」
「やめな、じーさん。犬に変なことを教えないの」
揶揄うようにたぬたぬを覗き込むじーちゃんを、ばーちゃんが窘めた。
「そーいや、名前は決めたのかい?」
「こいつ? ん。たぬたぬ」
ばーちゃんが聞くので、オレはたぬきの名前を教えた。
腕のなかでたぬたぬが「きゅーん」と鳴いた。
「はは。たぬたぬか。犬なのにたぬたぬ」
じーちゃんにウケた。
「たぬたぬか。いい名だねぇ」
ばーちゃんは褒めた。
「きゅーん」
たぬたぬは嬉しそうだ。
オレは……家族に紹介するなら彼女がよかったな。
彼女、出来る予定はゼロだけど……未来の可能性は無限大だっ!
「はは。修司、表情が明るくなった。よかったな」
じーちゃんがニカッと笑う。
「修司。飼うならたぬたぬを洗っておやり。ついでにお前も風呂に入っちまいな。泥だけじゃないか」
そうだ。
オレは土手を滑り落ちたんだった。
それに祠に体当たりしたから、青あざくらい出来ちゃったかもしれない。
「あー、じゃ。洗ってくる」
オレはたぬたぬを抱えたまま、風呂場へと向かった。




