第15話 センセイよろしくお願いします
獣医さんといえば、可愛かったり、綺麗だったりする女医さんを想像しても許されるだろう。
だが呼ばれて入った診察室には男性医師がいた。
背が高くてがっしりとした大柄の男性だが、顔が小さくて女性のように整っている。
だが残念!
オレが期待していたのはそこじゃない。
ちょっとだけガッカリしても許されるはずだ。
医師はサラサラの長い黒髪をひとつにくくっていて、銀縁の眼鏡をかけている。
眼鏡の奥にある目は優しい笑みを浮かべていて、いい人そうだ。
看護師さんは女性だ。
だが残念!
若くはない。
当のたぬたぬはといえば、見知らぬ人たちに囲まれていても物怖じする様子もなく、ご機嫌だ。
『人~。知らない人~。でもなんだか美味しそうな匂いのする、動物が好きそうな人~』
「おいこら。落ち着け」
腕のなかで足をばたつかせて暴れている、というか、ぽふんぽふんと全身を揺らしながらはしゃいでいるたぬたぬを落とさないように抱きながら、オレは銀色の診察台に向かって歩いた。
「こちらへどうぞ」
看護師さんに言われるまま、金属の診察台の上にたぬたぬを乗せる。
『えっとぉ……なんですか? コレは?』
診察台に映る自分の姿を見たり、クンクンと匂いを嗅いだりと忙しい。
医師はたぬたぬを見て笑いながら言う。
「はは。大興奮ですね。可愛いた……」
「犬ですっ」
オレは速攻で突っ込んだ。
「ん……犬? ……犬ですねぇ」
医師はたぬたぬを抱き上げたり、撫でたりしてぶつぶつ呟いている。
「で、この子はペットショップで?」
「いえ。拾ったんです」
オレの言葉に、医師は銀縁眼鏡の奥の目を大きく見開いた。
「拾った……た……」
「犬ですっ。拾った犬なので、狂犬病ワクチンとか予防接種をお願いしますっ!」
「あ、はい」
オレは勢いで押し切って、たぬたぬの診察をしてもらった。
医師はたぬたぬの口のなかをチェックしたり、耳の中を見たり、爪を確認するなど全身くまなく診てくれた。
「あぁ、拾ったにしては綺麗だね。ノミやダニの駆除は必要ないみたいだけど、予防はしたほうがいいから……最初だから、念のためにレントゲンもやっとこうか。血液検査もしとこうねぇ」
「はい、お願いします」
幸いなことに、たぬたぬの体に特別なトラブルはなかった。
でも予防は大事だからね。
ワクチンもしっかり打ってもらった。
期待の初注射への反応は。
『……ん?』
というオトボケなものであり、オレは少々肩透かしを食らった。
医師の腕がいいと、こんなこともあるねっ。
まぁ暴れられるよりはいい。
でもちょっと反応悪くてご不満だ。
ご不満といえば、初診なのと、ワクチン接種や基本的な健康診断などを受けたため、費用はそれなりにかかった。
受付のお姉さんに勧められるまま、ペット保険にも加入した。
オレはベリベリと音を立てて財布を開く。
なかには、ばーちゃんが持たせてくれた現金5万円とクレジットカードが入っている。
オレも金は持っているからと遠慮したのだが、その金は大事な遺産だから自分の将来のために使いなさい、とばーちゃんに諭された。
動物病院ってお金がかかると聞いてはいたけど、5万円なんて大金だ。
そこまではかからないだろうと思っていたけど、残金はわずかとなった。
「田舎といっても、首輪とリードくらいは用意したほうがいいですよ。あとペットフード選びにも気を付けてくださいね。昔みたいに味噌汁をご飯にかけたエサを食べさせたりしていたら、長生きできませんからね」
受付のお姉さんにも言われたし、医師にも似たようなことを言われていた。
オレは素直に忠告へ従うために、ちょっと大回りになるがホームセンターに寄って行くことにした。




