第14話 動物病院
動物病院はばーちゃん家から自転車で30分ほどの距離にある。
自転車で30分の距離は、田舎ではすぐ近くと言っていい。
田舎で動物が多いからかな、と思いながらオレは自転車を漕いだ。
動物病院は意外と近かった。
たぬたぬは、ブルッと全身をもふもふっと震わせてつぶやく。
『こわかったぁ~』
「なんだよぉ~、たぬたぬ。その顔は。とんでもねースリルとサスペンスに遭遇しました、みたいな顔すんなって」
『だってぇ~』
前かごにいるたぬきは不満げな様子でオレを睨んだ。
不本意だな?
「さっきまで歓声あげて喜んでたじゃないか」
『あれは悲鳴ですぅ~』
たぬたぬは、前かごのなかでブツブツ言っている。
来るときには下り坂だったし、裏道を使ったから15分で着いた。
傾斜のキツイ坂道だったが、自転車で楽々と下りてこられる程度だ。
ドッスンがったん、縦横斜めに揺れたような気がするが、オレの華麗な運転テクニックでコケることなくスルッと到着。
ここは褒められるべきところだろうが、まぁいい。
オレは広い駐車場の片隅にある駐輪場へ自転車を止めると、前かごからたぬたぬをヒョイと抱き上げた。
「ご機嫌直せよ、たぬたぬ。もう着いたし。目的地はココだよ」
田舎の土地を贅沢に使った動物病院の建物は、まだ新しくて清潔そうだが、こぢんまりしていた。
『安全そうな建物~。たぬきは安全な場所がすきですぅ~』
たぬたぬは嬉しそうに動物病院の建物に向かって手を伸ばしている。
はっはっはっ。
たぬたぬ。
お前はまだ知らない世界が、そのなかにあるのだよ。
あの建物を後にしたとき、同じ気持ちでいられるかな?
などとオレは1人、なんとなーく悦に入りながら、たぬたぬを小脇に抱えて動物病院の入り口をくぐった。
『おおっ。扉が勝手に開いたっ』
たぬたぬは、いちいち感動して声を上げている。
もちろんオレ以外の人間にたぬたぬの声が聞こえるわけではない。
「ぽきょ~」とか「きゅぅぅぅぅぅんっ」とか鳴き声が聞こえているだけだ。
ばーちゃんたちとは違って、ココには他人しかいないわけだから、オレもたぬたぬへの反応に気を付けなければならない。
引きこもりあけの変人扱いは、キツイからな!
『清潔なにおいがしますぅ~』
「ん~消毒とかの匂いかな?」
他の患者さんの匂いとかもあるから、オレには何とも言えん。
ここは動物病院。
他の患者さんは、人間以外の生き物だ。
オレの鼻は当然のように、患者さんたちの匂いの方を強く感じてしまう。
だから清潔というよりも、ほっとする生々しい匂いをオレは感じた。
たぬたぬは興味深そうにキョロキョロと他の患者さんたちを見ている。
およそのお家のワンちゃんとかネコちゃんとかのほうが、大人しく落ち着いているように思えて、オレは勝手にバツの悪い思いをしながら受付を済ませた。




