第12話 修司の部屋はたぬたぬの部屋でもある
オレは、ご機嫌なたぬたぬを小脇に抱えて自室へ向かった。
たぬたぬは胴体を抱えられて安心しているのか、前足と後ろ足がピョコピョコと踊るように動いている。
建物と建物を繋ぐ廊下は開放的だ。
屋根は付いているが足元には平らな木の板が続くだけの廊下は、学校の渡り廊下の木製版みたいな感じ。
建物沿いの廊下には雨戸があるが、建物と建物を繋ぐ廊下のほうにはそれすらない。
吹きっさらしだ。
寒い日には部屋から部屋への移動にコートが要るし、雨が降ると合羽が必要になるが、今夜はそのどちらも必要ない。
空にはおぼろに蕩ける満月が大きく上っているから、明かりも別に必要ない。
しかもオレの小脇にはもふもふがいるから、少しも寒くないわ。
とても快適だ。
オレは、小さなガラスと障子が張られた心もとない木枠の扉を開けた。
『ここが修司の部屋?』
たぬたぬは、首をかしげて修司を見上げながら聞いた。
「そうだ。今日からお前もここで暮らすんだぞ、たぬたぬ」
たぬたぬは興味深げに室内をキョロキョロと見まわしている。
見まわしたところで何もない。
畳敷きの部屋には、押し入れと畳に座って使うタイプの小さな机があるだけだ。
押し入れなんて扉を閉めたら壁みたいなもんだから、実質は小さな机が部屋の隅にポツンとあるだけだ。
なまじ部屋が十畳くらいあるから、殺風景さが増している。
布団を敷いて寝ているから、ベッドすらない。
万年床状態だった布団も散歩に行っている間に干してくれたのか、なんだかフカフカしていた。
『わぁい。ふかふか~』
オレの脇からポテッと落ちたたぬたぬが、布団の上を泳いでいる。
「おい、こら。布団が毛だらけになるっ」
しつけの悪いあやかしだな。
いや、あやかしにしつけ?
オレが自分の感想に自分で突っ込みを入れている間に、ぷぅっという軽やかな音が響いた。
「おまっ……」
『失礼』
このたぬき、屁をこきやがった。
ぷぅ~んと匂いが漂ってきて、オレはハッとなる。
「お前っ。排泄のほうはどうなってるんだ?」
『排泄?』
たぬきのあやかしは呑気に首をかしげてオレを見上げた。
「ウンコとかオシッコとかのことだよっ」
『たぬたぬは、あやかしですから……』
そうだよ。
あやかしだから腹が減らないとか言ってたから油断したけど。
「さっき芋とかタケノコとか色々と食っただろ?」
『……あっ』
たぬたぬは小さな声を上げると、ぶぅ~と長くて小さな音のする屁をこいた。
「うわっ、くさっ。……てか、これは本体出る匂いっ!」
『ふふふ。そうかもしれません』
オレはたぬたぬの体を抱えると、慌てて外へ向かって駆け出した。




