幼女魔法講師は追加する
「あれが……!」
「『対価の天秤』……! 魔法の極致!」
「本当にこの目で見れるとは!!」
「しかも無詠唱だぞ!? どれだけの魔力を」
先ほどまで雅琵のことを侮っていた教員たちが、次々と席を立ち食い入るように見て意見を交わしているのは、雅琵にとっていっそ滑稽と言っても過言ではなかった。
黒髪と赤髪の寮長は呆然と天秤を見つめ、雅琵に要望を出した蒼髪の生徒ですら驚いたように目を丸くしていた。
しかし。
「うーん、物足りないかな」
「「「は?」」」
「ついでにこれもつけてあげよう」
ぱちん
またしても指を鳴らしただけ。それだけで教卓の上に一つの魔法陣が敷かれる。
それも砕け光に変わり、形づくったのは……。
「『対価の聖杯』っ……!!」
天秤を作れるのが魔法使いだけというなら、聖杯は魔術師が作れる魔術の最高峰である。
それを同時に作れる者など存在しない。いや、しなかった、今までは。純粋に、魔力が足りないからだ。
雅琵は畏怖と興奮の視線を無視して、指で示すだけで聖杯を浮かすと、何でもなさそうに天秤へと乗せた。
その瞬間、天秤が消えると思った者がほとんどだった。
天秤は平行を保つからこそ存在できる。そこに傾ける存在があれば形を保つことは出来ない。
だが……。
「何故……」
「天秤が存在し続けている?!」
『対価の天秤』はそのまま、そこにあった。そしてもう片方の秤には魔法陣が一つ乗っていた。
その事実に、雅琵たち以外の誰しもがぞっとする。
聖杯と釣り合うほどの魔法……それもたった一つでなど、「アレイナタル」と呼ばれる隕石を降らせる禁制魔術しか思い浮かばない。それだけの価値が、重量がなければ聖杯と釣り合いなど取れない。
ぱちん
その音がなった時、ぶわりと強い風が巻き起こり皆が死を覚悟した。
腕で顔を覆うもの、机の下に潜る者等いたが、一向に何も起こらない。隕石は降ってこない。体に衝撃が来ない。
そろりと目を開けた先で見たのは、天井から白に金の縁取りの花がひらひらと落ちてくる様だった。もっとも、その幻想的で美しい花は机に、椅子に、肩に、髪に触れた瞬間消えてしまったが。
「さて、もういいかな……と思ったんだけど、もっと天秤見てたかった?」
「……あ……いや、もう充分である。凄まじい技量と才能に称賛を捧げよう」
「どーも」
ただその美しい花が降る光景に呆然としている中で、疲れた様子もない雅琵に話しかけられ、いち早く我に返った蒼髪緑目の寮長だけは頭を深く下げた。
その日、各寮において寮生たちに寮長から、魔法講師ミヤビ・ソラユキに下らないちょっかいを出さないようにと厳命が下った。