幼女魔法講師は片鱗を見せる
「はいはいはいはい、そこまでです! ソラユキ先生もフレイル先生もじゃれ合いはそこまでに!」
どこ見てじゃれ合いだなんて言っているんだ、呆れた視線が理事長を貫く中。
ため息一つで雅琵は肩をすくめた。フレイル先生と呼ばれた教員も、黒髪金目の生徒も渋々席につく。
「とはいえ、教員の資格をお持ちとはいえ経験がない方に教わるというのも中々難しいというのはわかりますよ、ええ、気持ちの面で。ならばここでソラユキ先生に魔法を見せてもらおうではありませんか!」
「魔法は見世物じゃないんだけど」
「まぁまぁ、ここらで力を見せておいたほうが今後やりやすくなりますよ?」
「……一理あるね。あー……じゃあそこの、蒼髪の生徒くん。何が見たい?」
「……驚いたな、吾輩が選んでも良いのかね? 貴君の苦手分野であったとしても責任は取れぬが」
「魔法において、ボクに不得意はあり得ない」
「……ふむ、では『対価の天秤』を見せてはもらえるだろうか」
ゆったりとしたどこか尊大な口調で、長い蒼髪を一つに結った、白い十字を抱く緑の虹彩を持つ制服姿の生徒が指定してきたのは、魔法の中でも特に取り扱いの難しいものだった。
魔術や魔法行使のための五つの要素……スピード、ステップ、テンション、ボリューム、コンディション、全てが揃ってもなお、何らかの理由で現れないことすらある運要素のある魔法。
それを何の気負いなく。
「いいよ、簡単だし」
と承諾した雅琵に、またしても周りから嘲笑う声が漏れる。
中には「失敗しても運要素のせいだと言えるからじゃないか?」と囁きを逸脱した声で喋っているのが聞こえる。
たまらず、今まで静観していたヴォルが前足を一歩踏み出そうとすると。
「ヴォル」
感情のない声、色のない碧色の瞳がヴォルを見ていた。これは「手を出すな」の合図である。もっと正確にいえば「自分の獲物だ」。それを知っているヴォルは踏み出そうとした足を元に戻した。
雅琵は自分を心配してくれた親友の背中を撫でてから、段になって座っている教員、監督生たちを見回して。唇を釣り上げた。
「魔法には運なんて要素はない、それすら知らないんだから程度が知れる。まぁいいか、『対価の天秤』を出してあげよう」
ぱちん
一つ、たった一つだけ、指を鳴らす音が響いたかと思うと。
音もなく空間が曖昧に歪む。歪んだ箇所に色をつけるように碧色の魔力が走り魔法陣が形を現す。
幾つも幾つも幾つも、数え切れないほどの大小の魔法陣が床に、宙に、天井に敷かれたかと思うと、それらはゆっくりと二、三回回転したところで弾けて光に変わり、消えた。
静まる講堂。
「……は、ははやっぱり」
「さて。『対価の天秤』のお目見えだよ」
最後に、天井に残った魔法陣が弾けた時。落ちる碧色の光の中に。
それは、現れた。
総てを魅了する黄金の輝き、目を離すことなど許されない存在感、曇りなき圧倒感、まさに魔法の極致。緻密に紡がれたリィン文字が刻まれ光る、平行の天秤。
まさしく『対価の天秤』そのものだった。




