動き出す陰の者
ーー今から10年ほど前。自然が豊かに広がり、虫と人間のハーフであるポカ属と人間が仲良く暮らす国があった。この国の名はイエローネーション。この国にはポーハイと呼ばれる街が一つだけあり、とても活気があった。
「リラン!あーそぼ!」
「あ!チョウチョ!」
「いいよ!今行くから待ってて!」
この少女の名前はリラン。今年12歳になる元気で活発な子だ。
「おやおや、今日も二人は一緒かい?」
「うん!毎日一緒がいいもん!」
「ねー!」
「そうかいそうかい。仲が良くてよろしいこと」
二人の仲は近所でもとても有名だった。
「今日は何するー?」
「森に行って昨日のおままごとの続きやらない?」
「いいね!行こ行こ!」
二人は手を繋いで森へと走って行った。
先ほども説明したが、この国はポカ属と人間が共存している。はたから見れば、虫と人間の共存のように見える。しかしこの国に住むポカ属は森の猛獣たちと戦うことができるほど強かった。ポカ属はこの猛獣たちから人間を守ること、さらには食料を人間たちに提供することを仕事として、人間は自分たちやポカ属のライフラインを整え、暮らしやすい社会を作っていくことを仕事していた。どちらにとっても好都合な関係だった。
ーー時は現在。
「私が小さい頃は本当に幸せな国だった。ポカ属と人間が仲良く暮らしてる。本当にただそれだけの平和な国……」
「今はとてもそうは見えないけど」
「そうでしょうね……この平和な暮らしはある男によってあっという間に壊されていった」
「ある男?」
ーー時は再び10年前。ポーハイにある王宮内。
イエローネーションにはダリアという立派な国王がいた。
「国王様!本日もこの国は平和でございます」
「うむ。くるしゅうない」
「そういえばヨウラクは何をしている?」
「はっ!王子におかれましては玄関先でこの街の住民とコミュニケーションを取っておられます」
「そうか……大事なことだ。どこかへ行かないように見張はしっかりつけておいてくれ」
「はっ!」
「それから……」
ダリアは椅子から立ち上がり、窓の外を見つめた。
「パグラスは今何をしている?」
「パグラス様は……私たちにも……」
「そうか……自由気ままな弟よ……」
ーーポーハイ市内、街の外れ。
「ちっ!ダリアのやろう、今日もぐちぐち嫌味を言ってきやがった!」
「まぁ落ち着けよ」
パグラスはパンをかじりながら、ダリアの文句を言っていた。
「そもそもよ!ヨウラクのやろうが生まれて来なかったら次は俺がこの国の王だったんだ!もうなれねぇじゃねぇか!」
近くにあった、空樽を蹴り飛ばす。
「なぁ?!そうだろ?!クディア!」
「あ?そうだな?」
クディアは話を聞いておらず適当に返事をした。
「お前は相変わらず人の話を聞いてねぇな!」
「全くよ!俺が王になれねぇのをわかった上であのやろう……」
ーー今朝。
「おいパグラス。一緒に食事でもどうだ?」
「なんだよ兄貴。いつもはそんなこと言わねぇだろ」
「たまにはいいではないか……こっちへ来い」
ダリアはパグラスの首根っこを掴み、無理やり食堂へと連れていった。
「わかったわかった!自分で歩くから離せよ!」
「まぁ座れ」
サミットで使われるような長テーブルにたった二人だけ。お互い、対岸に座っているため、ほぼ一人のようなものだった。
「ところでお前、ここ最近どこに遊びに行っているんだ?」
「あ?うるせぇよ。そんなの俺の勝手だろ?いちいち口出すんじゃねぇよ」
「仮にも兄に向かってその口の利き方はなんだ!」
なんだよ今更……ずっとそうだったじゃねぇか。
「あぁ……悪かったよ……」
「で?何をしてるんだ?お前、国民からも蔑まれた目で見られてるんだぞ?」
「ちっ!なんでそんなことまで言わなきゃいけねぇんだよ」
パグラスはイライラが溜まってきていた。
「この国の王の一族だぞ?そう簡単に街をほっつき歩かれたらもしもの時があったら困るだろう」
「別に何もないだろ」
パグラスは呆れたように視線を逸らし、お皿の上のトマトをフォークで真上から刺した。
「それにこの国にはもうすでに次期国王がいるんだ。俺なんていらねぇだろ?」
「何をそんな悲観的に……」
ダリアはため息をついた。
「ところでお前……この国の未来をどう見る?」
「あ?何言ってんだよ」
ダリアは席を立ち、後ろに腕組み、ゆっくりと歩き出した。
「この世界は差別で満ちている。そう思わないか?」
「は?」
パグラスは口を開けたまま固まった。
「種族、肌の色や言語、それが違うだけでなぜ人間は差別する」
「そんなもん知らねぇよ」
「そう!」
ダリアはパグラスを指差した。
「な、なんだよ急に大声出すなよ」
「知らないからこそ差別するんだ!相手を知らないという恐怖。この恐怖は人間の心を支配する!」
何を言ってんだこいつは……。
「そこで提案だ!お前、私の側近として、この国の外交官をやらないか?」
「は?」
「この国にはポカ属が住んでいる!この世界にはまだまだ私たちが知らない種族がたくさんいるはずだ!その全てを受け入れ、差別をなくすための世界作りを私たちの国から始めようじゃないか!」
ガシャーン!
パグラスは食器を全てひっくり返した。
「ふざけんな!ただでさえ虫が人間かもわからねぇ奴らが住んでんのにこれ以上わけわかんねぇ奴らを国に入れられるかよ!」
「何を言う!お前は差別を肯定する気か!」
「あぁそうだよ!ただでさえ気持ちの悪い虫野郎どもがこの国にはいるんだ!そもそもあいつらだって一緒に暮らすべきじゃない!」
食堂で二人は叫び合う。
「それはお前の感想じゃないか!」
「だったらお前のその考えもそうだろ?!全員が全員納得すると思ってんじゃねぇ!」
パグラスは足早に食堂を出ていった。
「あいつ……」
ーー現在。
「なんだ。パグラスは兄貴と一緒に飯食うぐらい仲良いんだな。ぐひゃひゃ」
「そう言うこと言ってんじゃねぇよ!クディア!人の話を聞け!」
パグラスはクディアの頭をグーで殴った。
「おぁ?たんこぶや……」
「相変わらずアホみたいな反応しかしないな」
「まぁパグラスは無視嫌いだもんなー」
コクンと一回大きく頷く。
「こないだこんな小さな虫が耳元を飛んでただけできゃー!なんて声出して」
あははははは!とクディアとドラムボタンは地面に転がるほど爆笑した。
「お前らバカにしてんのか!ほんと気持ち悪いんだぞ!」
「まぁまぁ……あの人が国王な限りしょうがないよ」
「ちっ……」
ーーそして月日は流れ、今から7年前、リラン15歳。
「いよいよだね……」
「うん……ついに今日が初出勤」
「ずっとなりたいって言ってたもん!リランならすぐに優秀な兵士になれるよ!」
「ありがとう!じゃあ行ってくるね!」
リランはチョウチョに手を振り、王宮へと出発した。
この国の子供は15歳から就職することができる。リランは昔からの夢だった王宮の兵士の試験に見事合格し、今日から兵士として働くことになっていた。
チョウチョの言葉通り、リランは兵士として優秀な成績を収め続け、兵士として働き始めてニ年がたった頃には、すでに国王の側近として任務を遂行していた。
「ふぅ……今日の稽古も終わり」
一日の仕事が終わり、リランは更衣室へと向かっていた。
「おーいリラン!国王様が呼んでるよ!」
「え?!国王様が?!私?!」
リランは急いで制服に着替え直し、国王の元へと走っていった。
「はぁ……はぁ……すぅ……」
別に怒られるわけではないだろうが、なぜだかいつもこの場所は緊張する。
「失礼します!」
扉を開けると、堂々と椅子に座っている国王の姿があった。
「国王様。お呼びでしょうか」
「まぁ……そんなにかしこまるな。お前にちょっと話があってな。兵士としてここに来てから二年。優秀な成績を残してくれているようだな」
「私だけの力ではありません」
「そうかそうか」
国王はにっこり笑った。
「お前をここに呼んだのは他でもない。お前に新しい任務を任せようと思ってだな」
「新しい任務ですか?」
「そうだ。私が種族などの垣根を超えて、差別のない世界を作りたいことは知っているかね?」
「はい!もちろんです!」
リランははっきり答えた。
「そこでだな。お前に外交官を任せようと思って」
「外交官……?」
「あぁ。様々な種族の受け入れ口さ。私の目標を達成する上で最も重要なポジションだ。どうだやらないか?」
リランはその話を聞いた途端満面の笑みになった。
「もちろん!やらせてください!」
「そぉーか!よかった!では、明日から頼んだぞ!」
「はい!」
リランは嬉しそうに部屋を後にした。
その様子をパグラスは睨むようにして見ていた。
ーーポーハイ市内。
「リランの昇進にー……かんぱーい!」
街の酒場は大いに盛り上がりを見せていた。
「リラン!おめでとう!あ、お前たちはまだ未成年だからジュースな」
「うん!ありがとう!おじさん!」
リラン昇進の話はあっという間に街中に広がっていき、住民のほとんどがお祝いをしていた。
「リランすごいじゃん!やっぱり優秀だったんだ!さすが私の自慢の親友!」
「そんな照れるなぁ。褒めても何にも出ないぞ?」
「今のお気持ちはどうですか?」
チョウチョはお箸をマイクに見立て、リランに向けた。
「世界の平和のために頑張っていきたいとです!」
おぉーっと酒場からは歓声が上がった。
街は夜通し、盛り上がりを見せていた。
ーー街の外れ。
「お前ら、ついにダリアのやろうが動いたぞ」
いつも通り、パグラス、クディア、ドラムボタンの三人は街の外れの物陰に集まっていた。
「どうすんだい?」
「いろんな種族なんてこの国に入れられたら俺は怖くて夜も寝られねぇぜ?」
「でも、ついに外交官までつけたんだぜ?」
「まぁまぁ落ち着けよ」
ドラムボタンが二人を制する。
「俺にいい考えがある」
「いい考え?」
三人は小さく集まった。
「別に外交官をつけたからと言ってすぐにこの国に他種族が入ってくるわけじゃない」
「まぁ確かに」
「一番厄介なのはダリアだ」
「間違いない」
「ただあいつを仕留めたからと言って国は大きく動くがお前が王になる未来はない」
二人はうんうんと頷く。
「そこでだ。あいつら二人をまとめてやっちまおうと思う」




