桜色に輝く咲舞
「とにかく……家に戻ろう。ここにいてもどうしようもないし」
「そうだな。おいクワガタ立てるか?」
「あんな救出のされ方して立てるわけねぇだろ。俺一応怪我人だぞ」
「んもう、めんどくさい男」
「クワガタ、家どこ?」
「あれ」
クワガタは自分の家を指差した。
「あれね。じゃあ移動しましょ」
リランはクワガタのツノを引っ張り、引きずりながら移動した。
「あの……俺、一応怪我人なんですけど……」
三人はクワガタの家へと入っていく。
「全く……酷い目にあった。なんなんだあいつら」
「そうね……簡単にいえば街の兵士ね……」
「街の?」
「あ、そうだお前ら。今うちに食料とかないから悪いけど取ってきてくれないか?調理は俺がするから」
「何言ってんのよ。あんた怪我人ならしっかり寝てなさい。あとのことは全部私たちがやるから」
リランはそう言い、ベッドの上に寝転がるクワガタに毛布をかけた。
「その優しさがあるなら、もっと丁寧に扱ってくれないか?」
「あ?」
「なんでもありません」
「リラン!狩りに行くよ!ついでに力の使い方も教えてあげる!」
「う、うん!」
二人は意気揚々と森の中へと入っていった。
「何が出てくるかな?」
「ワニは美味しかったぞ?」
「ワニねぇ……もうちょっと栄養があるものがいいなぁ」
「栄養ないのか?」
「コラーゲンならいっぱいなんだけどね。お肌にすっごく良いんだよ?」
リランは手でほっぺたをすりすりした。
「何してんだお前。バカじゃね」
「失礼ね!私だって女なんだからその辺、気遣ってんのよ!」
「ふーん」
アリアは木の根元に生えているキノコに夢中でリランの話など聞いてはいなかった。
「ところでよ、力の使い方教えてくれるって……」
「あ、そうね。じゃあ猛獣でも狩りながらやっていきましょ」
ガルルルル……。
「お、ちょうどいいところに!」
「なんじゃありゃ!」
「あれはウサギよ!」
「ウサギ?!ウサギってこんなでかいのか?!しかも何匹もいるぞ!」
目の前に現れたウサギはアリアの身長よりもはるかに大きかった。
「正確に言えばワニの顎の力を持つウサギ、ラビダイル」
「……だっせぇ」
ウガァァァァ!
「おい、あいつなんか怒ってるぞ?!」
ラビダイルはアリアに向けて攻撃を仕掛けてくる。
「危ねぇ!」
アリアは森の中を逃げ回った。
「なんか俺ばっかり狙われてねぇか?!」
「ラビダイルはね!人の言葉を理解できるの!だから自分のことをバカにしてきたあんたを狙ってるんだわ!」
「おい!それ先に言え!」
「アリア!自分の力を引き出すチャンスよ!」
「あ、そっか。いや、どうやってやんの?」
「集中するの!見てて!」
リランは深呼吸をして目を閉じた。
右手が赤く神々しく光り出す。
「炎花一輪!」
「ガハッ……!」
ウサギが一匹気を失った。
ウガァァァァァァ!
「怒ったぞ?!」
「仲間がやられたからね!」
「アリアも早く習得しないとやられちゃうわよ!」
「集中って言ったって……」
「アリア!コツはイメージすること!体の内側から右手に向かって力が流れていることをイメージするの!」
「イメージ……」
アリアは目を閉じ、右手を軽く握った。
「ふぅ……」
大きく息を吐き、集中力を高める。
アリアの右手が微かに桜色に光り始めた。
「きた……!」
ガァァァァァ!
「いくぞ!」
アリアは全身の力を振り絞り、右ストレートを繰り出すも、あの時のように花びらが出ることはなく、何も起こらない。
「え?!」
右手を見ると光が消えていた。
「やばっ!」
アリアはラビダイルの爪で思い切り引っかかれた。
「いってぇ……なんでだ?」
「力が入りすぎてるよ!もっとリラックスして!」
リラックスって言ったって……目の前にあんな猛獣いたらどう頑張っても力が入っちゃうよ……。
アリアは体が震えていた。
そんなことはお構いなしにラビダイルはアリアに突っ込んでくる。
「うわぁぁぁぁぁ!」
森の中に轟音が響く。
アリアはラビダイルの猛襲を受けていた。
「アリア!」
どうしよう……助けに行こうにも、隙がない。一歩でもここから動いたら、私までやられちゃう……。
「……っ!この……!」
「あれは……!」
土煙の中に微かに光る桜色があった。
「リラン!」
「いい加減にしろ!」
あの姿……!まさか……!咲舞に伝わる伝説の……!
アリアはラビダイルの猛襲を蹴散らし、その勢いのまま襲いかかる。
「うぉりゃぁぁぁぁぁぁ!」
何匹もいたはずのラビダイルはいつの間にか、全てアリアの足元に倒れていた。
「すごい……」
「へへっ!リラン!見てよ!」
そこには自由自在に咲舞を操っている、アリアが満面の笑みで立っていた。
「さっきのゴタゴタの中でいつの間にかできるようになってた」
「な、あ、うん……」
「ほら……ほら……ほら!」
アリアの右手は桜色に光ったり、消えたり。アリアの思うように動いていた。
「と、とにかくよかった……」
この子は一体何者なの?咲舞を習得するスピードもそうだけど何より……。やっぱり選ばれた人なんだ……。
「いっぱいウサギ取れたし、今日はもう帰ろうぜー」
アリアはウサギを二匹ほど引きずりながらクワガタの家へと向かった。
ーー同時刻。プロテア。
「今日も遊びに来たぜー!ポカ属共!」
少年たちが大きな声を上げながら町へと入ってきた。
「今日もか……頼むうちには来ないでくれよ」
子供たちは民家の中をジロジロと覗きながら町中を歩き回っている。
「どいつにしようかなぁ」
町の住民は家の中から外の様子を見つつも子供達と目があわないようにしていた。
「ていうか、今日何して遊ぶ?」
「今日面白い遊び考えてきたんだよ。その名も虫バトル!」
「虫バトル?」
「そう!ポカ属の中から好きな虫を一匹ずつ選んで戦わせるのさ!」
「おぉ!そりゃぁいい!」
「じゃあどれにしようかなぁ」
子供たちはあたりを見渡す。
「あ!俺いいの見つけちゃったー」
「しまった!こっちにくるな!家の裏口から逃げろ!」
玄関の扉が勢いよく開く。
「おい!待てよ!」
「構うな!逃げろ!」
「待てって言ってんだよ!上級国民の命令だぞ?下級種族が命令に背いてんじゃねぇよ」
恐怖で足が止まった。
「は……はい」
「俺を背中に乗せて町の中心部まで運べ」
「はい……」
ーープロテア中心部。
「ん?おう!遅かったじゃねぇか!」
「へへっ悪い悪い」
「カマキリかぁ!いいセンスしてるな!」
「だろ?お前は何にしたんだ?」
「じゃーん!」
「は?!お前そんなのどこにいたんだよ?!」
子供はクモを見せびらかした。
「クモさん……」
「すまねぇカマキリさん……俺のことはいい。一思いにやってくれ」
「そんなわけには……」
カマキリとかもの二人はこそこそと話し、自分たちの運命を悟っていた。
「何勝手にしゃべってんだよ!」
カマキリは思い切り蹴飛ばされた。
「……っ!」
「まぁいい。始めようぜ!」
「よし!じゃあバトルスタートだ!」
カマキリとクモは子供たちの合図とともにゆっくりとお互いの距離を詰めた。
動かないわけにはいかない……戦わなきゃ殺される……でも、友達を殺したくない……。
二人は頭の中で葛藤していた。
「クモさん……体を丸めてください」
カマキリは自分のカマが当たらないようにクモを持ち上げ、投げ捨てた。
「おぉ!いいぞカマキリ!」
クモもまたカマキリに向けて糸を吐くも、わざと外していた。
「いいぞ!次は当てろよ!」
その頃、森から帰ってきたアリアは虫バトルの光景を目にする。
「ん?なんだあれ」
「あれは!」
「おい!おま…………」
「声出しちゃダメ!隠れて!」
リランはアリアの口を塞ぎ、地面に押し倒した。
「いてぇな!何すんだよ!」
「見つかっちゃダメ!」
「は?」
アリアは物陰からその様子を見ることにした。
カマキリとクモの戦いは続く。
なかなか決着のつかない戦いに子供たちは徐々にストレスが溜まっていき、ヒートアップしていた。
「カマでやっちまえ!」
カマキリは当たらないようにわざと空振る。
「糸で捕まえろ!」
クモは当たらないように糸を吐く。
「ちっ!お前らやる気あんのかよ!」
一人の子供がカマキリに近づき、蹴飛ばそうとした。
その瞬間、カマが子供に当たり、子供の腕には切り傷ができた。
カマキリとクモ、その戦いの様子を見ていた町の住民たちは一気に青ざめていく。
「うわぁぁぁぁん!痛いよぉ!」
「なんだあいつ……たったあれだけの切り傷で」
アリアは不思議そうな顔をした。
「アリア……今から起こることがこの国の真実だよ……」
リランの顔はいつになく真剣だった。
子供たちがプロテアを出て数十分後、今度は兵士がプロテアに入ってきた。
「おい!カマキリとクモはどこにいる!」
銃声を鳴らし、大声で叫んでいる。
「さっさと出て来い!もう貴様の運命は決まっているんだよ!」
カマキリとクモはゆっくりと自分の家から出てきた。
「おぉ……物分かりがいいな。先日死んだカブトムシとは出来が違うな」
二人の顔はすでに青ざめていた。
「おい……あいつら大丈夫かなリラン……リラン?」
バンッ!バンッ!ババン!
「え?!」
二人は銃で撃たれ、その場に倒れ込んだ。
「なんで?!なんで撃たれたんだ?!」
「子供を傷つけたからよ……」
「は?」
アリアは状況を理解できずにいた。
「もう動かねぇか?」
「あぁ大丈夫だろ」
「しっかしまぁいつ来てもここは気分が悪いな」
そう言いながら二人を連れて、兵士は町を出て行った。
「んな、なんなんだよ……」
リランは何も言わずただ唇を噛み締めていた。その唇からは血が流れている。
「アリア……」
「一旦家に戻ろう。話はそれからだ」
「ごめん……」
二人はクワガタの家へと戻った。
「また……やられたか……」
「うん……」
「アリアも見たんだな」
「あぁ見た……」
部屋に沈黙が流れる。
「なぁ……教えてくれないか?この町に起きてること!なんでクワガタは病院に入れなかったのか!なんでお前らは兵士たちに追われてるのか!なんであの二人のポカ属は殺されなきゃいけなかったのか!」
「……そうね」
リランがゆっくりと口を開いた。
「一緒に戦ってって言ったくせにずっと隠しとくのも気分が悪いし……聞いてくれる?」
「もちろん!」




