咲舞
ーー二人は薬草を取り終わり、リランの家に帰ってきていた。
「いてて…」
「お!起きたか!クワガタ!」
リランは嬉しそうにクワガタの顔を覗き込んだ。
「ここは……どこだ?」
「ここは私の家よ。とりあえず生きててよかった」
リランは台所から声をかけた。
「んな?!人間?!どうなってんだ!」
「何言ってんだよ。あいつは俺たちのこと助けてくれたんだぞ。街の病院を回っても全然助けてくれないんだもんよー」
「そっか……お前この国の人間じゃないもんな……知らないのも無理ないか……」
アリアは不思議そうな顔をした。
「とりあえず世話になったよ。親切な人間もいるもんだな。ここにいちゃまずいだろうから、俺は自分の家へ帰るよ」
クワガタはベッドから立ち上がろうととした。しかし、体がふらつきその場に倒れてしまった。
「まだ無理だよ!」
「リランの言う通りだ!まだ安静にしてなくちゃ」
「そんなこと言ったって」
「私は大丈夫」
リランは笑って見せた。
「そうか……じゃあもうちょっとだけ休ませてもらうよ」
そう言って、ベッドの上に腰をかけた。
「はい。どうぞ」
リランはアリアに温かい飲み物を渡した。
「わ!ありがとう!」
「あなたもどう?体にいいよ」
クワガタはその飲み物を見つめた。
「いや……遠慮してくよ。ありがとう」
「あら、信用ないのね。別に毒なんて入っちゃいないわよ」
「別にそういうわけじゃ……でもな……」
「いいよ無理しなくて。欲しくなったらいつでも言って」
「すまねぇな」
「ところでよリラン。さっきの話はなんだったんだ?」
「あぁそうね」
リランはアリアの前に腰を下ろす。
「全部話すわ。あなたのその桜色の手のことも、私があなたに一緒に戦って欲しいと言った理由も」
「お、おう……」
アリアはごくんと唾を飲み込んだ。
「さっき、森でアリアの右手が桜色に光ったって言ってたでしょ?」
「うん。あれって何?」
「あれは咲舞。ある国に伝わる武術よ。人間は誰でも生まれつき潜在能力を持っていて、咲舞はその力を引き出して戦う武術なの」
「じゃあ、俺にもその力があるってこと?」
「そう。ただし、どんな力を持っているかは人によって違う。炎の力を持つ人もいれば、風の力を持つ人もいる」
「へぇ……。じゃあ、俺の桜色の力もその一つなのか?」
「うん……。桜……」
リランの表情が変わった。
「その桜の能力っていうのがね……。世界に一人しかいないって言われてるの……。だからさっき話を聞いた時びっくりした」
「えぇ?!」
アリアは自分の手を見つめた。
「なんだ?なんだ?やっぱあのマンモスを倒した力はすごいやつだったのか!」
クワガタは自分のことのように嬉しそうに話した。
「なぁ!アリアにもあるってことは俺にもその力あんのかな?!」
食い気味に尋ねた。
「ハーフは知らない」
リランは冷たく返した。
「ちぇ!なんだよ!」
クワガタは不貞寝するように毛布を頭から被って寝転がった。
「アリアのその力は自由自在に操れるようになれば、強い戦士になることができる」
「強い戦士……」
アリアは自分の国のことを思い返す。
燃える王宮、家族を殺した黒い男……。全てを取り返すことができるかもしれない。
アリアの中で覚悟が決まった。
「わかった!教えてくれ!」
「よかった!」
リランの顔が少し明るくなった。
「それでね!もう一個お願いがあるんだけど……」
リランが続きを喋ろうとしたその時だった。
バキバキッ!
玄関の扉が割れる音がした。
「邪魔するでー!」
「え?!なに?!」
「よぉリラン……お前また厄介ごと起こしてくれたらしいな!」
男二人組が土足で家の中を歩き回る。
「なんやこいつ見たことねぇチビだな!リラン!お前の恋人か?」
「街の兵士のくせに品のかけらもない……」
「あ?お前に対して品なんてもんは必要ねぇんだよ!」
一人の兵士がリランを突き飛ばす。
「リラン!大丈夫か?」
アリアがすぐに駆け寄り、リランを起こす。
「なんだよお前ら!何しに来たんだ!」
「黙ってろチビ……」
「この家にポカ属がいるはずだ」
くそっ!やはり目的はアリアの連れてきたクワガタか!なんとかして誤魔化さないと……。
「ポカ属なんているわけないだろ!そもそも街に入ることすらできないんだから」
兵士は部屋中を探し回る。
「それはどうかな?」
二人はニヤッと笑った。
「昨日、ポカ属を背負った男が街を歩き回っていると通報が入ったんだ」
「通報が入った後、現場に向かったがすでにその男の姿はなかった」
「じゃあどこかへ逃げたんだろ……」
うまく誤魔化せるか……?
「だが、住民からこんな目撃情報があった」
「リランが男二人連れて怪しい動きをしていたと」
「んな?!それだけで?!」
「それだけ?十分な理由だろ。そもそもお前はこの街にとって異端児なんだ。疑われて当然の存在」
「ポカ属はこの部屋にいるはずだ!」
「おまぇ……っ!」
リランはアリアの口を両手で塞いだ。
「何すんだ!」
「余計なこと喋らないで!なんとかするから」
「あ?お前ら何こそこそしゃべってんだ?」
「なんでもない……」
「これだけ探しても見つかんないから本当にいないんじゃねぇのか?」
「まじ?そんなことある?」
よし……。そうだ、そのまま帰ってくれ。
「しょうがない、また日を改めて来るしかないか」
これで……バレずに……
ハクシュン!
「しまったぁー!」
毛布の中に隠れていたクワガタが、思わずくしゃみをしてしまった。
「あぁ?なんだ今のくしゃみは。どこからだ?」
「おい……そういえば、あの毛布の下見たか?」
「いや、見てねぇな。めくってみるか」
兵士が毛布に手を伸ばし、一気にめくり上げる。
「おい!いたぞ!」
「くそっ!」
「お前ら動くんじゃねぇ!」
兵士はアリアとリランに銃口を向けた。
「やっぱりいたじゃねぇか。お前隠してたな?これは大罪だぞ!」
リランは兵士を睨むだけで何も言わなかった。
「おい、さっさとこいつ駆除しちまおうぜ」
「あぁ」
リランとアリアに向いていた銃口が、今度はクワガタに向けられた。
「おい!お前らやめろ!」
「あ?なんだこいつ」
「知らねぇ。街の人間ではなさそうだが、ここにいるってことは共犯だ。運が悪かったな。今日がお前の命日だ」
兵士はトリガーに指をかける。
「おい!動くな!」
「何言ってんだ?お前が動くな」
兵士は再びアリアに銃口を向けた。
「動くなって言っただろ!」
アリアは近くにあった箒を手に取り、一人の兵士を思い切り殴り飛ばした。
「がっ……!」
兵士はその場に倒れ込んだ。
手が桜色に光ってる……!でも本人は気づいてない。やっぱり、ほんとだったんだ。この何かやってくれそうな期待感、ピンチのはずなのにピンチに感じないこの気持ちの昂り。さすが選ばれた男。
「お前、俺たちに逆らうことが何を意味するかわかってんのか?!」
「知るか!」
アリアはあっという間にもう一人の兵士も殴り飛ばした。
「キャー!」
家の外から悲鳴が上がる。
「兵士さんが……!兵士さんが!」
「おい!大変だ!援軍を呼べ!リランの家だ!」
「またあの女か!」
続々と街の住民が集まってきた。
「アリア!クワガタを抱えて!」
「え?!」
「もうここにはいられない!逃げるよ!」
「お、おう!」
「入り口を塞げ!」
「リランが逃げられないようにするんだ!」
入り口から出ようにも住民たちが塞いでて外に出ることができない。
「リランどうする?!」
「しょうがない……突破するよ!」
「は?!」
その瞬間、リランは自分の家の壁を蹴り破り、大きな穴を開けた。
「えぇー?!」
「んな!あいつ自分の家に穴開けたぞ!」
「おい穴から逃げるぞ!急いで塞げ!」
「アリア!早くこっちに来い!」
「あ、あぁ!」
何が何だかわからないままリランについていく。
「いででででで!」
「あ、ごめんクワガタ。ちょっと耐えてくれ」
その穴はクワガタには小さく、肩の部分が引っかかっていた。
「くそっ抜けねぇ!」
「おい!あそこだ!ポカ属がいるぞ!」
「あぁやべぇ!追っ手が来た!」
「急げアリア!」
「クワガタ!ちょっと我慢してくれ!」
「は?」
アリアはクワガタのツノを掴み思い切り引っ張った。
「いだぁぁぁぁぁぁ!抜ける抜ける!ツノが抜ける!」
「耐えてくれぇぇぇ!うぉぉぉぉぉ!」
「あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」
クワガタは涙目になっていた。
バキバキ……ッ
「あとちょっと!」
バキッ!ボカァァァ……ン
クワガタの体は壁が壊れると同時に抜けた。壁にはさらに大きな穴が空いていた。
「よっしゃー!」
「てめぇ……覚えてろ……」
「逃げるぞアリア!こっちに来い!」
三人はプロテアに向かって走り出した。
「いたぞ!あいつらだ!」
「アリア急いで!」
「そ、そんなこと言ったって……はぁ……はぁ……」
「お前捕まったら絶対許さんからな」
クワガタはアリアの耳元でそう囁いた。
「お前俺の背中に乗ってるだけなのに偉そうだぞ!」
「うるせぇ!じゃあもうちょっと助け方を考えんかボケ!」
「なにー?!助かっただけでもいいと思え!」
「しょうもないことで喧嘩すんな!」
リランは二人の頭グーで殴った。
二人の頭には大きなタンコブができていた。
「怒られたじゃねぇか……」
「お前のせいだろ!」
「おいアリア!前みろ!」
「ん?」
リランが正面を指差した。
「あの一本道を抜ければ、逃げ切れる!」
「よし!」
アリアはスピードを上げて走り出した。
「あいつスピード上げたぞ!」
「なんて逃げ足の速いやつ」
「もう少し!」
「どりゃぁぁぁぁ!」
三人はプロテアへと飛び込んだ。
「はぁ……はぁ……」
「危ねぇ。逃げ切った」
兵士たちはプロテアに入った三人を確認して引き上げていった。
「なんだあいつら……ここには入ってこれねぇんだな」
「まぁ……」
「とにかく逃げ切ったぞー!」
アリアはガッツポーズをして喜んだ。
ーープルルルルル……
ガチャ!
「どうした」
「すみません!国王!」
「取り逃したか……三人はプロテアに入っていったんだな?」
「はい。その通りです」
「この国を出たわけじゃない。気にするな」
「はっ!」
ガチャ……
「はぁ……使えん部下共だ……おい!クディア!」
「はい」
「お前……プロテアへ行って来い」
「ほう……私が直々に行ってよいので?」
「もちろんだ。目にものを見せてやれ!」
「了解」




