リラン
「はぁ……はぁ……頑張れよ……あと少し耐えろよ!クワガタ!」
アリアはクワガタを担いだまま森を歩いていた。
「お前……生きてんだろうな……」
知らない町の知らない森。アリア一人で抜け出すには至難の業だった。日もどんどん落ち、森の中が少しずつ薄暗くなっていく。
「どっち進むのが正解なんだ……?」
アリアは自分の勘だけを頼りに、進んでいた。
ガルルルルル……。
「うわ……分かれ道……」
アリアは近くにあった小枝を拾い、地面に刺した。
「倒れた方に進もう」
小枝は右に倒れる。
「よし、右か」
パキッ!
「誰だ?!」
アリアが後ろを振り返るとそこには大きな虎がよだれを垂らしてこちらを見ていた。
「まじかよ……」
ゆっくりと後退りをする。
それに合わせるように虎もゆっくりと近づいてくる。
こんなのと戦ってる場合じゃない。
「クワガタ!ちょっと揺れるけど我慢しろよ!」
アリアは出せる力の全てを振り絞って走り出した。
「ガァァァァァ!」
後ろから大きな鳴き声を出しながら追いかけてくる。
「くそっ!ついてくんな!」
虎からの攻撃を何とか避けながら森の中を走る。
「はぁ……はぁ……ちくしょう!逃げきれねぇ!」
必死に逃げるも、人を担いだ状態では限界があった。徐々に虎との距離が縮まっていく。
「うわっ!」
足元にあった木の根に足を取られ、躓いてしまった。
「すまねぇクワガタ……落としちまった……」
地面に転がったクワガタはぐったりしている。
「すぐ病院に連れてってやるかな」
アリアは這いつくばりながら、クワガタの元へと向かった。しかしそれを虎が許さない。
アリアの真後ろから雄叫びを上げ、襲いかかってきた。
「うわっ!」
しかし虎はアリアには手を出さずクワガタの方へ向かっていった。
「おい!やめろ!」
野生動物の本能か?あの虎、明らかに弱っている方から仕留めようとしてる。
「クワガタ!」
虎は大口を開けて、クワガタを食べようとした。
「やめろぉ!」
その時、再びアリアの右手が桜色に光り出す。
気づいた時にはアリアはすでに虎に襲いかかっていた。
「邪魔すんなぁ!」
虎は遠くまで飛んでいき、気を失った。
「はぁ…… はぁ……まただ、何なんだこれ。でも、今はそんなことどうでもいいや」
アリアはクワガタを再び担ぎ、森を進んだ。
再び森を進み始め、1時間が経った頃。
「お?光?」
アリアの正面に、街灯のような光が見えてきた。
「おい、クワガタ!あれ町じゃねぇか?!」
アリアは躓きかける。
「おっと。危ねぇ」
もう二人とも限界だった。
光を目指して一直線に進み始める。
「おぉ……」
アリアの目の前には大きな街が広がっていた。
「ここならきっと病院があるぞ!もう少しだ!」
アリアは街中を駆け回り、病院を探した。
「え?何あの人……」
「何背負ってんだ?」
「おい!あれポカ属じゃねぇか?!」
街ゆく人たちがアリアを虐げた目で見つめる。
「おい君!」
「ん?」
「背中に背負ってんのなんだ?」
「これ?クワガタだ!あっ、そうだ!おじさんびょうい……」
「キャー!」
街の住民から悲鳴が上がった。
「おい君!さっさと街を出たまえ!」
突然、街の人たちが拒絶反応を起こし始めた。
アリアは理解できずにその場に立ち尽くしているだけだった。
「いいからさっさと出ていけ!」
空き缶や野菜、生ごみなどいろんなものがアリアの元へ飛んでくる。
「な、何だよ急に!何すんだ!」
「君こそ何をしているんだ!」
「街の兵士たちはまだか?!早く呼べ!」
「は?!」
アリアは訳もわからずその場を逃げ出した。
「あ、おばさん!聞きたいことが……」
「キャー!ポカ属よ!誰か捕まえて!」
「な、え?!」
どの人に聞いても悲鳴を上げられる。
なんなんだ、この街は。
「ん?!お!あれ病院じゃねぇか!なんだよ!人に聞かなくても見つかるじゃねぇか!この街の人たちは不親切だからなぁ」
アリアは一目散に病院へと走り、中に入っていった。
「夜遅くにすまねぇ!急患なんだ!見てくれねぇか?!」
はいはいーと言いながら奥から看護師と医者が出てきた。
そしてクワガタの姿を見て驚愕する。
「貴様!なんてものをうちに連れてきたんだ!感染症が広がったらどうするんだ?!」
「な、何言ってんだよ!こいつは病気なんか持ってねぇよ!」
「うるさい!出ていけ!おいナース!しっかり消毒しておけよ!」
「なんなんだこの病院は!」
アリアは街の病院を次々と訪ねたが、どの病院にも断られてしまう。
「あそこだ!いたぞ!追えー!」
さらには街の兵士にも追われ、危機一髪の状況を迎えていた。
「この街はダメだ!逃げるしかない!」
「こっちよ!」
一人の女性がアリアに声をかけた。
「誰だ?!この街の人間か?!信用できねぇ!」
「大丈夫!この街に住んでるけど、厳密に言えばこの街の人間じゃない!」
「……そうか。わかった!」
そう言い、アリアは女性の後をついていった。
「こっちに逃げてきたはずだ!」
「いないぞ?!」
「確かにこっちに来たはずなんだが……」
「リランが誘導していた。多分あいつが逃したんだ」
「くそっまたあいつか。街の異端児が。さっさとくたばっちまえばいいものを」
兵士たちは諦めて引き上げていった。
「もう大丈夫みたいね」
「すまねぇ……助かった」
「どうしてこの街に入ってきたの?ポカ属がここに来ちゃいけないのはこの国の常識でしょ?」
「この国の常識?何言ってんだ?そもそもここはどこだ?」
「ここはポーケという街よ。あんたこの国の人間じゃないの?」
「あぁ。俺はな…………」
「森を数週間さまよってたら、ここについたー?!」
突然の大きな声にアリアは慌てて耳を塞いだ。
「なんだよ急に!」
「だってこの国の周りには他の国はないはずよ!近くても10キロ以上は離れてる!そこを歩いてきたなんて……」
「そんなことはどうでもいい!とにかくこいつを!」
「わかってる!今、応急処置をしてるから。ところであんた名前は?」
「アリア」
「アリアねぇ……私はリラン。よろしくね」
アリアは心配そうにクワガタを見つめていた。
「なぁ……治る?」
「大丈夫よ。危ないところだったけどね。命はちゃんと助かる」
「そうか……」
アリアはほっとした表情を見せた。
「ところで……あら?」
クワガタが治ると聞いて安心したのか、それとも溜まっていた疲れがどっと押し寄せてきたのか。アリアはその場に座り込み、深い眠りについていた。
「森を歩いてた。かぁ……この子は冒険でもしてたのかな?いいなぁ……自由」
リランはそう呟き、アリアに毛布をかけた。
ーー翌日。
「ん……。くぁ……。」
美味しそうな匂いでアリアは目を覚ました。
「おはよ。昨日はよく眠れた?」
「うん……おかげさまで。ありがとう」
「別に何もしてないよ」
リランは鍋のスープを味見する。
「うん!おいしい!」
「何作ってんだ?」
「私特製のスープよ。そっちに持ってくからテーブルの上のお皿並べてくれる?」
「わかった」
アリアが並べたお皿に綺麗なオレンジ色のスープが注がれていく。
「すげぇ……めっちゃ綺麗」
「でしょ?今日のは特に自信作なんだから!」
アリアはテーブルの上を見渡す。
「どうしたの?」
「リランの食事は随分人間っぽいな」
「え?」
リランは少しバツが悪そうな顔をした。
「クワガタの家で食べたときはワニとかが出てきたんだぜ」
「……あ、あぁ!それは地域によって違うからね!」
「ふーん」
「それより今日、クワガタくんの傷を治すための薬草を取りに森へ入るんだけど一緒に行かない?」
「え?!行く!」
「よし!じゃあ早くご飯食べちゃおう!」
クワガタは未だ眠ったままだった。
「ところで聞きたかったんだけどさ。二人はなんであんな傷を負ってこの街に来たの?」
リランとアリアは大きな藁の籠を背負い、森の中を歩いていた。
「いやぁそれがよ。クワガタが夜ご飯ご馳走してくれるっていうから、この森のレアな食材食べたいって俺がリクエストしたんだ」
「へぇ……てことはマンモス?」
「そう。それで山の麓にある洞穴まで行ったんだけどよ。そしたらこーんなおっきいマンモスが出てきて!」
アリアは手を目いっぱい広げてマンモスの大きさを表現した。
「さすがに勝てないと思って二人で逃げようとしたんだけど逃げられなくて……」
「それでどうしたの?!」
「クワガタが踏み潰されそうになったから、一か八かでマンモスに向かっていったら右手が急に桜色に光ってさ!その状態で殴ったらマンモスが飛んでいったんだ!あはは」
リランは驚いて言葉を失った。
桜色に腕が光った……?
「それ……今やってって言ったらできるの?」
「それができないんだよ」
アリアは右手に力を入れたり、振り回してみたりするも何も起こらない。
「あ、でもね、マンモスと戦った後、虎にもあったんだ!その時も桜色に光った!あはは」
自分や仲間がピンチに発動する力……。しかも桜色ってことは……。この人ならもしかすると……。
「ねぇ!アリアって修行とかしたことある?」
「修行?そんなのねぇぞ!あ、でも昔お父さんと稽古とかはしてた」
やっぱり……まともな指導を受けてないんだ。だから自分の力のことを知らない。しかも桜色ってことはこの子はもしかすると……。
グァァァァ!
アリアとリランの目の前に大きなクマが現れた。
「うぉ!クマだ!クマ!」
「ねぇアリア。あなたがマンモスと虎と戦った時に発動した力ってこんな感じじゃなかった?」
「おい!そんな冷静に話してる場合かよ!食われちまうぞ!」
リランは藁の籠を投げ捨て、準備運動をする。
「え?!何してんだ?!戦うのか?!」
「いいから見てて。多分だけど私もあなたと同じ力を持ってる」
「は?」
リランはクマに向かって走り出した。
グァァァァ!
「おい!危ねぇぞ!」
リランの右手が赤く光り始める。
「え?!あれって!」
俺の手が桜色に光った時と同じ……!
「炎花一輪!」
リランがクマを殴った瞬間、炎の花びらが開き、クマはその場に倒れた。
「おぉ!すげぇ!」
「アリア!もしあなたも今と同じような力を持ってるなら私が教えることができる!」
「一緒だ!俺もあんな感じだった!」
アリアは目を輝かせて言った。
「よかった……じゃあ私が教える!だから一つお願いがあるの!」
「は?」
「私と一緒に戦って欲しいの!」
「はぁ?!」




