マンモスVSクワガタ&アリア
「さて!夜ご飯でも狩りますか!」
さっきのテンションとは打って変わって、ハイテンションに戻るクワガタ。
何か触れてはいけないことがあるんだと思い、アリアは抱いた疑問をそっと心の中にしまった。
「夜ご飯は何にするの?」
「何が食いたい?」
「何って言われても……」
うーん……とアリアは空を見上げながら悩んだ。
「いっぱいいるぞ?虎もいるし、ゾウもいる!」
えぇ……
「どんな奴でもうまい料理にしてやるよ!」
狩る動物がどんなものであっても何となくこの言葉だけは信じることができる。
「この森でレアな動物は何なんだ?」
「ほう……いいねぇ……そりゃお前、マンモスだ!」
「マンモス?!まだ生きてんの?!」
「この森の奥に山が見えるか?」
クワガタが指を差した方向には、壁のようにそびえ立つ大きな山があった。
「あそこの洞穴に超巨大なマンモスの巣がある。普段は近づかねぇんだ、強すぎるからな。でも今日は客人がいる。特別だぞ?」
クワガタは満面の笑みでそう言った。
「だいぶ歩いたなぁ……」
「まぁ山の麓にある洞穴だからな……」
ぐるるるる……
「何だ今の……」
猛獣の唸り声のような音に、アリアは体が震え上がった。
「今のはマンモスのいびきだ……どうやら寝てるようだ……チャンスだぞ」
ゆっくりと物音を立てないように洞穴に近づいていく二人。
「うわぁ……でっけぇ洞穴……ほぼトンネルじゃねぇか」
アリアが目にした洞穴は天井が見えないほど大きかった。
「入るぞ……気をつけろ……」
「真っ暗で何も見えねぇ……」
二人は壁をつたって前に進んでいく。
ぐるるるる……
前に進む度、唸り声がどんどん大きくなっていく。
「くっせぇ……」
「仕方ない……これが野生動物の匂いだ」
「おぇっ!何だよこれ……吐きそうだ」
その時だった。
パキッ!
小枝を踏んだ音が洞穴の中で響く。
「しまった!」
ズーン……!
「何だ?」
「マンモスが立ち上がったんだ!一旦引くぞ!出口は走れ!」
二人が走り出すと、ドスン、ドスンという足音とともにマンモスが後ろから追いかけてきた。
「おいおい!まじかよ!」
「とにかく外に出ろ!踏み潰されちまう!」
「やっと出た!」
振り返るとそこにはとてつもなく太く、そして長い立派な牙を持った巨大なマンモスが立ちはだかっていた。
「でけぇ……」
「こいつはすげぇな。俺もこのサイズは見たことがない」
アリアは恐怖で体が震えていた。
「時にアリア、お前戦えるのか?」
「一応……稽古はしてた……」
「稽古?何じゃそりゃ」
「剣は使える……」
「そうか……」
クワガタは腰につけていた剣を抜きアリアに投げた。
「それを使え!」
「え?!でもクワガタは?!」
「俺は接近戦も得意なんだ!」
えぇ……できれば戦わずに逃げたいのに。こんなでかいのとどうやって戦えって言うんだよ。実際、稽古してただけで戦ったことなんて一度もないし、うーん……。
アリアはしゃがみ込んで頭を抱えた。
「おい!ぼーっとするな!そっちいったぞ!」
「え?」
上を見るとマンモスが鼻を振り上げて攻撃しようとしてきていた。
「ギャーっ!」
間一髪でそれをかわし、地面に倒れ込む。
「気ぃ抜くな!油断したら命はないと思え!」
「わかった……」
もうやるしかないのか!
「今度はこっちからいくぞ!」
クワガタは空中へ飛び立ち、回転しながらマンモスへと突っ込んでいった。
「インセクト・バグ!」
「おぉ!すげぇ!」
クワガタの技はマンモスに直撃した。
しかし、マンモスは微動だにしない。勢いのあった技が全く効いていない様子だった。
「まじかよ……めちゃくちゃ皮膚が硬い!」
マンモスは目の前で呆然と突っ立っているクワガタに襲いかかる。
「うぉ!」
鼻を地面に振り下ろしただけ。たったそれだけなのに地面に大きな穴が空いた。
「なんつー威力だよ……」
やるしかないと心で誓ったのはいいものの、アリアはまだ動けずにいた。
怖い……怖くて動けない……。
クワガタはマンモスの猛襲を受けている。攻撃することはできず、避けるのが精一杯だった。
俺のために、クワガタが頑張ってるんだ!俺だってやらなきゃ。よし行くぞ、それ行くぞ、よっしゃ今だ…………ダメだやっぱり動けない。
「うわぁぁぁ!」
マンモスの攻撃がクワガタに当たった。
クワガタはものすごい勢いで飛んでいき、木に叩きつけられた。
「クワガタ!」
「げほっ……大丈夫だ……くそっ……逃げる隙すら与えてくれねぇ」
「くっ……!」
アリアは目をぎゅっと閉じてマンモスへ突っ込んでいった。
「うぁぁぁぁぁぁ!」
グサッ!
マンモスの牙がアリアの肩に刺さった。
「あぁ!いてぇぇぇぇぇぇ!」
「あいつなんで目閉じて突っ込んでいったんだ……自分から刺さりに行ったようなもんじゃねぇか」
マンモスは倒れ込んでいるアリアを踏み潰そうと片足を上げている。
「まずい!」
クワガタは一直線にアリアの元へと飛んでいく。
「スピーディー・バグ!」
クワガタはアリアを抱え、その場から助け出した。
「危ねぇ……」
「あ……ありがとう……」
「お前……戦闘は素人だな?」
「え……?」
「目閉じて敵に突っ込んでいく奴なんていねぇよ」
「はは……実際戦ったことなんて一度もない」
「うぉい!それを早く言えよ!」
「とりあえずこのまま飛んで逃げよう!二人とも死んじまう!」
クワガタはそのまま空を飛んで逃げようとした。だが、マンモスは鼻を伸ばし、クワガタの足を力強く掴んだ。
「いでででででで!」
そのまま空中で振り回す。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
そして地面に叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……空飛んでも逃げれねぇし……もうどうしようもねぇ……」
「クワガタ……このままじゃ俺たち死んじまうぞ……」
「あぁわかってる……でもここを乗り切る策がない!」
無情にもマンモスは攻撃をやめない。
「うぁ!」
「……っ!」
二人は体が動かなくなるほど、痛めつけられていた。
「おい!逃げろ!クワガタ!」
「ダメだ……もう体が……」
仰向けで倒れたまま、体がぴくりとも動かない。マンモスはお構いなしに、クワガタを踏み潰そうと片足を大きく上げた。
「クワガタ!」
「やべぇ……本当にやべぇ!」
くそっ!このままじゃクワガタが死んじまう……。何か策はないのか?
周りを見渡すもこの場を打開できるようなものは何もない。
俺が余計なことを言わなかったらこんなことにはならなかったのだろうか。自分の発言が悔やまれる。
「ちくしょう!」
アリアは何度も何度も地面を殴りつける。
「ちくしょう!ちくしょう!」
その時だった。アリアが地面を殴った瞬間、ドーンっという大きな音とともに、足元の地面が大きく凹んだ。
「え?!何?!」
アリアは自分の右手を見る。
「何これ……」
右手からは気付かぬうちに、桜色に光るオーラが出ていた。
「これ……俺がやったのか?」
いける!
アリアは覚悟を決めて立ち上がり、マンモスに向かって走っていった。
「んん!だりゃぁぁぁぁ!」
アリアの渾身の右ストレートがマンモスの腹に突き刺さる。
「遠くまで飛んでけぇ!」
アリアが力を込めた瞬間、大きな桜の花びらが開き、マンモスは森の奥へと勢いよく飛んでいった。
「はぁ……はぁ……」
アリアはその場に倒れ込んだ。
「お前……そんな技使えたのか?」
「いや、わかんない……俺も初めてやった」
右手に力を込めたり、素振りをしてみたりするも、さっきのような桜色のオーラは出てこない。
「何だったんだ?」
「お前にわかんねぇなら俺にもわかんねぇよ……ちょっとこれは重症だな、もう動けねぇ」
「おい大丈夫か?」
クワガタからの返事がなくなった。
「おい!クワガタ!こんなとこで死ぬなよ!なぁ!」
「くっそ……どうやって戻ったらいいんだ……いや、病院に連れていくのが先か?」
アリアはその場で頭を抱えた。
「いや……考えても無駄だ!」
クワガタを背中に担ぎ、町に向かって歩き出した。
「おい、絶対死ぬなよクワガタ!お前マンモス料理食わしてくれるって言ったじゃねぇか。約束だからな!」
どんなに声をかけても目を開けることはなかった。
アリアは足を止めることなく、ただ前に進み続けた。
突然だが、ここでプロテアとその周辺の町の位置関係を説明しようと思う。
クワガタの住むプロテアは『イエローネーション』と呼ばれる国の南に位置する小さな町だ。ここには虫と人間のハーフのポカ属と呼ばれる変わった種族が住んでいる。そしてその町を囲うように森が存在している。今アリアがいるのもこの場所だ。
プロテアを北へ進むと今度は空中から見るとドーナツのような形をした町が見えてくる。ここには人間のみが住んでいる。その中でもドーナツの穴の部分は『ポーハイ』と呼ばれ、国王や貴族などの上級国民が住んでいる。そしてその周りを囲うように一般市民が住んでいる。この場所を『ポーケ』と呼んでいる。
ーーポーケ市内。
「おい、リランそろそろこっちに戻ってこないか?」
「いいえ、私とあなたの意見は食い違ったままです。もし、考えを改めて、国民にきちんと説明するのであれば、考えましょう」
「そんなことしたら私の地位がなくなるではないか!」
「あなたはそれぐらいのことをしたんです!」
リランという女とある男が言い争っていた。周りのポケ市民はそれをちらちらと見ながら足早に通り過ぎていく。
「ふん……くだらん。しかし、お前には帰ってきてもらうからな!行くぞ!」
男は去って行った。
「おい!リラン!いい加減あっちに戻ったらどうだ?」
「そうだよ!何が納得いかないのさ!」
「だから前にも説明したでしょ?」
「あぁ聞いた聞いた。ポカ属が……って話だろ?そんな信ぴょう性のない話、誰が信じるんだよ」
周りの市民たちは皆、うんうんと首を縦に振った。
「そもそも国王を悪人にしようとするお前の考え自体おかしいんだぞ?あの人は我々を救ってくれた人だぞ?」
「だから!」
「わかったわかった。もういい。この話は終わりだ。さっ!みんな仕事に戻れー」
リランの元に集まっていた人たちがぞろぞろと去っていく。
「何でみんな信じてくれないんだ……悪いのは全部あいつなのに……」




