散りゆく桜
ーー数十分前。
ブーッブーッ!
「お、夜ご飯の時間だぜー」
兵士や門番たちはいつも通り、柵を閉め王宮へと戻っていった。
その数分後、悲劇は起きた。
突然の爆発音と共に、王宮からは一気に火の手が上がった。
それを見た国民たちはバケツリレーで応戦するも、そんな少量の水では太刀打ちできないほど燃え広がっていた。
「くそっ!消えねぇぞ!」
「どうしたらいい?!そもそも無事なのか?!」
「それもわからない!なんだ急に!」
ガシャン!
王宮の柵を叩く音がした。
「おい!あれ!国王じゃないか?!」
「ほんとだ!出してやれ!」
消火活動に参加していた一部の国民が鍵を壊し、国王を救出した。
「国王無事だったんですね!」
「…………。」
「国王?どうしたんですか?どこか怪我でもしたんですか?」
「…………。」
どれだけ質問しても俯いたままで答えが返ってこない。
「大丈夫ですか?」
顔を覗き込んだその時だった。国王は突然、剣を振り上げ、目の前にいた国民の胸を切り裂いた。
「え?!」
「ちょっと!どういうことですか?!」
突然の出来事に呆気を取られ、動けない。
「な……何か変だ……とにかく逃げろ!」
逃げ惑う国民たちを後ろから全速力で追いかける。
世界一平和な国の国王とはとても思えなかった。
ーー公園内。
「逃げろー!」
国民たちが必死な顔で逃げていく。いつもは優しく話しかけてくれる近所の人たちはこっちを見向きもしなかった。
「来たぞ!人殺しの王が!」
人殺しの王……?何を言っているんだ?
アリアは状況が理解できなかった。
「おじさん!どういうこと?!何が起きてるの?!」
「俺がそんなこと知るかよ!お前の父親だろ?!こんなことやってるのは?!」
お父さんが……?ますます意味がわからない。
しかし、国民たちが逃げ回ってる理由、おじさんがお父さんのことを人殺しだと言った理由はすぐにわかった。
「やめて!子供にだけは……!」
ズバッ!
「こっちに来ないで!」
ザシュッ!
街で誰かが剣を振り回してる。
アリアは物陰からその状況をこっそりと見ていた。
「僕たちが何をしたと言うんですか!国王!」
国王?!お父さんのことじゃないか!
そしてアリアは衝撃的な場面を目にする。
「うわぁぁぁぁ!」
声を上げ、涙を流しながら逃げ惑う国民を剣を持った国王が、切り裂いていく。
「え……なんで……」
昼までの優しかった父の姿ではない。ただ無表情で、一言も発することはない。国王が通った道にはたくさんの国民が倒れている。
アリアはその場から走って逃げた。
「とにかく、王宮へ帰らなくちゃ!」
アリアが王宮に着いた頃にはもうすでに火は大きくなり、王宮には近づけないほどだった。
「お母さん!お父さん!うわぁぁぁぁぁ!」
泣き声だけがその場に響き渡っていた。
ーー王宮内。
「逃げ場がない……」
アリアの母は襲いかかる火の手から命からがら逃げ出し、出口を目指していた。
カツ……カツ……カツ……
革靴の音が響き渡る。
「どなたですか?!」
「お前は、この国の王妃ゼーベラだな」
ゼーベラの前には背の高い真っ黒な男が立っていた。
「えぇ。そうですが。質問に答えなさい!」
「ずいぶんと気の強い女だ。しかしまぁ死にゆくお前に答える必要はない。代わりに俺の質問に答えろ」
「なんと強欲な……」
「貴様にアリアという息子がいるのは本当か」
ゼーベラは驚き目を見開いた。
「その反応は本当のようだな」
「なぜそれを!」
「この国を乗っ取ろうってんだ。それぐらい調べるだろう。ちなみに今、俺の部下が殺しに向かっている」
「なんてことを!そんなことは絶対にさせない!今すぐやめなさい!」
ゼーベラは男の胸ぐらを掴み涙ながらに叫んだ。
「何が目的?!あの子をどうするつもりなの?!」
「キーキーうるせぇんだよ!」
男は持っていたナイフでゼーベラを一刺しにした。
「うっ……はぁ……はぁ……」
ゼーベラは腹を抑えながらその場に倒れ込んだ。
「はぁ……はぁ……アリ……ア」
胸元に手を伸ばし、ロケットペンダントを取り出す。
「アリア……逃げて……元気でね……」
ゼーベラが最後に見た光景はアリアが満面の笑みで花束を抱えている写真だった。
一方、同じく城の中に取り残されていた、国王もまた出口を探して火の手の中を彷徨っていた。
「よう……」
「誰だお前は!うちの兵士たちはどうした?ここに来る前に必ず会ったはずだ」
「さぁ……そんな奴ら記憶にないな」
「貴様!」
「まぁ落ち着けよ、お前今この国で何が起こってるかしらねぇだろ……聞けよ」
男は国で起こってる惨劇の全てを国王に話した。
「そんなことしたら……」
国王は膝から崩れ落ちた。
「あっはっは!その表情良いねぇ!絶望の淵にいるって感じがしてよぉ!たまんねぇな!」
「国民を……人の命をなんだと思ってるんだ!」
「あぁ?知らねぇよ。俺はただ自由に幸せに暮らしたいだけなんだ。この世界を全て俺のものにして」
「そんなことが許されるわけないだろ!」
男は首を横に振った。
「わかってないねぇ……世界一平和な国で起きた国王による惨劇それを止めた男。この見出しだけで俺は争いを止めた勇者として崇められる。世界的地位を上げるのに最も有効なんだよ、この国は」
「だったら……ここで倒せば良いだけの話だろ……」
「それができないという話のはずだが?なぁ!国王ユッカ!」
「馴れ馴れしくその名を呼ぶな!」
腰に刺していた剣を抜き、一気に男に詰め寄る。
「あぁぁぁぁ!」
何度も剣を振り抜くも一向に当たらない。
「なんだその剣の振りは!貴様の妻もそうだったが平和ボケしてる奴らはこれだから……」
「ゼーベラに手をあげたのか!」
「何やら向かってきたんで、刺し殺しただけだ」
男は笑って見せた。
「貴様!絶対に許さん!」
「あーあー熱くなっちゃって」
男はユッカの剣を片手で掴み真っ二つに割って見せた。
「は?!」
「せっかくだ……俺のとっておきでお前を葬ってやるよ」
男が右手を握ると拳が黒く光り出す。
「じゃあなユッカ国王……」
「なにを……」
「黒花一輪!」
その瞬間、黒色の花びらが広がり、ユッカは地面にめり込んだ。
「さて……」
プルルルル……
ガチャ……
「ボス……どうされました?」
「こっちは完了だ……もう姿を消して良いぞ」
「了解しました……」
男はユッカを片手で持ち上げ、王宮のバルコニーへと向かった。
バルコニーからは国民が逃げ惑う様がよく見えた。
「ボス……こちらの準備は整いました……姿を消してから10分。もう不自然はないです……」
「わかった」
男はユッカを天に掲げ大声で叫んだ。
「聞け!デイジーリーブの国民共ぉ!」
その一声は国中に響き渡り、逃げ惑う国民たちまでもがその足を止めた。
「これを見ろぉ!」
「おいあれは!」
「国王じゃないか?!」
「この国を恐怖のどん底に落とした首謀者はこの私が討ち取ったぁ!」
国中から歓声が上がる。
「ありがとう!」
「国は救われた!」
「しかし!こいつの息子がまだ生きている!そいつはきっと!この国を取り戻し、再びお前らを恐怖に陥れるだろう!」
「その通りだ!」
王宮の前で話を聞いていたアリアの元へ国民たちがゆっくりと忍び寄る。
「今こそ奴を討ち取り!本物の平和を取り戻すのだ!」
「うぉぉぉ!」
大人たちが一斉にアリアに襲いかかる。
「人殺しの息子!」
「お前も企んでることは同じか?!」
「今ここで俺たちの手で殺してやる!」
昨日まで優しかった国民たちが突然寝返り、鬼の形相でアリアを追いかける。
アリアはただ必死に逃げることしかできなかった。父の死を、母の死を悲しむ余裕すらなかった。
「はぁ……はぁ……」
「アリア!」
「リック!」
友人の顔を見て少しホッとした。が、それは一瞬だった。
「……おい!アリアがここにいるぞ!捕まえろ!」
さっきまで一緒に遊んでいた仲間たちまでもが、敵に寝返っていた。
「くそっ!」
アリアは国の西へと走り、花畑へと入っていった。たくさんの花を踏みつけながら進んでいく。
「絶対に逃すな!この先の森に入られたら追いかけようがないぞ!」
アリアは必死に花畑の中を進み、森へと入っていった。
「いたか?!」
「いやいない!」
「これだけ探していないんだ。もう花畑を抜けて森へと入っていったんだろう」
「くそっ帰ってきたら必ず俺の手で!」
「そりゃみんな思ってるさ……ユッカ一族は絶対にゆるさねぇ!」
国民たちは追うことを諦め、街へと戻っていった。
「はぁ……はぁ……逃げ切った……でも……お父さんもお母さんも殺されちゃった……」
アリアは森の中で静かに涙をこぼした。
翌日、新聞の一面には『世界一平和な国、デイジーリーブ。一夜にして戦場に』という見出しの元、国王が国民を裏切り大量虐殺を行ったが、たまたま居合わせた男たちによって危機は救われたと書かれていた。
その記事の通り、一夜が明けたデイジーリーブでは本当の平和を取り戻したと、街をあげてお祭り騒ぎになっていた。
「今日はいっぱい飲めよー!食えよー!祭りだ祭りだー!」
「おいリックどうしたんだ?!食え食え!」
「あ、うん……」
「なんだ?アリアがいなくなったことを悲しがってんのか?」
「いや、あの時、殺されるのが怖くてアリアがいたーって叫んだけど、よく考えたら大事な友達だったなって……」
「何言ってんだ!あいつは人殺しの一家だぞ!お前そんなのと仲良くしたいのか?!」
「いや、そんなことはないけど……」
大人たちは子どもたちに対してユッカ一族は人殺しの一族と教えるようになり、その名を口にすることすらこの国ではタブーとなっていった。
取り繕った平和か、真の平和か。その国の表面を見たところでそれはわからない。その国に住んでいる国民にだってわからない。
花畑には桜の木が一本立っている。今は時期ではないが、一つだけ蕾をつけて、その後開花した桜の花があった。しかし、いつの間にか花びらは散り、土まみれになって地面に落ちていた……。
ザー…ザー…森の木が風に煽られている。葉のわずかな隙間から陽の光が差し込んできていた。
森に入って数週間、食べるものも飲むものも何もなく、ただやせ細っていたアリアの姿がそこにはあった。




