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妾の顔を見た男は、みな狂う。ただ一人、婚約者を除いて  作者: 佐藤みさき
第二章 看板娘のアンナ・シュタルク

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精一杯がんばってまいりますわ

 いやあ、それにしても、このステップを社交界で披露する日が来ようとは。


 以前、社交ダンスの全国大会なるものを知り、帝国一位ペアのダンスを幻影で観(み)て、「ぜひとも自分でも踊ってみたい」と思い、ユリウスとともに練習したのである。

 共に練習を重ねた特定パートナーとでなければ到底踊れない難易度なうえ、今回のように一組のみのファーストダンスでなければ、普通に踊る他の組と力いっぱい激突し、大事故にもなりかねない。まさに大会専用ステップなのだ。

 今さらだが、ユリウスは本当によく快諾してくれたと思うし、よく習得に至るまで付き合ってくれたと思うし、今回も、よくお披(ひ)露(ろ)目(め)を快諾してくれたものだ、と思う。

 妾(わらわ)の許婚(いいなづけ)、本当にすごく…すごいな?


「2曲目はよろしいのですか? アナスタシア様」

「お、やりたいのか?」

「ふふっ、いいえ」

「だろう、さすがにな。それに、エッセンバッハ公爵夫妻に挨拶したいし、ユリエッタの様子も見たい…。そなたは? だれか、挨拶しておきたい者はいるか?」

「いえ。アナスタシア様に従います」

「そうか」


 さすがに二人揃(そろ)って息を弾ませつつ、口々に賞賛を述べて近寄ってくる貴族らに妾(わらわ)が会(え)釈(しゃく)と手振りで返しながら、人々を掻(か)き分(わ)けるようにして歩き、エッセンバッハ公爵夫妻と子供たちの居る場所まで辿(たど)り着(つ)いた。

 エッセンバッハ公爵と公爵夫人は、それまで会話していた他の客との話を切り上げ、妾(わらわ)に向き直った。


「これは、皇女殿下! 大変すばらしいファーストダンスをご披露いただき、誠にありがとうございます。そのうえ、貴きお声で、歌まで! 私ども、前(ぜん)代(だい)未(み)聞(もん)とも言うべき栄誉を賜り、感謝の念に堪えません」

「うむ。よき夜会への招待に感謝する、エッセンバッハ公」

「とんでもない! 私どものほうこそ、殿下のご臨席を賜り、これ以上の喜びはございません。ささやかなおもてなしではございますが、当家の夜会を楽しんでいただけますれば幸いに存じます」

「うむ」


 ひととおり挨拶を済ませたので、妾(わらわ)は、近くにいたエッセンバッハ公爵家の子供たちに目を向けた。

 イブニングドレスで着飾ったユリエッタと、ユリエッタの兄である嫡男アルブレヒト令息と、見慣れない令嬢とがいた。ユリエッタ経由で音に聞いた、アルブレヒト殿の婚約者のクロイツェル侯爵令嬢と思われる。

 ユリエッタと令嬢はカーテシーを、アルブレヒト殿はボウ・アンド・スクレープをして、それぞれ頭を深く下げていた。


「ごきげんよう、ユリエッタ。それと、アルブレヒト殿。そちらの令嬢を紹介してもらえるか?」


 妾(わらわ)が声をかけると、3人はそれぞれ頭をあげた。


「ごきげんよう、姫様」

「ごきげんうるわしゅうございます、皇女殿下。こちら、先日婚約いたしました、私の婚約者のエリーゼ・フォン・クロイツェル侯爵令嬢にございます」


 アルブレヒト殿の紹介を受け、クロイツェル侯爵令嬢がもう一度かるく頭を下げる。


「お初にお目にかかります、皇女殿下。エリーゼ・フォン・クロイツェルにございます」

「うむ。まずは、婚約おめでとう。そなたの義妹となる予定のユリエッタは、妾(わらわ)の専属侍女である。これからも付き合いが長くなると思われる故、よろしく頼む」

「ありがとうございます、殿下。わたくしのほうこそ、不(ふ)束(つつか)者(もの)ではございますが、どうぞよろしくお願い致します」


 頷(うなず)いて返したのち、妾(わらわ)は、ユリエッタのほうに向き直った。


「そなたのほうはどうだ? 今(こ)宵(よい)の参加者には、めぼしい男はいそうか」

「ふふふっ。さあ、どうでしょうか、これから探るところですの。姫様とアーデルシュタイン侯の“ハンパない”ダンスの後では、見劣りするものしか踊れませんけれども、殿方探しを精一杯がんばってまいりますわ」


 ヴァレンティーナから教わった言葉を使いつつ、ユリエッタはそう言って笑った。耳慣れない形容詞に、エッセンバッハ一家もクロイツェル侯爵令嬢も首をかしげる。


 妾(わらわ)からは特に解説せず、ユリエッタとクスクス笑いを交わしたあと、ユリウスに「挨拶はもういい」と目で合図を送り、妾(わらわ)たちはエッセンバッハ一家らから離れた。

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