精一杯がんばってまいりますわ
いやあ、それにしても、このステップを社交界で披露する日が来ようとは。
以前、社交ダンスの全国大会なるものを知り、帝国一位ペアのダンスを幻影で観て、「ぜひとも自分でも踊ってみたい」と思い、ユリウスとともに練習したのである。
共に練習を重ねた特定パートナーとでなければ到底踊れない難易度なうえ、今回のように一組のみのファーストダンスでなければ、普通に踊る他の組と力いっぱい激突し、大事故にもなりかねない。まさに大会専用ステップなのだ。
今さらだが、ユリウスは本当によく快諾してくれたと思うし、よく習得に至るまで付き合ってくれたと思うし、今回も、よくお披露目を快諾してくれたものだ、と思う。
妾の許婚、本当にすごく…すごいな?
「2曲目はよろしいのですか? アナスタシア様」
「お、やりたいのか?」
「ふふっ、いいえ」
「だろう、さすがにな。それに、エッセンバッハ公爵夫妻に挨拶したいし、ユリエッタの様子も見たい…。そなたは? だれか、挨拶しておきたい者はいるか?」
「いえ。アナスタシア様に従います」
「そうか」
さすがに二人揃って息を弾ませつつ、口々に賞賛を述べて近寄ってくる貴族らに妾が会釈と手振りで返しながら、人々を掻き分けるようにして歩き、エッセンバッハ公爵夫妻と子供たちの居る場所まで辿り着いた。
エッセンバッハ公爵と公爵夫人は、それまで会話していた他の客との話を切り上げ、妾に向き直った。
「これは、皇女殿下! 大変すばらしいファーストダンスをご披露いただき、誠にありがとうございます。そのうえ、貴きお声で、歌まで! 私ども、前代未聞とも言うべき栄誉を賜り、感謝の念に堪えません」
「うむ。よき夜会への招待に感謝する、エッセンバッハ公」
「とんでもない! 私どものほうこそ、殿下のご臨席を賜り、これ以上の喜びはございません。ささやかなおもてなしではございますが、当家の夜会を楽しんでいただけますれば幸いに存じます」
「うむ」
ひととおり挨拶を済ませたので、妾は、近くにいたエッセンバッハ公爵家の子供たちに目を向けた。
イブニングドレスで着飾ったユリエッタと、ユリエッタの兄である嫡男アルブレヒト令息と、見慣れない令嬢とがいた。ユリエッタ経由で音に聞いた、アルブレヒト殿の婚約者のクロイツェル侯爵令嬢と思われる。
ユリエッタと令嬢はカーテシーを、アルブレヒト殿はボウ・アンド・スクレープをして、それぞれ頭を深く下げていた。
「ごきげんよう、ユリエッタ。それと、アルブレヒト殿。そちらの令嬢を紹介してもらえるか?」
妾が声をかけると、3人はそれぞれ頭をあげた。
「ごきげんよう、姫様」
「ごきげんうるわしゅうございます、皇女殿下。こちら、先日婚約いたしました、私の婚約者のエリーゼ・フォン・クロイツェル侯爵令嬢にございます」
アルブレヒト殿の紹介を受け、クロイツェル侯爵令嬢がもう一度かるく頭を下げる。
「お初にお目にかかります、皇女殿下。エリーゼ・フォン・クロイツェルにございます」
「うむ。まずは、婚約おめでとう。そなたの義妹となる予定のユリエッタは、妾の専属侍女である。これからも付き合いが長くなると思われる故、よろしく頼む」
「ありがとうございます、殿下。わたくしのほうこそ、不束者ではございますが、どうぞよろしくお願い致します」
頷いて返したのち、妾は、ユリエッタのほうに向き直った。
「そなたのほうはどうだ? 今宵の参加者には、めぼしい男はいそうか」
「ふふふっ。さあ、どうでしょうか、これから探るところですの。姫様とアーデルシュタイン侯の“ハンパない”ダンスの後では、見劣りするものしか踊れませんけれども、殿方探しを精一杯がんばってまいりますわ」
ヴァレンティーナから教わった言葉を使いつつ、ユリエッタはそう言って笑った。耳慣れない形容詞に、エッセンバッハ一家もクロイツェル侯爵令嬢も首をかしげる。
妾からは特に解説せず、ユリエッタとクスクス笑いを交わしたあと、ユリウスに「挨拶はもういい」と目で合図を送り、妾たちはエッセンバッハ一家らから離れた。




