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翔駒が目を開けると、そこは先程までの暗闇ではなく、太陽に照らされた大地と小さな川が目に入りました。
遠くには村のようなものも見えます。
背後には巨木が一本のみ、ポツンと生えています。
翔駒は巨木へと歩み寄り、その背中を木の幹へと預けその場に腰を下ろしました。
ふと、自分以外の気配を感じ視線を向けると、そこには黒い毛をした小さな子猫がいました。
子猫は翔駒の足元でミーミーと鳴きながら足に擦り寄っており、かなり懐いているように見えます。
翔駒は優しく子猫を摘み上げ、慈愛を感じさせるような微笑みを子猫へと向け──手にしたナイフで喉笛を切り裂き、一瞬で子猫を絶命させました。
翔駒は何の罪悪感も感じでいないような表情で子猫を即座に投げ捨て、ナイフを振って血を払いました。
服で軽くナイフを拭いた後、パチンとナイフの刃をしまい、そのままポッケへと仕舞い込みます。
翔駒は幹に背を預けたまま、超常の──おそらくは神であろう存在から授かったモノについて調べ始めます。
しかし、調べると言ってもどうすればいいのか分からないのでとりあえず頭の中で念じてみることにしました。
すると突然脳内に授かったチカラについての情報が流れ込み、自然と馴染んでいくような感覚がしました。
情報によると、チカラは主に三種類に分かれるようです。
一つ目は【邪神の加護】というモノで、使用者の身体能力を強化してくれるそうです。
二つ目は【武器庫】というモノで、SPなるものを消費することで様々な武器を入手することができるそうです。
三つ目は固定の名称がなく、言うなれば自身の名称といくつかのスキル表記された【ステータスボード】のようなものです。
一つ目の名称のおかげで、翔駒にチカラを授けた超常の存在が邪神であることが判明しました。
翔駒は性能について調べるため、まずは一つ目の【邪神の加護】についてから検証しようと思いました。
【邪神の加護】を発動すると、翔駒の体から赤黒いオーラが溢れ出し、その身を包み込んでいきます。
翔駒は立ち上がると、振り向きざまに巨木の幹へと鋭い蹴りを放ちました。
放たれた蹴りは直径一メートルほどもある幹の三分の一までめり込み、轟音と共に木の破片を周囲にばら撒きました。
翔駒はゆっくりと足を引き戻すと、大きく抉れた幹を見て信じられないような表情を作りました。
翔駒的に、あの蹴りはそこまで全力で放ったものではなく、しかも【邪神の加護】による強化も相当な余裕があったからです。
さらに蹴りを放った足には傷どころか痛みすらもなく、つまりそれは肉体の頑強さすらも強化してくれるということになります。
これは想像以上に凄まじいものなのではないかと驚愕し、自然と口角が上がって行きました。
続いて、二つ目の【武器庫】について意識を集中させると、脳内に次のような情報が現れました。
──────
近接武器
ナイフ→1
折りたたみ式ナイフ→3
サバイバルナイフ→5
ククリナイフ→10
ギミックナイフ→15
仕込みナイフ(靴、水筒、手甲、帽子)→15
マギナイフ(火、水、土、風)→20
マギナイフ(光、闇、氷、雷)→30
剣(銅、鉄、鉄鋼)→25
剣(ミスリル、ヒヒイロカ、アンダマイト)→35
仕込み剣(杖、棍棒、メイス)→25
魔法剣(火、水、土、風)→35
魔法剣(光、闇、氷、雷)→45
聖剣・魔剣→1000
神剣・邪神剣→1000000
刀→30
・銃器類
ハンドガン(オートマ、リヴォルバー)→10
短機関銃→20
重機関銃→30
突撃銃→30
狙撃銃→30
ロケットランチャー→40
パイルバンカー→50
大砲→60
魔導砲→100
・その他
マガジン→5
サプレッサー→5
ワイヤー→5
煙幕→5
手榴弾・閃光弾・催涙弾・響音弾→10
地雷(対人・対車)→20
爆弾(時限・遠隔)→20
・カスタマイズ
切れ味調整→5
サイズ調整→5
重量調整→5
装填数調整→5
射出速度調整→5
色彩調整→5
威力調整→5
──────
それぞれの武器の横にある数字がSPなのでしょう。しかし、翔駒が現在有しているSPはたったの一であり、交換できるものがナイフしかありません。
さらに、SPの増やし方も分からないため、迂闊に交換することはできません。
最後に、三つ目である【ステータスボード】を調べることにしました。
ステータスボードとはあくまでも翔駒がつけた仮称であり、正式な名称ではありません。
脳内に浮かび上がるソレに集中すると、【武器庫】の時と同じく、次のような情報が頭の中に浮かび上がりました。
──────
名称:西湖翔駒
年齢:18
スキル:剣術、短剣術、刀術、拳術、体術、銃術、投擲術、遠目、気配操作、気配察知、危機察知、異常状態耐性
──────
「ふぅん……?」
スキル一覧の中にある武術系スキルは全て一度扱ったことのあるモノばかりで、翔駒にとって馴染みやすいスキルばかりです。
「それにしても、危機察知だの、異常状態耐性だのとあるが、本当に機能してくれるのか……?」
ふむ、と翔駒は少し考え込むと、少し口元を歪めながらゆっくりと村の方へと歩み始めました。
◆◇◆◇
村に近づいてくると、そこには村を囲んでいる申し訳程度の柵と、出入り口に立つ二人の青年が見えました。
警戒した表情を浮かべる、おそらくは門番であろう二人に、翔駒は愛想のいい笑顔を浮かべながら話しかけます。
「やぁ、お二人さん。少し村の方にお邪魔したいのですが、よろしいですか?」
「……見た感じ、盗賊の類には見えませんが……旅人ですか?」
「えぇ。といってもまぁ、途中で荷物も路銀もなくしてしまった間抜けですがね」
「それは災難ですね……では、この村へは休養と武器の仕入れを?」
「そうですね。ついでに何か仕事も紹介していただけないでしょうか? 一文なしはきついので」
「わかりました。どのようなものになるかはわかりませんが、村長に掛け合ってみます。肉体労働でも構いませんか?」
「はい、選り好みできるような状況ではないので。なんでも構いませんよ」
門番の青年は翔駒の言葉に頷くと、相方にと二言三言交わし翔駒を連れて村の中へと導いてくれました。
翔駒は村の様子を観察しながらも、門番の青年に遅れることなくついて行きました。
この村は近くに魔獣が出没する森があり、そのため人口はとても少なく約五十人程度の村人しかいません。
若い男が少ないため、翔駒の申し出は村としてもありがたいという話を門番の青年から聞きながら、村の中を歩いて行きます。
翔駒は滞りなく村長邸へと辿り着き、特に問題もなく仕事を与えられました。
仕事の内容は日毎に変わるそうで、今日の仕事は大量の薪割りをすることでした。
翔駒は当然薪割りなどしたことはありませんが、村人の手本を数度見ただけでそつなくこなせるようになり、周りにいた男たちはとても驚きました。
夜、翔駒は貸し与えられた空き家で寝っ転びながら昼間の続きをしていました。
一日行動したことで何か変化があるのではないかと考えたのです。
しかし、スキルをはじめ、加護などの出力に関しても何の変化もなく、落胆しながら目を瞑り、襲いくる睡魔にその意識を任せました。