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朝、目が覚めると、村はもうすでに活動を開始しているようで、空き家の中からでも騒々しい音が聞こえてきます。
硬い床から身を起こすと少し節々が痛むだけで、特にこれといった身体的変化はありません。
翔駒は昨日教えられた村長宅に向かい、今日の仕事について教えてもらいました。
今日は罠にかかった獲物を仕留める手伝いをすることになりました。
屈強な村人たちとともに、十五分ほど歩いていると森の入り口へと辿り着きました。
そこから慎重に森の中へと入っていくと、落とし穴にかかった猪が見えました。
村人の一人が猪の背後から首を狙って剣を突き刺し、一瞬で絶命させました。
そのまま近くの木を利用して血抜きをしていると、突然空から大きな鳥が襲ってきました。
猪の血の匂いに誘われてやってきたであろう鳥は翔駒へと一直線に突っ込んでいきます。
鳥の鋭い爪が翔駒の顔をズタズタに引き裂く寸前、【邪神の加護】を発動した翔駒の拳の一撃によって地面へと叩き伏せられました。
鳥が再び飛び立つ前に翔駒はその頭を踏み砕き、血と脳漿をぶちまけました。
一連の出来事があっという間に終わってしまったため、猪を捌いていた村人たちは唖然とし、翔駒の武芸に呆然としましたが、すぐに立ち直り、再びの襲撃に遭わないよう猪の解体を急ぎました。
◆◇◆◇
猪の肉と鳥を持って村へと帰ると、村人たちはとても驚き、翔駒へと感謝の言葉を投げかけました。
聞けば、あの鳥は魔獣らしく、素早い動きで襲って、鉄をも切り裂く爪や風の魔法を使って不可視の刃を生み出し、何人もの村人たちが犠牲になったそうです。
翔駒と戦ったときには魔法を使う暇もなく瞬殺されたので、翔駒にはあまり脅威には感じませんでした。
夜、猪の肉と野菜をたらふく食べた翔駒は昨日と同様に床で横になりながらステータスなどの変化について調べていました。
スキル、加護の出力を相変わらず変わっていませんでしたが、【武器庫】に変化がありました。
【武器庫】はSPと引き換えにさまざまな武器を入手できるものですが、そのSPの増やし方が分からないので放置してきました。
そのSPがなんと一からニへと増えていたのです。
なぜ昨日ではなく今日増えたのか、そもそも最初の一は何をすることでたまったのかを考えていると、一つ、思い至ることがありました。
「最初、この世界に来たときには子猫を殺した。昨日は何も殺さなかったが、今日は鳥の魔物を殺した」
つまりは、そういうことでした。
SPとはSoulPointの略であり、命を奪うことで増やすことができるのです。
翔駒はそのことに気づき、そして邪神の言葉を思い出しました。
「好きなように生きろ。そして、世界を絶望と混沌の渦へと沈めろ、か」
くははっ、と笑うと、翔駒はポケットへと入れっぱなしにしていた折りたたみ式のナイフを取り出し、ゆっくりと空き家を出て行きました。
夜の村は照明の類がなくあかりは月の光のみなので、とても暗いです。
しかし、翔駒は夜目がとても効くため、たとえ新月の夜だとしても問題なく動くことができます。
手始めに近くの家へと忍び込もうとすると、何かのつっかえがかけられているのか、引き戸が開きません。
しかし、翔駒は焦ることなく加護を発動させると、扉を蹴破り、強引に侵入しました。
当然、大きな音が夜の村に響きわたり、村人のほとんどが目を覚ましました。
翔駒が侵入した家の主も例外ではなく、なんのことかと狼狽している隙に喉を突き刺しました。
血を噴き出しながら倒れていく村人をそのままに、血塗れのナイフを持って家から出ると、様子を見に来た青年が二人、松明を持って現れました。
二人がナイフを見て声を上げる前に顎を打ち上げ、鳩尾に蹴りを入れました。
地面へと倒れ込む一瞬の間に喉笛を切り裂き、その返り血を大量に浴びました。
どうやら、加護は武器にも纏わせることができるようで、ただのナイフの切れ味がまるで業物のように感じられます。
何かの異変に気づいたのか、続々と様子を見に来た村人たちが現れ、その惨状に気絶するもの、悲鳴をあげるものなどに別れました。
何人かの村人が剣や斧を構えて翔駒へと突っ込んでいきますが、その全てが翔駒を掠めることもなく、逆にその使い手たちが血の海へと沈みました。
気絶したものは昼間に鳥にしたのと同じ要領で頭を砕き、靴を真っ赤に染め上げました。
立ち向かって来ず、一目散に逃げていく村人の背中を見ながら、翔駒は【武器庫】を発動させました。
10SPを消費することで、虚空から自動式拳銃を召喚し、村人たちへと発砲、一発も外すことなく次々と仕留めます。
弾は十五発しか装填されていなかったので、殆どの村人たちを逃すことになってしまいましたが、翔駒は特に気にしていませんでした。
暗闇の中へと消えた村人たちを眺めながら、翔駒はぽつりと呟きます。
「銃スキルがあるのは、この世界に銃があるかどうかじゃなくて、【武器庫】にあるから用意されているのか」
彼の表情には露ほどの罪悪感もなく、ただただ納得した顔をしていました。
翔駒は銃を【武器庫】へと仕舞うと、生き残りを皆殺しにするため、足取り軽く村へと戻って行きました。
一連の『作業』を終えると、SPは19にまで増えていました。
自動式拳銃と交換した分も含めると、過半数の村人を殺すことに成功したことになります。
翔駒はいつものように罪悪感を感じさせるどころか、新しい玩具を買い与えられた無邪気な子供のような表情をしていました。
黒くこびりついた血とぶちまけられた臓器などに塗れた村の惨状に満足げに頷くと、翔駒は返り血に塗れた体を清めるわけでもなく元の空き家へと戻ると、床に寝転がり、心地よい睡魔に身を任せました。




