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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
砂地を駆ける為に     (承)
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01-8 演習

01-8 演習

Ver1.4




 プロブ大佐への着任の挨拶を済ませた翌日、グラン・サウスココル特務大尉はセントルアーバ基地から東に10kmほど離れた砂地の上に居た。


 装いは魔導鋼線で編まれた鎖帷子に所属と位を示す徽章が縫い込まれた騎士の外衣(サーコート)


 武装は左の腰鎧に留められた両手持ちも可能なグランの騎士剣(バスタードソード)と背中に括り付けた訓練用の木剣となる。


「――――軽いな」


 そうして全ての準備を整えてから演習場に立ち、開始の合図を待つ段階になってからグランは今更のように自らの身軽さに驚く。


 全長4mにもなる竜剣を振り回してグランから見れば、魔導騎士としての装いはまるで素手で立っているかのように頼りない物であった。


 しかし、グランが自分の身体の一部と思う程に身近な存在であった竜剣は彼1人で扱える装備ではなく、保管するにも手に余る事から今はあの銀髪の少女に預けてしまっており、青年が持つ竜騎士であった事を示す残滓は守りの要である竜血石だけとなっていた。


 とは言え、唯一残ったそれだけであっても竜騎士であった者しか持つ事が出来ない存在――人が持てる至上の守りであり、それだけでも十分だとグランは首に掛けた赤い玉石を握り込む。


「――行くぞ」


 そうして開始の空砲を確認したグランは竜血石に魔力を通す事で不可視の障壁を展開し、“遠見”の魔術で捉えた歩兵部隊への急襲を開始する。


 “身体強化”は魔導騎士の必須技能とされる魔術であり、それで増強した今のグランの脚力は騎馬の全力疾走に等しい。


 そんなグランの急襲に対し、歩兵部隊が携帯する魔石銃から幾つもの魔石が叩き込まれる。


 高速で殺到するソレは赤色を滲ませた半透明の石にしか見えないが、この魔石は接触した瞬間に衝撃と火炎を巻き散らす魔術が“刻印”されており、防ぐ術が無ければ1発でも人間を死に至らしめる。


 その効果たるや魔術的な守りが施されていなければ熱と延焼によって人体の過半を焼き尽くす凶悪なモノであり、弾となる魔石が小さい事に因る圧倒的な装弾数も合わさる事でエクスリックス王国軍を代表する主兵装となっていた。


「――っ」


 しかし、竜と縁を結んだ者の証である竜血石が発する障壁はその凄惨な暴威を容赦なく弾き散らし、グランもまた進路上を埋め尽くす程に殺到する石の雨を気に留める事なく加速する。


 そして、相対距離は10mにまで迫る。


 戦場においては至近距離といえる所にまで接近したグランは、左腰に差した騎士剣ではなく背中に括り付けた木剣の柄を握りこむ。


 今回の演習は歩兵部隊や機竜隊に魔導騎士の脅威を再認識させる為の教導であり、同時に新参者であるグラン・サウスココルという戦力を測る為に設けられた舞台である。


 その過程において貴重な歩兵部隊を完封するのは必須事項となるが、それで彼等に被害を与えてしまうのは言語道断、以ての外だ。


「ひっ……!」

「この――」


 そんな目的の下、自身の武技を披露する場に踏み込んだグランは“身体強化”を威力に転化しない、腕力と剣技による攻撃を繰り出す。


 怯えて目を閉じてしまった者には軽く、魔石銃を剣代わりに防ごうとした者にはその防備を掻い潜るような工夫を混ぜ、グランは歩兵部隊の装備や武装に損害を与えないように彼等を無力化していく。


 突入したグランを囲む歩兵の数は多い。


 これはエクスリックスの構築が密集陣形や横隊といった前時代的な要素を残している事に因り、グランが最初の目標とした集団もその頭数は10数名を超えてしまっている。


 これは変革を望まない貴族の横暴と数が増える事に濃密な弾幕を張れる魔石銃の特性を捨て切れないというジレンマが重なった事で続けられている悪習であり、幾つか優位性を得る代わりに大きな問題を抱えている。


 その1つが接近されれば他の集団も含めて対応が取り辛くなるという中々に致命的なものであり、同士討ちの危険から魔石銃が使えないと見るや退かずに予備兵装である魔導剣を抜いてグラン切り結ぼうとする輩まで出てくる。


 個々人に対する調整を済ませていない魔導剣であっても戦車の装甲を抜ける事から、最後の保険として未だに帯剣し続けている兵士も少なくはないが――。


「――蛮勇だな」


 “身体強化”も使えない上にまともな訓練も受けていない彼等の剣に労するほど魔導騎士は甘くなく、グランは退がろうとしていた兵を優先的に叩きながら魔導剣を構えて迫る彼等を打ち倒していく。


 そうして接触した集団の誰1人として逃がさぬ立ち回りで歩兵部隊の全員を昏倒させたグランは、倒れた彼等を背に置く事でもう1つの集団に発砲を躊躇わせる形を取り、次への急襲を開始する。


 その様は正に八面六臂。見物とすればさぞ映えるのだろうが、この大立ち回りの功労者は竜血石にありグランの力は些細なものだ。


 (グゥエルナー)の障壁頼りという卑怯と指差されてもあながち間違いではない防御力は、グランをしても若干の心苦しさを覚える程だが――それ以上の反則がこの演習には居る。


「ぬっ――」


 その反則の相手をする為に倒れた2つ目の集団から離れ、『ソレ』が気兼ねなく戦える場所にグランが移動した瞬間、今までの魔石とは比べものにならない程に巨大な炎弾が彼に撃ち込まれる。


「――っ」


 人が受ければ形すら残らないであろう魔石を竜血石で凌いだグランが投射元に目を向ければ、“遠見”でなければ視認出来なかった『ソレ』が目視でも見える所にまで近づいてきていた。


 最初に目に留まるのは、灰の色。


 戦車を連想させる重厚な装甲は生者を守る兵器の権化と言えるが、魂の入っていないその足運びは実物が居るエクスリックスにおいては死者か亡者のソレを連想させてしまう、装甲と魔導鋼線の塊。


 機竜。


 全長8m程にもなる金属の造形物は、魔術師が生成する魔石や竜が遺した竜晶を動力源として地を駆けるエクスリックスの陸上兵器となる。


 平地においては射程と防御力に勝る戦車に遅れを取るが、遮蔽物の多い市街や山地においては運動性能を以てしてソレを圧倒する魔導兵器。


 それは魔力の才が薄い者であっても魔導騎士に比肩する力を搭乗者に与える魔導人形(ゴーレム)の親戚であり、その豊富な射撃兵装から平地においては魔導騎士よりも勝るとされていた。


「――やはり、今の状態でも魔石砲なら防げるか」


 その火力。戦車には届かなくともそれ以外であれば簡単に焼き尽くす砲火を受けたグランは、しかし戦力指標に反して無傷であった。


 それは竜騎士の守りの要である竜血石の障壁があってこその結果であり、グゥエルナーが遺した血は彼自身の障壁がない状態でも人の身に余る防御力を発現していた。


 そうして着弾の衝撃に巻き上げられた砂塵が薄れ始め、その先にグランの姿を認めた機竜が驚いたような挙動を見せるが『ならば届くまで撃ち続ける』と示すように彼等は魔石の投射を再開。


 その容赦の無い連投に晒されながらも、グランは衝撃に押し下げられる事無く思案を巡らせる。


「――――なら、戦車を倒す心算で挑むか」


 接近戦であれば勝機はあるが、遠距離では手も足も出ない。


 今のグランが置かれている状況は機竜と戦車の関係に等しく、遠くない未来にその戦場に駆り出される彼は、自分がいずれ攻略しなければならないその難題を考えるように機竜を見据え、出来うる限りの速度を乗せた前進を開始する。


 グランの視線の先に居る、彼が相手にしなければならない機竜は2体。


 エクスリックスでは3体で1小隊とする運用が基本となっている事から眼前のそれは定型から外れた編成となるが、恐らく残りの1体はあの銀髪の少女の乗機であり、彼女は機体を持ち込んだジェフスティア侯爵の所から未だに戻れてないのだろう。


「――っ、撃ってくるか」


 相手の数が少ない事を素直に喜びつつも“遠見”で『その背中にあるモノ』を警戒し続けていたグランは、見ていた機竜(モノ)が前に屈み込むような動きに対し、自分の足運びを前進から回避へと移す。


 それと並列して“遠見”に回す魔力を引き上げ――些細な動きも見逃さない程に引き締めた目が『その背中にあるモノ』の発砲を視認。


「――――」


 その瞬間、グランは土煙を上げながらの急停止を掛け、“遠見”は元より“身体強化”に回していた分の魔力すらも竜血石に向け、姿勢を低くして着弾に備える。


 そうして、発砲炎から遅れること数瞬――。


「くっ――。……リュウダンを地上で受けると、これ程か」


 竜血石が発する障壁を揺さぶる強烈な熱波と衝撃。


 その後に降り注ぐ熱せられた砂を滝のように浴びながら、グランは初めて受ける砲撃に驚愕を滲ませる。


 着弾点で爆発する事で弾片と衝撃を撒き散らすリュウダンはファルストリアが使う対地上用の砲弾であり、ソレを有用と判断したエクスリックスは砲を含めた一式を様々手段――主に鹵獲や少数の模倣――で入手し、自国でも運用している。


 その結果、ジャルダイム大陸で最も普及する砲となったリュウダン砲の威力は凄まじく、昨今では戦場の女神とまで謡われる程の必須装備となっていた。


 そんなリュウダン砲であるが、機竜が装備するそれは構造上の問題から専用の射手を乗せておらず、微調整の効かない砲撃は正確とは程遠い代物となっている。


 加えて、グランは放たれた砲弾の軌道が若干逸れている事を視認してから対応を行っており、直撃には程遠い。


 しかし、その余波を受けただけでもコレなのだから、竜血石の守りを持たない歩兵部隊にとっては正に悪夢そのものだろう


「――だが、隙は出来たな」


 機竜の背に載っているリュウダン砲はファルストリアの砲をエクスリックスで模倣し、風の魔術を応用した機構を取り付ける事で自動装填を成した改造品との事だがその装填速度は遅く、暫くの間は竜血石の守りを突破出来る遠距離攻撃はない。


 加えて、初撃の魔石砲に耐え、リュウダンすらも受け流した事からしてグランが並の魔導騎士ではない証明は済んだ。


 とは言え『……折角力を示す段取りと許可を貰っているのですから、有効活用しなくては勿体無いですよ』とあの銀髪の少女はグランに全力を出し尽くす方針を示しており、協力者の希望とあれば彼は応えなければならない。


 その意志の下、グランはリュウダンを撃たれても尚立っていた彼に動揺した機竜の隙を突くように一気に距離を詰め、その俊足に反応するように再開された魔石砲の投射を掻い潜り、時に弾きながら灰色の巨竜へと肉迫する。


 グランの最初の目標は、後退を掛けなかった方の機竜。


 その機竜の判断は魔導騎士に勝る兵器を操っているという意地が邪魔した結果なのだろうとグランは予測するが、その慢心の代償を払わせるべく彼は“身体強化”の魔力を強める。


 機竜は搭乗者が竜を模した筐体に意識を落とし込む事で駆動する魔導兵器であり、五感の全てが機体と一体化している事からその反応速度は生身の人間と遜色がない。


 その謳い文句の通り、肉迫したグランを迷い無く踏みつけ、外れたと見るや蹴り上げに移る運動性能を見れば兵器としての近接戦闘能力は他の追従を許さないレベルにあるのは確かだが――。


 しかし、流石に全長8mにもなる金属の巨体が生身の魔導騎士に小回りで上回れる筈も無く、グランは自らを再び踏み潰そうと落ちてくる機竜の足から逃れながら騎士剣を振るう事でその足首を切り飛ばす。

 

「1つ」


 そうして機動力の起点となる右足の先を失った事で動きの鈍った機竜の首に飛び乗ったグランは流れるような剣捌きでその足場、首の上側に納まっている背骨(フレーム)を断ち切る事で行動不能へと追い込む。


 機竜の搭乗者は胴体の中で眠っており、真の意味で機竜を無力化するにはここを破壊する他無い。


 だが、友軍にそんな事をするのはキチガイの所業であり、訓練や演習に置いては感覚器官の中枢である頭部が失われた時点で撃破されたと見なされる。


 尚、搭乗者は機体とある程度の感覚を共有しているらしいが、欠損する所までいって漸く引っ掛かれたと感じる程度らしく、そうであれば胴体以外に手加減をする必要は無い。


 そうして最大目標の片割れを倒したグランであったが、しかし止まっている余裕はない。


 魔石砲では機竜の装甲を抜けない事から、残った方の機竜はグランと彼の僚機が密着している今の状態でも容赦なく魔石を投射してきている。


 加えてリュウダンの再装填が済んでいてもおかしくない時間が経過しており、グランは次の策を練る為に倒れた機竜を盾にする事で時間を稼ぎに掛かる。


「――近づいては来ない、か……」


 接近戦では勝ち目が薄い事を目視で確認したもう1体の機竜は警戒を強めており、旨くない膠着状態に晒されたグランは現状を洩らしながら思案を回す。


 高い士気の裏返しとして表れた慢心もあるが、主体としては基本に忠実な実直な兵。


 この隊を率いていた前任の隊長はあの銀髪の少女との事だが、グランの命を救った彼女は年若ながら指揮官としても優秀らしい。


「とは言え、流石にリュウダンは撃ってこないか」


 リュウダンの直撃は機竜でも堪える事から、交戦中の機竜は僚機を配慮して発砲は控えているようだった。


 しかしグランが少しでも擱座した機体から離れようものなら、残るもう1体は彼等の誇りを守るべく撃ってくるだろう。


 そして、リュウダンの直撃は竜血石でも防げない事から、警戒して距離を取っている機竜を攻略するには策が要る。


「――古典的な手で行くか」


 断続的に届く魔石砲からの爆炎を背後に感じつつ、グランは呟きと共に盾にしている機竜の左腕を騎士剣で切り落とす。


 そうして脱落した人間大の左腕(ソレ)を、グランは“身体強化”を限界まで使用した投擲で左側へと強く放り投げ、ソレが盾にしている機竜の陰から離れたと同時に右側へと走り出る。


「――っ、本当に容赦無しだな……」


 飛び出したと同時に届く衝撃――攪乱の為に放り投げた機竜の左腕を容赦なく爆散させたリュウダンの余波に、『殺す気か』とグランをしても毒突く。


 しかし、そんな古典的な策によって相手の最大火力と貴重な時間を潰す事に成功したグランは最後の1体に向かって一気に距離を詰める。


 それに対し、嵌められた事に気がついた機竜もまた魔石砲で足止めしよう投射を再開するが、1体の火線ではグランを押し止めるだけの密度が得られず、彼は迫る魔石を竜血石で弾き、時に剣技で切り払いながら彼は突き進み――。


「2つ」


 騎士剣を横に構え、突撃の速度のまま機竜の左足首を切り抜けたグランは倒れた機竜を先程の機体と同じ要領で無力化する。


「――これでお目見えは十分かな?」


 打倒した2体目の首を踏みしめ、あの銀髪の少女が居るであろう西に目を向けたグランは静かに息をつき、僅かに熱を持った騎士剣を鞘へと納めた。




お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークや評価は執筆を加速させる燃料となりますので、よろしければお願い致します。


2018/09/27 Ver1.0:旧03本人操作不備により、表示と異なる。該当部分は覚えたので、次からは正常かと

2019/03/25 Ver1.0:旧07経緯部分の拡大により、1話ずらす

2019/05/04 Ver1.1:08到達に伴う、全文改修化及び見直しを実施

2019/11/16 Ver1.2:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2020/09/12 『幕間』実装に伴う配置変更を実施。

2021/03/09 Ver1.4:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

          (Ver1.3は実装前に1.4の再調整が入った事から未実装)



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