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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
縁の終わりと始まりと    (起)
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01-3 敗戦(後編)

01-3 敗戦(後編)

Ver1.4




『ケイホウ。テキ、リュウキ、アリ』


 それが先程届けられた発光信号の内容であり、急上昇を開始したグゥエルナーの首に掴まっているグランが視線を下にずらせば、自分の竜と一緒に両断された“誰か”と首元に“誰も乗せていない”竜が見て取れた。


「――っ。……グゥエルナー、動けるか?」

『問題、ない。すぐに、治る』


 そして、グゥエルナーに密着している事で通常の立ち位置では見えぬ場所――盟友の両足と尾が失われている事を視認したグランが確認を問うと、グゥエルナーは傷を感じさせぬ断言と共に雄々しい“意思(いろ)”を返してくる。


 グゥエルナーの負った傷は一般的な生物の認識で考えれば重体に近い損傷だが、竜の再生能力はその理を覆して余りある程の力を有しており、負傷した後にも強烈な上昇を掛けている事からグランの言葉も支障が出ていない事への確認に近い。


 そして、自分の無事を確認してしまえば『誰が殺され』、『誰が居なくなった』のかを思考に乗せてしまいそうになるが、そんな余分は生き残ってからする事をグランは理解しており、彼は索敵(いますべきこと)に注力する。


「――鎧の色が違う……本当に、ファルストリアが竜騎士を?」


 そうして巡らせたグランの目は高度を上げるグゥエルナーを追うように上昇を再開した3体の竜を捉え、その首に跨る3人の竜騎士達を“遠見”で確認した彼は己の魔術で捉えた結果に困惑を滲ませる。


『迷う、否。敵、変わらない、する事、変わらない』


 魔導技術において遥かに遅れている筈のファルストリア連邦が竜騎を運用しているという衝撃は表情の希薄なグランの視線を泳がせるだけの力を有していたが、彼の師でもあるグゥエルナーはその動揺を明確な意思で断ずる。


「――――」


 今までの常識ではありえない事実に加え、自我比戦力差1対3という極め付けの窮地の中であってもグゥエルナーの意思は凪の泉のように落ち着いており、その青い瞳に見据えられたグランはその静けさに引き込まれるように平静さを取り戻す。


「――――そうだな。その通りだ。……強者を牽制し、此方の隙を突こうとした弱者を刈り倒してから一騎打ちに持ち込む。――これでいいな?」

『定石。400年前、よくあった。実施、技量、グラン、有する』


 急襲を仕掛けてきた筈の連邦竜騎隊がグランよりも低い高度に居る事から、敵の得意手が高度差を利用した一撃離脱(グライダースパイク)であると踏んだ彼はその手段を利用した策を講じ、グゥエルナーもその意見を肯定する。


 そうして彼等が方針を定めたのと時を同じくしてファルストリア竜騎隊からの炎息(ブレス)照射が開始され、強烈な貫通の概念を折り込まれた光の魔術によって頭を抑えられたグゥエルナーが“慌てたよう”に上昇を中止し、旋回機動に移る。


 その上昇を封じた斉射を契機に1対3の機動炎息戦が開始され、夕暮れに染まるザックバール砂漠の空を切断する魔術の光が空を彩る。


 空から地上へと撃ち下される光はグゥエルナーの放つソレであり、保有魔力量が少ない事から散発的に照射されるそれは一条一条が丁寧な軌道を描く。


 それに対して数で勝る連邦竜騎隊は濃密な火線によってグゥエルナーの進路を下へと強要し、グランとグゥエルナーが上昇に転じようとする度に数の暴力の権現である斉射が成される。


 そんな光の洪水の中、グゥエルナーはその大火力を誘う事で追い込まれている素振りを見せ、ファルストリアの竜騎隊を2つの分類に区分ける。


「――――狙いは左後ろの奴で良いか?」

『妥当』


 そうした前準備の下、グゥエルナーが『狙わなくなった』1騎が注意の逸れた隙を突くような急上昇を仕掛け、頭を抑えられる事態を前にしたグゥエルナーが“慌てて”照射した迎撃の炎息が掠めるだけに終わった事でグラン達は上下からの挟撃を許してしまう。


 こうして上下からの光条を受ける窮地に陥ったグゥエルナーは水平方向への回避を強要され、時折狙い澄ました炎息を下方の動きが良い方に向けて照射するも、優位な立ち位置を取ったファルストリア竜騎隊の勢いは止まらない。


 狙い澄ましたグゥエルナーの牽制に対する応射として返された上下からの一斉射が茶と黒の竜鱗を掠め、グランを守る竜血石の障壁を削る。


 追い込まれているのは紛れもない事実であるが、この危機はグラン達が自分達で引き寄せた状況でもあり――。


『後方、付いた。襲撃(グライダースパイク)、態勢』

「――行ってくる」


 絶え間の無い炎息の網に晒されている事を感じさせない静かなグゥエルナーの意思にグランは短く答え、何の躊躇もなく盟友の背を蹴って背後へ跳躍する。


 ここで、当たり前の事を述べるが――現在グラン達の居る空は高度3000mの高みであり、魔導騎士は元より、如何に優れた魔術士であっても身一つで飛び出せば助からない場所となる。


 そんな空の中に逡巡一つなく飛び出したグランの行動に、彼等の背後に突入しようとしていたファルストリアの竜騎士は目を剥いて驚き、その動揺から手を止めてしまう。


 しかし、竜騎とは2人で1組の戦力であり、判断を誤った乗り手の隙を挽回するべく動いたファルストリアの竜はグランが自分と同じ軌道に侵入している意図を察し、独自の判断でグランを避けようとする。


 対するグランはグゥエルナーと離れた事で竜剣の切れ味を維持する事に全魔力を注いでいる為に軌道の変更すらままならない。


 故に、グラン1人であったのならばどうしようもない状況であったが――。


「――っ」


 しかし、グランと彼の狙う竜騎との軌道が離れかけた瞬間、急減速によって残りの2騎を引き離していたグゥエルナーが離れつつあった(えもの)に炎息を照射し、その片翼を穿ち飛ばす事でグランから逃げる術を潰す。


「1つ」


 そうして避け得ぬ断頭台となったグランは自らの軌道上にあった竜の首ごと連邦竜騎士を両断し、自分達が置かれた状況を1対2へと改善させる。


「戻るのは――下か」


 その結果を確認したグランは切り抜けたと同時に魔力供給を切って鈍器に戻した竜剣に風の魔術を編み込み、空中で切り返す妙技をもって今し方切り捨てたばかりの竜の下腹に刃渡り3m弱の竜剣(なまくら)を叩き付ける。


 結果、下から巻き上げるような打ち上げによって下方への反発力を得たグランは一気に高度を落とし――残りの2騎から距離を取るべく、落ちるような滑空を続けていたグゥエルナーと合流する。


『見事』

「――里にいる時、散々教え込まれたからな」


 短いが故に純粋なグゥエルナーの賛辞にこれまでの感謝で応えたグランは竜剣の状態を元に戻し、騎乗(ランディング)の位置を整えながら索敵に集中する。


 先の一撃の結果グラン達を見下ろせる優位を得た敵の竜騎達であったが、しかし彼等は自分の命すら蔑ろにしているようなグランの行動に動揺し、動きあぐねているようだった。


 それに対し、グラン達もまた高度を失ってしまった事から攻め手が無く、不利な状況にある事から迂闊な動きを取れば死に直結しかねない状況にある。


「――――」


 加えてグゥエルナーの保有魔力量が心許ない事も変わりないが――それでも、弱者を早急に排して強者と一騎打ちに持ち込もうとするグラン達の方針に変更はない。


『博打、定石。好きな方、選べ』

「――地表付近に引き込んでからの泥仕合、もしくは先んじて回復してからのブレス戦でどうだ?」


 そんな中、グゥエルナーはグランを試すように次の方針を問い掛け、その選択を前にしたグランは経緯も組み込んだ消極案を答えとする。


 その言葉はあれだけの賭けを成功させた者の言葉とは思えぬ案だったが、奇策というものは相手が油断している時にしか成功しない事をグランは理解しており、成功の熱にうなされても尚計算付くの判断を下せるのが彼であった。


『相手、面倒な、対応。妥当』


 そして、自分達よりも高い空に在りながらも横に並んだまま動かぬ敵を見上げ、さも忌々しいと言わんばかりの意思を洩らしたグゥエルナーは、グランの判断を肯定しつつその行動を待つ。


 今グラン達を見下ろしている連邦竜騎隊の対応は臆病と言っても過言ではない消極的な行動となる。


 だが、各個撃破を狙う今のグラン達にとってはその堅実さこそが最大の敵であり、彼がグゥエルナーに提示した地表への誘引もこの場を仕切り直したいという思惑もあった。


『――妥当、保留。弱者、見ろ』


 しかし、今し方肯定を示した筈のグゥエルナーは唐突に意見を翻し、盟友の急変を訝しんだグランが視線を巡らせると彼もまたグゥエルナーの意図を理解し、同時にその変化に怪訝を浮かべる。


「――別れた? この状況で?」


 グランが見上げた空に在るファルストリアの竜騎隊は左右に大きく離れ始めており、上空からグゥエルナーを挟撃しようとするその動きは彼等の数を最大限に活かせる策であるものの、各個撃破される危険性も背負い込む大きな隙であった。


「――――」


 手痛い反撃を受けても尚危険性の高い戦術を取る意図に疑問は残るが、数的不利を強いられているグラン達にとってはそれが千載一遇の機会である事に違いはない。


「――やるか?」


 グランが自身の迷いを断ち切るように呟くと、グゥエルナーは力強い羽ばたきで応える。


 優位な状況を自ら捨てるという敵の行動はなんらかの罠である可能性が大きいものの今のグラン達に数を減らせる機会を見逃す余裕はなく、一度決断してしまえば彼等の行動は迅速だった。


 初速を得る為の滑空を挟んだ後、グゥエルナーは上昇という名の突撃を開始。


 その上昇を阻止するべくグゥエルナーの前と後から炎息が撃ち下ろされるが、茶と黒が織り交ざった翼は光の雨を器用に掻い潜り、風の魔術を纏った竜は空へと昇る稲妻のようにグランを打ち上げる。


「あと、少し――」


 意を固め、加速に徹したグゥエルナーの速度は凄まじく彼我の距離は一気に迫る。


 その事実は遠方に居るもう1騎が同士討ちを避ける為に炎息での横槍を控えなくてはならない事に繋がり――グラン等の目指した状況が確定する。


「――温い。『空かし』でヤるぞ」


 そんな中、急接近するグラン達に対して彼等の目指す相手は竜の鼻先を左手に向ける事でグランの一撃を受ける構えを取り、その『行儀の良い』対応を見上げた彼は盟友への合図と共に上昇速度も乗せた切り上げを叩き込む。


 その強力だが判りやすい、掬い上げるようなグランの一撃にファルストリアの竜騎士は切り落としで応え、相手の盟友の腹を狙ったグランの竜剣と剣を振り上げる彼を狙った連邦騎士の竜剣とが空中で激突する。


「……っ!?」


 しかし、衝突の反動に備えていた連邦竜騎士はその手応えの薄さに驚き、衝撃に備えていた彼の身体は振るった竜剣に引っ張られるように右側へとつんのめる。


「――っ。……成功だ、左に突っ込め」


 対するグランの所在は連邦竜騎の遥か下。


 グランと連邦竜騎士とが繰り出した一撃による衝撃をグゥエルナーが“そのまま受け流した”事で、彼等はその威力によって落とされた場所に居り、相手が体勢を崩した事を見上げた彼等は落下の勢いを初速に変え、弾かれたような再上昇を仕掛ける。


 グラン達の狙いは態勢を崩した連邦竜騎の左側にあり、右手に持った竜剣を左に向けたグランは柄を左手で支え、下方から突き抜けるような払い抜けを敢行する。


 その危機に際し、連邦の竜は自らの使い手が態勢を整えるのを待つ事なく身体を右に傾け、強烈な羽ばたきによる水平機動でグランの竜剣を躱し、際どい所で命を長らえたが――。


「――旋回」


 グランの合図によって上昇の加速度を右へと流したグゥエルナーの軌道変更に合わせた竜剣による横薙ぎ(ついげき)が連邦の竜に迫り、必殺を狙ったグランの太刀筋は、しかし急旋回と共に迎撃へと回された連邦竜騎士の竜剣に止められる。


「――っ!」

「くっ――!?」


 その激突と共に洩れた裂帛の息は、押し通す意志と動揺の困惑。


 態勢が崩れたまま強引に迎撃へと回った連邦竜騎士に備える暇が無かったのは確かだが、グゥエルナーの遠心力とグランの“身体強化”とが合わさった一撃は相手の守りを押し退け、鍔迫り合いの火花が連邦騎士の顔を焼く。


「GAAaa!」


 竜騎士の質、そして衝突時の体勢から鍔迫り合いの結果は決定的。


 だが、自らの使い手の窮状を見兼ねた連邦の竜が鍔迫り合いの外から回り込むように首を捻り込み、獣の咆哮と共にグランに牙を向く。


「――――」


 その牙、血肉を欲しないくせに威力だけを取れば戦車の装甲すら食い破る竜の乱杭歯がグランに迫り、間合いに入ったそれが大口を開ける。


『少し、思え、恐れ』


 しかし、グランに迫る牙は彼を守るグゥエルナーの尾によって弾かれ、長大な上に重厚な竜鱗の鞭打ちを顎に受けたファルストリアの竜が悶絶した隙を突くように、今度はグゥエルナーの牙が刃を目の前にした連邦竜騎士の左足に食い付く。


「――――っ!!」


 鋼鉄の装甲すら破れる牙が人の纏える守りで耐えられる筈もなく、血飛沫と食いしばった絶叫が夕暮れの空に飛散する。


「――やるな」


 横撃を済ませたグゥエルナーがゴミを捨てるように食い千切った足を空に放るが、それでも尚連邦竜騎士は鍔迫り合いを崩さず、その精神力にグランは微かな称賛を送る。


「弾いてから、仕留めるぞ」

『妥当』


 だが、それでもグランの身体は踏ん張りの効かなくなった相手に対して詰みを迫り、彼の言葉に応えたグゥエルナーは翼への魔力供給に緩急を付け始める。


 そして、グランもまた竜剣に注ぐ魔力と腕力によって鍔迫り合いに強弱を加え、片足を失った連邦竜騎士に揺さぶりをかける事で状況が詰み終る。


 グゥエルナーが自らの重心を傾けるタイミングに合わせてグランも竜剣に掛ける力を強め、罠と判っていても押し返さずをおえない連邦竜騎士の反発を利用する事でグランは自らの竜剣を上へと弾き、グゥエルナーが離脱を掛ける。


 あとは残っている1騎が手を出せない距離を保ったまま一撃離脱を繰り返し、嫌らしくも確実なソレで連邦竜騎を切り刻もうとグランが目論んだ矢先――その身体に衝撃が走る。


「なに――?」


 グランが感じたのは、衝撃と微かな熱。


 その取るに足らない感触は22年間使い続けた自分の身体に支障がない事を告げていたが、16年の間に鍛え上げられた直感はグラン自身に“拙い事”が起きている事をひしひしと伝えていた。


「――っ」


 最初の違和感は右側への傾きであり、その異常から視線を巡らせばグゥエルナーの左足が無くなっている事に行き着き、盟友の呼気の乱れに気が付けばその首に座っていては見えない部分の欠損がある可能性に考え至る。


「グゥエルナー、対応任せる――!」


 グランに判るのは自分が良くない状況に置かれていると察せるだけで、詳細が不明。


 その危機を前にしたグランはグゥエルナーの不調の始まりと時を同じくして胴に大穴を開けていたファルストリアの竜の首を落し、盟友の首に自分の身体を寄せて師父の邪魔にならない体勢を取る。


 次の瞬間に起こったのは、グランの意図せぬ急激な加速。


 それはグゥエルナーの選んだ判断(りだつ)であり、盟友に身を寄せた事で視点が変わったグランにも状況が読めてくる。


 グランの視線の先にあるのは右胸から左足に到るまでの赤い線であり、グゥエルナーの状態が把握出来れば今更のように血と肉の焼ける臭いが鼻に付く。


『炎息、当たった。治るまで、32秒』

「くそ……奴め、まさか仲間を巻き込むのが判ってブレスを――」


 グランの理解が進んだ事でグゥエルナーは次の行動の為の経緯と現状を伝え、奴の忌むべき行動に里で薄まったグランの感情が高まる中、その憤りを置き去るように彼の盟友は滑空を続けて速度を稼ぐ。


 その黒と茶と舞い散る赤――ザックバールの空を横切る竜影に追い縋るように、炎息の光がグランの左右を掠める。


 その光にグラン達が絡め取られなかったのはグゥエルナーに初動を任せた彼の判断が正しかった事を表していたが、命を長らえたこの瞬間にあっても尚、彼は次の危機が迫っているのを感じていた。


「っ、左を……!」


 その元凶を探るべく視線を巡らしたグランは、上空に置いて来た筈の奴がグゥエルナーの横に付こうと加速していた事に気が付き、思わず息を呑む。


 右に竜剣(しゅへいそう)を持つ竜騎にとって乗り手の左側は構造的な弱点であり、速度を合わせて横に並んだ奴は回転軌道を織り交ぜながら軌道を寄せ、竜剣を振り落としてくる。


「――っ」


 その危機に際し、グランは背負うように竜剣を返す事で奴の剣閃に幅広の刀身を刺し込み、背中に置いた竜鋼に振り下ろされた刃が激突する。


「がっ――!」


 そうして打ち付けられた衝撃はグランの右手を超え、刀身を介して彼の背を強打した衝撃が肺を抜け、そこに残った空気を外へと吐き散らす。


 竜の鱗を軽々と切り裂く一撃と強靭な竜の背との間に挟まれたとなれば、如何に“身体強化”に優れたグランとて圧死は避けられない事態であったが、グゥエルナーは奴の一撃による衝撃を抗ずる事無く通す事で自らの乗り手を救う。


『回して昇る、切れ』


 そして、衝撃を受け入れた事で一気に高度を落としたグゥエルナーは意思と同時に身を捻り、巧みな重心移動によって落下の加速を上昇への起点とし、上空に居る奴への逆襲を仕掛ける。


 左側と同じく、乗り手の竜剣が届かぬ下方からの一撃。


「――っ」


 しかし――伸びが足りない。


 円弧を描いたグランの一閃は奴が上昇を掛けた事で空を切り、2騎の距離が離れる。


 それは再生中であった事で体幹バランスを欠いていたグゥエルナーと、背中に痛みが残るグランの不調による結果であったが――起死回生の一撃を外したという結果の前には、どうでもいい些末事だった。


「――――」


 グランは防ぐ。照射される炎息の軌道に竜剣の幅広な刀身を刺し込み、押さえる事で凶悪な光の魔術を防ぎ続ける。


 グゥエルナーは最初の炎息による損傷で魔素の変換効率が落ちている上、身体を再生中である事から撃ち返す余力が無く、遠距離攻撃の手段を持たないグランには守りに徹する以外の術が無く、挽回の手が無い。


 通常であれば地上に近づく程魔素の濃度が濃くなる事から高度を落とせば落とす程に炎息を撃ち易くなるのだが、ザックバール砂漠にあってはその環境そのものが竜の活動を阻害する。


 加えて頭を抑えられている上、再生にも力を取られている状態での再上昇は不可能に近く、満足な戦闘機動も取れない今のグゥエルナーでは離脱も出来ない。


 つまりは――終わりしか見えない堂々巡り。


 その途中で存在しない光明をグランが探る中、グゥエルナーの左翼を狙った炎息を察知した彼は経験が指し示すままにその軌道へと竜剣を差し込む。


 亜光速で迫る炎息に対して思考という迷いは重でしかなく、敵の意図を考えようとすれば防御が間に合わない。


 故に、撃たれた炎息を受け流したグランがそれを罠だと気が付いた時には、彼の身体は左側へと大きく引っ張られていた。


 そして、グゥエルナーの守りであるグランが態勢を崩したのに対し、奴は既に滑空の佳境に入っている。


「――――」


 断頭台のように迫る奴の竜剣(グライダースパイク)を前に、グランは崩れた態勢のままグゥエルナーの前に竜剣を指し込む事で対抗し、加速の乗った刃と守る為に止められた刃とが激突する。


「――っづ」


 そして、当然の事だが――先程の巻き打ちより勝る、敵竜が持ち得る最大の一撃が人の手で抑えられる筈も無く、それを止めたグランの竜剣はその峰によってグゥエルナーの竜鱗を押し潰し、延命と引き換えに彼の盟友の息を詰まらせる。


 だが、結果としてグラン達は命を長らえる事に成功した。


 しかし、加速の乗った最大の一撃が止められても奴の攻勢は止まらない。


「……疾っ」


 奴の静かな喊声と共に奴の竜が旋回。


 そうして回された竜剣による強烈な切り返しがグランの背後に向けて振り抜かれる。


 剣閃は、小細工の効かない大剣である竜剣の代名詞とも言える単純な横薙ぎ。


 だが、右手に持った竜剣を左側に引っ張られたグランと魔力を一時失ったグゥエルナーでは抗じえない、致命の一閃だった。


「――」


 死の瞬間を前に、グランの意識が加速する


 それは自分達を討ち果たす壮年の顔を覚え、迫る竜剣に刻まれた傷すら数えられる程であり、致命に到るソレを躱せると錯覚してしまう程に剣閃を鈍く感じる程に。


『…………生きろ、ドーラ』

「――――っ?」


 その致死の世界の中、グランは声を聴く。


 そして、グランの知らない名前を最後に、グゥエルナーは首を上げ背中から墜ちるような姿勢を取り、迫る竜剣の軌道からグランの身体をずらす。


「グゥエル――」


 その名前、その行為、その予感に戸惑ったグランの鼻先を奴の剣閃が抜け、彼の眼前を素通りした竜剣が“なにか”を斬り飛ばす。


 そうして途切れたグランの声、彼が迷った時に道を指し示してくれた者の名を置いていくように、術者を失った竜の落下が始まる。


「――――っ!」


 竜の道理から外れて竜騎を成す者――奴を見上げたまま、半生を共に過ごした師父(メイユウ)を失った竜騎士は落ちていく事しか出来なかった。




お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークや評価は執筆を加速させる燃料となりますので、よろしければお願い致します。


2019/01/27 Ver1.0:人物紹介の配置変更により、表示と異なる

2019/05/24 Ver1.1:08到達に伴う、全文改修化及び見直しを実施

2019/11/11 Ver1.2:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2020/09/12 『幕間』実装に伴う配置変更を実施。

2020/09/21 Ver1.3:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2022/11/14 Ver1.4:プロット確認のついでに誤字脱字及び調整を実施


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