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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
縁の終わりと始まりと    (起)
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01-2 敗戦(前編)

01-2 敗戦(前編)

Ver1.4




 エクスリックス王国とファルストリア連邦。


 それらはある世界に存在する大陸、ジャルダイムの中央と東を治める大国であった。


 しかし、両国は互いに意識せざるをおえない大国同士であったものの、ザックバール砂漠という天然の要害に隔たれていた事によってその繋がりは互いの首都も判らぬ程に希薄なものだった。


 アースラー山脈の西側に広がる肥沃な大地をも領土に治めるエクスリックスは安定した国力を有するものの、王政故に変革の遅れが目立ち、衰退の目が見え始めていた。


 対するファルストリアは東方の尽くを併合したものの荒れ果て痩せた国土の再建に手を取られ、大陸統一の野心を失ったかのように征西の動きは穏やかだった。


 いずれ顕在化する濁り水や内なる熱はあれども、それを知る由もない大多数の人々は長らく静かな時を過ごしていた。


 しかし、過酷な砂地を介さずに両国が接する南方――その不毛の荒野で延々と繰り返されていたその地方に住まう民同士の軋轢が切っ掛けとなった戦いは、それまでの停滞が嘘であったかのように両国間の戦火を燃え広がらせる事となる。


 先ずは、持たざる者となるファルストリア。


 地方民同士の小競り合いの折、魔術の才を妬む東方民による拉致行為にエクスリックス側の村々が暴発し、彼等の持っていた魔石銃によってファルストリアの正規軍は手痛い損害を被る事となる。


 暴発という計画性に乏しい行動故、補給という組織的な継戦能力の持たなかった彼等の蛮行は国境付近にあった連邦側の集落を焼き尽くす事で収束を見たものの、ファルストリア軍は魔石銃を持った少数の民兵にすら対応する事が出来なかった。


 この敗戦を契機にファルストリア軍は急速な機械化に舵を切り、戦端が開かれてから5年を越えた頃、その兵器群は一般的な魔導兵器に抗ずる所に至っていた。


 しかし、持たざる者の努力の結晶である工業技術によってエクスリックスと同等の“力”を持っても尚、ファルストリアは自分達が行使し得ない“魔術”を持つ王国を恐れていた。


 そして、エクスリックスもまたそんなファルストリアに恐怖していた。


 切っ掛けは意図しない暴発であったものの、ファルストリアとの初戦において華々しい戦果を齎した魔石銃はエクスリックスの安寧を約束する魔導兵器であると王国に錯覚させるだけの力を示した。


 しかし、次の大戦――ファルストリア側からの初の攻勢において同連邦軍が投入した強化型戦車や自走砲による無慈悲な鉄の雨はその幻想をかき消し、それ以降の攻防戦においてエクスリックスは幾度となく首都近傍のアースラー山脈にまで侵攻を許す事になる。


 そして、開戦から18年――4度目のファルストリアの攻勢に置いて、エクスリックスの最強戦力である竜騎は未だにその力を堅持する事が出来ていたものの、この折に出現した連邦の対空戦車は多くの竜騎士を再起不能に追い込み、その威信を大きく揺るがす事となった。


『いずれ、連邦は竜騎でも対応出来ない兵器を生み出すのではないか?』


 そうして生まれた言葉、その感情がエクスリックスの影に蔓延する恐怖であり、終戦という“準備期間”によってファルストリアがその技術を大いに伸ばす事を恐れた王国は、戦いを止める事が出来なかった。


 結果、戦いを望む南部以外の全てもその感情に巻き込まれ、ジャルダイムの支配者と言えるエクスリックスとファルストリアの戦争は、緩急あれども20年の長きに渡って続いていた。






 そして、舞台は現在へと戻り――ザックバール砂漠の北、エクスリックスとファルストリアとを遮る事で両国に平穏を齎していた砂地へと移る。


 そこは両国の間を長きに渡って隔てていた灼熱の大地であったが、今は幾つかの轍が形作られ、その線と残骸で形作られた道を3体の竜が見下ろしていた。


 砂上の空を塞ぐその茶と黒の色は翼長が9mに届く程の巨体であり、頭から尾先に至るまでの長さを軽く超える幅広の翼に風の魔術を纏わせた竜は、首元に1人の騎士を乗せていた。


「――7つ目。……流石に、時間が掛かったか」


 その1組。機動力と火力を提供する竜、近接防御と索敵・戦術の提案を行う騎士とで組み合わされたエクスリックス最強の戦力である竜騎――その乗り手である緑髪の青年は、自らが振るう大剣を盟友の足に巻かれた剣帯に収め、ため息交じりの言葉を洩らす。


 3騎の竜騎の中央に在る彼の名は、グラン・サウスココル。


 整った顔形に爬虫類のような無表情を張り付け、静かに戦場を見下ろす彼はエクスリックス・ザックバール派遣軍竜騎隊の第2隊隊長を務める中尉であり、現在進行形で継続している21年目の大攻勢の初戦を受け流している王国軍の若き実力者であった。


『攻撃、炎息のみ。しかたなし』


 そして、グランの唸るような溜息に脳裏へ響く意思で応えるのは、彼の盟友である竜――グゥエルナーであり、グランの師であり育ての親でもある竜は諦観の域にある静かな感情を応えとする。


 彼等はエクスリックス軍の先鋒にして最精鋭であり、その眼下で無残な姿を晒している無数の鉄塊は北方からの奇襲を仕掛けているファルストリア軍のなれの果てであった。


 過去4回行われたファルストリアの攻勢において、彼等は例外なく南方を経由しての侵攻を行っていた。


 しかし、今回の攻勢に際し、ファルストリア側は南方ではなく北方からの侵攻を目指すような動きを見せていた。


 その通例に反した予兆に対するエクスリックスの反応には懐疑的な物が多かったが、北方には王国の魔導技術の要地が数多く存在している事から軍部は現地防衛軍の召集と並行してザックバール派遣軍の増派を決定。


 南方にも動きはあったものの――結果としてファルストリアは北方からの大規模侵攻を開始する


 それは過去に例を見ない経路を利用したファルストリア側の奇襲であったが、しかしその先陣は道半ばで待ち構えていたグラン率いる竜騎隊によって粉砕され、主力である戦車隊の1つが壊乱した隙に地上を進むエクスリックス陸戦部隊が連邦部隊内へと浸透。


 戦車の遠距離射撃に晒させる事なくファルストリア部隊に肉迫したエクスリックス陸戦部隊は各所に攻撃を開始し、それと時を同じくして戦線の後方へと回り込んだグランの隊は連邦部隊の生命線ともいえる補給部隊を襲撃。


 今のグラン達はそれらの内の一隊を殲滅させ、主戦場から僅かに離れた砂地の空で戦局を窺っている所となる。


「――――」


 そんなグラン等の初戦と2戦目は、結果だけを見れば華々しい戦果と言えた。


 しかし、冷温な環境を好む竜にとっては過酷な砂地での連戦。加えて2戦目の襲撃対象が対空戦車を山のように抱えていた為にグラン達は接近戦に持ち込む事が出来ず、保有魔力の節約が出来なかった事からその疲弊は中々に激しい。


 そして、本来この任務を遂行する筈だった派遣軍竜騎隊の第1隊が未だに到着していない事にも思案を回したグランは、実戦がグゥエルナーや教官の教えを超える不確定要素の塊なのだと理解し、そんな中でも確定する事の出来る情報の取り纏めに掛かる。


「グゥエルナー、状況は?」

『残り、魔力、厳しい。目算、2割弱。炎息、使う、多い、仕方なし』


 その手始めとして自分の盟友であるグゥエルナーに自らの状態を問うが、予想通りの厳しい状況にグランは視線を横へと逸らす。


 竜の言う炎息とは人で言う所のブレスであり、人間では行使不可能な放出系の魔術――炎や風で編まれた光の魔術は戦車の重厚な正面装甲は元より竜燐と障壁で組まれた竜の守りすら突き通す力である。


「あと、どれぐらい撃てる?」

『戦闘機動、約20。定点狙撃、30以上』


 しかし、それは威力相応の魔力を消費する代物でもあり、竜の豊富な魔素変換量すら超える消費量は照射に際して身に宿す保有魔力を削らねば成らず、魔力の回復に制限のあるこの地では弾数と言って差し支えない問題が横たわっていた。


『やはり、砂漠、難儀』

「――各員、各々の状況を知らせろ」


 そうして続けられたグゥエルナーの珍しい愚痴に逸らした目を伏せたグランは、今後の方針を立てる為に預かっている部下からも報告を上げさせる。


「リーリシア准尉、報告します。小官の盟友の保有魔力量は3割弱、との事です」


 その要請に応え、最初に報告を上げたのはまだ幼さの残る少女であり、彼女は自らの竜をグラン達に寄せながら未発達な外見相応の丸い声音で自分と彼女の竜の状態を申告する。


 少女の名は、リーリシア・リゾルブルム。


 金髪交じりの赤髪が目を引く彼女は竜騎士の最少年記録を更新した才女であり、幼いという偏見で侮る者もいるが、素直な反応と豊富な魔素変換量による継戦能力の高さからグランがよく連れて来ている将来有望な女騎士である。


「そうか――。少尉、地上の方が魔素が多いからといって命令もなく高度を落とすな。あと、指示に応えろ」


 そして、もう1人。


 実戦経験を積む事で懸念材料を克服しつつあるリーリシアに対し、勝手に動くバールドラ――第1隊の同僚によると子爵の次男坊だからだそうだ――に、グランはもう一度指示を飛ばす。


 第1隊の同僚からは使い難いとの忠告を受けていたが、グランとしては豪奢なプレートアーマーを着込むバールドラに『あんな重い物を着込んで竜が嫌がらないのだろうか』といった疑念を思う程度の関係であり、中隊長に押し付けられるままに連れて来る事の多い騎士である。


「――――」


 そうして渋々といった体で竜を寄せたバールドラはリーリシアと同じような報告を上げ、その厳しい状況を前にしたグランは動く事の珍しい表情筋に僅かな迷いを滲ませる。


 グランが選ばなくてはならない選択は『退がる』か『留まる』かの二者択一。


 戦域を担当する交代の竜騎隊が来ない以上、この空に留まらなければファルストリアの各部隊に浸透しているエクスリックス陸戦部隊が逆襲の憂き目にあう可能性が大きく上昇し、現状の王国戦力ではその1部隊の脱落が全ての崩壊に連鎖しかねない。


 しかし、大陸随一の機動力と攻撃力に加え、防御力すらも兼ね備えた竜騎を最強と言わしめているのは敵が態勢を整える前に“目的(こうげき)”を済ましてしまう一撃離脱にあり、“辛うじて戦える”という状況では反撃を受ける事で最強という上塗りが剥がされる危険性がある。


「――――『降りるな』とは言ったものの、高度を落として休ませる他ないか」

「……? 隊長。“キャリア”には、戻られないのですか?」


 竜達の翼に巻かれた風の魔術の余波で音が通らない中、それに妨げられながらもグランの呟きを拾ったリーリシアは疲弊していても戦場に残り続ける心算のように取れる上官の言葉に、困惑を滲ませた確認を向ける。


「竜騎の航空支援が無ければ今のエクスリックスは戦えない。此方が戦線を離れるのは第1竜騎隊が到着してからだ」


 その不安げな表情に里では感じた事の無い情動を覚えながらも、グランは方針を覆さない旨と共にエクスリックス側の苦しい実情で応える。


 グラン達が壊滅させたファルストリア戦車部隊の穴から浸透し、敗走中だった随伴歩兵部隊を蹂躙したエクスリックス陸戦部隊は広く展開した他の連邦戦車部隊への側面急襲やその後方に存在する筈の砲兵部隊への強襲を開始していると思われる。


 だが、見掛けの上では優勢に見えていても射程と火力に勝るファルストリアの立て直しを許せばエクスリックス側が窮地に陥るのは火を見るよりも明らかであり、連邦の反撃の目を潰す為の航空支援は王国側には必須の存在であった。


 同時に、そんな薄氷を履むような戦況ではあるが夜になれば夜間戦闘能力に乏しい両軍は互いに部隊を退かざるを得ず、このまま押し切る事が出来れば今日の勝利はエクスリックスが収められる。


「――――」


 加えて、時刻を考慮に入れればねじ込まれるとしてもあと一戦といった所であり――グラン達が居残る価値は十分にある。


 同時に、魔素の薄いザックバール砂漠の空であっても竜の魔素変換効量は甚大であり、熱で疲弊する砂地に近くとも障壁の類を解いて30分も耐えれば保有魔力を5割程まで回復させる事が出来るだろう。


「陸戦部隊の後退支援に入る前に休息を取る。休むには厳しい場所だが、各員保有魔力の回復に務めろ」

「了解しました」


 長い黙考の末、グランは戦闘継続の方針を確定。


 その判断は連戦に続いての警戒行動という厳しい物だったが、近くで待ち続けていたリーリシアは小気味よい言葉で応じ、待機位置へと竜を下げる。


「――少尉、何か質問があるのか」


 だが、もう1人からの応えはなく、グランは教えられた通りの対応を実行する。


「――――いえ、ありません」


 グランを見るバールドラの目はグランには形容しがたい“感情(いろ)”を帯びていたが、軍に必要なのは規律であるというグゥエルナーと教官の教え通りの対応でその目を制し、返答を確認してからグゥエルナーに高度を下げさせる。


 そうして降下を始めた3体の竜に夕暮れの熱が溜まり始める。


 高度を落とした事で彼等が感じ始めたそれはザックバール砂漠の地表を焼く夕焼けの照り返しであり、日が傾き始めているとはいえその熱は彼等に容赦なく襲いかかってくる。


 しかし、その鬱陶しい熱の中に彼等の求めるモノ――魔素がある。


 ジャルダイムの大気中に混ざり込んでいる不可視のソレは生命のある者の身に取り込まれる事で各々が扱える魔力となり、それを消費する事で彼等は才と術具 に応じた魔術を使えるようになる。


 ザックバールにあってはその熱が過分に邪魔だが、地表に多く滞留する魔素は高度を落せば落とす程に密度が濃くなり、ソレは人や竜の垣根を超え、魔力を扱える存在の活力となる。


「――? 光?」


 その濃い感覚はグランに止まっていた血液が再び流れ出すような充足感を与えるが、そんな中でふと視界の端に止まった微かな光が、彼の視線を巡らせる。


 方向はグラン達の拠点がある方。ザックバール派遣軍の本隊が駐留し、“キャリア”が置かれている南側。


 発信側との距離が離れている所為か明滅は希薄。


 だが、グランはそれが軍用の発光信号であると理解し、竜の里を出た後に習得した軍事学でその意味を理解した瞬間――。


「――っ!? 全員飛べ……っ!」


 グランは警告と共に降下していたグゥエルナーを強引に引き上げさせ、上昇に転じた盟友の負担にならないよう、その身体に身を寄せた瞬間――衝撃が彼の身体を揺さぶった。



お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークや評価は執筆を加速させる燃料となりますので、よろしければお願い致します。


2019/01/27 Ver1.0:旧式の配置変更に伴い、表示と異なる

2019/05/04 Ver1.1:08到達に伴う、全文改修化及び見直しを実施

2019/11/11 Ver1.2:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2020/09/12 『幕間』実装に伴う配置変更を実施。

2020/09/21 Ver1.3:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2022/11/14 Ver1.4:プロット確認のついでに誤字脱字及び調整を実施


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