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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
縁の終わりと始まりと    (起)
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01-1 第3次会戦――ノース・クラウ‐ウエストザックバール攻防戦

01-1 第3次会戦――ノース・クラウ‐ウエストザックバール攻防戦

Ver1.5






 ある世界に存在する巨大な1つの大陸、ジャルダイム。


 この地に住まう人間達から世界で唯一の大陸と考えられている場所であるが――それは彼等が大洋を渡る術を持たないだけで、この世界には他の大陸も有るのかも知れない。


 しかし、遠洋に群れを成す強大な海洋魔獣に海路を阻まれた人間は広大で変化に富むこの大陸に閉じ込められ、この地に幾つもの国を創り上げた。


 そんな国々の1つ。大陸を中央で分断するように聳えるアースラー山脈に住まう竜と共生する、魔力に富み魔術の扱いに優れた民の国――エクスリックス王国。


 竜の強大な力を上手く取り込む事でジャルダイムにおいてもっとも広い領土を持つに至った、竜と魔術の国。


 そして、そのエクスリックスと軍事力において並び立つもう1つ。アースラー山脈より東に広がる大砂漠(ザックバール)の先にある全てを手中に収めた大国――ファルストリア連邦。


 東の平地に乱立する小国の尽くを併合し、その豊富な人的資源を背景とした技術力によって勃興した技術の国。


 そんな2国、大陸の双璧を成す程に強大な力を有する両国が互いを打倒せねばならない天敵と認識するのは当然の流れであり、魔力を扱う術を持つ者と持たざる者との軋轢の果てに生まれた些細な衝突を切っ掛けとして、両国の関係は明確な敵対へと転ずる事になる。


 個々の戦闘力で勝り、少数であるが故に展開力でも勝るエクスリックスの魔導兵群。


 数で勝り、甚大な火力と堅実な機動力において戦場を抉るファルストリアの機甲戦力。


 山岳と平地というそれぞれの国土において真価を発揮する2つの軍組織は、しかし互いの指導部が本土での戦闘を避けた事で双方共に苦手とする緩衝地帯――ザックバール砂漠での交戦を余儀なくされ、決着を見ないまま20年もの長きに渡る戦禍を撒き散らしていた。


 互いに戦力を整える為に睨みあうだけで年を越えてしまう時期もあったが、主戦場となったザックバールでの戦局は一進一退。


 加えて、ファルストリアは砂漠を突破してもその奥に広がるエクスリックスの領域に踏み込めば地の利のある王国側に容赦なく殴殺される事から、例え優位に立っても戦線を下げる他ないジレンマのような膠着状態が続いていた。


 しかし、民族対立に寄る禍根から避けられぬ抗争は、21年目にして両国が状況を打破出来る“手段”を得た事で、漸く終結の兆しが見え始めていた。


 そんな頃――。






 雲一つない空の下、その容赦ない日差しに焼かれた砂上に3つの影が差したかと思うと、次の瞬間には砂塵を巻き上げながら“それら”が通り過ぎる。


 その影を追えば茶と黒の色――枯れた木と石とが混ざり合った岩肌のような色彩が見て取れ、砂漠をうねる稜線を縫う“それら”の速さに慣れれば、それらは背に騎士を乗せた3体の竜だと見て取れる。


 スラリと伸びた首に細身の四肢、肩から生える巨大な翼。


 9mに届く身体と四肢を矢尻のように細め、地表を掠めるように飛翔する“それら”はジャルダイムに存在する力の頂点に立つ存在であった。


「――――」


 そして、その首元に跨る1人の騎士。


 低空を滑る竜の邪魔にならぬように身を低くして前を見据える青年は、鎖帷子の上に装飾の施された外衣(サーコート)という騎士としては軽い装いで暴風に耐え、後ろに続く部下と共に周囲を警戒していた。


 彼等はエクスリックスの最大戦力である竜騎達であり、遠距離火力と機動力を提供する竜に近接防御と指揮を担当する竜騎士を合わせる事で構築された3騎の戦力は、ファルストリアによる北方への攻勢を察知した王国側からの迎撃部隊の1つだった。


「――話で聞い以上の、厳しい環境だな」


 その先頭、竜の飛行が生み出す暴風と容赦なく照らされるザックバール砂漠の熱に耐えながら索敵を続けていた竜騎士は呻くような呟きを洩らす。


 生半可な銃弾や魔術を弾く竜の障壁によって抑えられているとはいえザックバールの日差しは容赦なく彼等を焼き、竜の飛翔によって生じる風で抜ける以上の熱が彼等を蒸していた。


『慣れ。戦い、終わるまで、変わらない』


 だが、竜騎士の言葉に対し、以前の大規模迎撃にも参加した事があるらしい(グゥエルナー)は、その青い瞳で自らの竜騎士を見据え、達観した意思――魔力の繋がりによる断片的な感情――を乗り手の脳裏に響かせる。


 とは言え、自らの乗り手が思わずこぼした愚痴に涼しい顔で応えるグゥエルナーの内情も実の所では苦しく、膨大な保有魔力を維持する為に冷涼な環境を好む竜にとって砂漠での低空飛行は竜騎士以上に堪える行為であった。


「――ああ。此方も覚悟は済んでいるが……すまなかった」


 そんな逆境を物ともせずに飛行を続けるグゥエルナーの内情に考え至った竜騎士は緩んだ自分の口を恥じ、竜の障壁を抜けてくる熱波に絆され意識を改める。


「――見えた」


 そうして、飛び続ける事数分。


 稜線の先にポツリポツリと黒い物体が見え始めると、編隊を率いる竜騎士は自らの“目”が捉えた情報に思わず言葉を洩らす。


 相対距離は約4000m。


 人の目では米粒のようにしか見えない距離だが“遠見”の魔術によって視覚を強化している竜騎士の“目”にはファルストリアが運用する車両群の姿が確りと映っており、彼に追従する他の竜騎士達もそれらを捉えたようだった。


 目標の数は大凡20両。


 1門だけの長い砲を持つ『戦車』と呼ばれる種類が僅かに多いが、“遠見”を以てしても砲を判別できない車両――キジュウと呼ばれる兵装で武装した『対空戦車』――が残りを占めており、同車を外周に配置したそれは竜の襲撃に備えての陣形を敷いていた。


「――――間違いはないだろうな」


 運用している戦力からして車列はファルストリアによるノース・クラウ侵攻部隊の先駆けである事に間違いは無く、それを挫く事で機先を制そうとする竜騎士達(エクスリックス)の攻撃目標であった。


「――隊長より各員へ。初撃の目標は車列前方の対空戦車、以後は高空から対空戦車を潰す。……車列の後ろに付いている歩兵は逃がしてもいいが、戦車の類は全て破壊するぞ」


 自らの竜をその場に浮遊させ、稜線の影から敵車列を見据えていた竜騎士は方針を確定。その指示に従って彼等は陣形を横へと展開。


 そうして陣形を横隊へと組み換えた竜達は幾つもの牙が聳える己の口を開き、複数の魔術陣と魔力を集めた魔術を開放する。


 炎息(ブレス)


 竜が持つ最大火力にして力の象徴でもある光の魔術は熱砂の上を突き進み、砂漠を進んでいた対空戦車の申し訳程度な装甲に突き刺さる。


「各員、騎乗(ランディング)から乗竜(マウント)へ」


 竜のブレスを受けた車列が襲撃に震え、衝撃から立ち直ったファルストリアの部隊が自らの力の証である砲身を竜達に向ける中、竜騎士達は自らの竜に対する乗り方を変える。


 竜の首に跨る形から背に乗る形へと移り、竜達も車列からの反撃が始まる前に高度を上げる。


 それは前回の大攻勢の折に生まれた戦訓であり、高度によって戦車のシュホウを封じ、竜の鱗を盾とする事で対空戦車のキジュウから竜騎士を守る工夫であり――。


「空対地攻撃、開始」


 竜の好む戦闘高度までの急上昇を果たし、車列上方へと至った竜の編隊は更に大きく展開。


 そうして部隊ではなく個々の戦力となった彼等は空を行く者の本懐である無慈悲な空爆を開始する。


 対する車列側も黙って死を受け入れる筈もなく、対空装備を持たない者は狙いを散らすように散開し、抗ずる力が有る者はその障害を撃ち落とすべくキジュウの砲火によって竜を絡め取ろうと火線を撃ち続ける。


 撃ち上げられた無数の鉛玉に晒されれば竜といえども無事で済む筈がなく、不覚にも弾幕の網に捕らわれれば鱗に覆われていない翼の羽膜が弾丸によって千切れ飛び、高度を落としてしまう。


 だが、ジャルダイム最強と謳われる竜の力は伊達ではなく、高度を落とされてしまった竜は自らが持つ潤沢な魔力によってその身を再生させながら炎息を照射。


 強引に対空砲火の網から抜け出し、元居た高度へと浮き戻る。


 砲火を撃ち交わす彼等をはたから見れば、互いに一歩も引かぬ光と鉛の応酬を繰り広げているように見える。


 しかし、その実一方的な魔術と砲弾の交差は、地上からの応射が途切れた事で終わりを告げる。


 それは車列側の対空戦車が全て破壊された事によって空を舞う竜への抵抗手段がなくなった事に他ならず、対する竜騎側に目に見える損害が認められない事からもこの状況に置ける勝敗は明らかだった。


 そして、地上に残された戦車群は平地においては最強を誇るものの上方からの攻撃には弱く、車列が空への攻撃手段を失った今、このまま竜達がブレス攻撃を続けされば一方的に殲滅できる。


「対空戦車の殲滅を確認。――突っ込むぞ」


 とは言え、竜を以てしても魔素の薄いこの地で炎息を使い続ければ保有魔力を失って飛ぶ事すらままならなくなってしまう事から、この先は竜騎士の本懐である竜剣の出番となる。


『私、切る、するな』

「――嫌な冗談だな、グゥエルナー」


 グゥエルナーが発する冗談とも本気とも取れる意思に応えながら、竜騎士は自らの竜の背に乗せた足を首元の鐙に掛け直し、竜の右足に引っ掛けられている巨大な剣に手を伸ばす。


 それは全長4mにもなる長大な大剣であり、竜の魔力によって威力を成し、魔導騎士でもある竜騎士の“身体強化”によって振るわれる竜騎士の証――竜剣と呼ばれる、竜すら両断出来るジャルダイム最強の剣であった。


「行くぞ」


 そうして竜騎士に続いて彼の部下達も竜剣を構えたのを見計らったように、彼等の竜達は獲物を狙う鷹の様に翼を細めて高度3000mにもなる高度からの急降下を開始。


 対する地上の車列側は突入を開始した竜の編隊に向けて砲塔上部の補助キジュウや歩兵達のショウジュウによる対空射撃が撃ち上げる。


「――」


 しかし、竜騎士達は自分達の周囲を圧倒する鉛と曳光の嵐を無視。


 戦車の補助キジュウや歩兵のショウジュウでは竜血石の障壁を抜けない事は以前の攻勢の折に実証されており、そもそも有効打となり得るのであれば対空戦車が健在の時から撃っている。


「ぬぇぁっ!」


 その確信と事実の下、竜騎士は降下の速度も乗せた竜剣を戦車の装甲へと打ち落とす。


 ただ振るうだけでも戦車の装甲を切り裂ける竜剣に過剰ともいえる加速が乗ったその一撃は戦車を抵抗も許さず両断し、あり余った威力がザックバール砂漠の砂塵を巻き上げる。


「1つ目。――次だ」


 そうして初撃を済ませた竜騎士の声にグゥエルナーは残骸に背を向け、巻き上げた砂塵を目くらましとして次の獲物へと飛翔。


 地表を滑るようなグゥエルナーの低空飛行と竜騎士が横に構えた竜剣によって彼等は巨大な弾頭台となり、それを維持したまま軌道上に居た戦車へと突進する事で竜剣は砲塔と車体とを容易く分断する。


「2つ目。――っ、左、複数……!」


 竜剣で払い抜けた軌道のまま直進していたグゥエルナーは竜騎士の警告に翼を振り、その次の瞬間には彼等が通る筈だった場所を幾つかのシュホウの砲弾が突き抜けていく。


「――ぅし、っと……奥からやるぞ」


 そうして自らを狙った一斉射を背後へと見送った竜騎士は次の目標に狙いを定め、その意を感じ取ったグゥエルナーが視野と速度を得る為に高度を上げる。


 それに対し、シュホウを外した上に狙われている事が明らかとなった戦車群の車長達が狂ったように補助キジュウを撃ち始める。


 戦車は強力な陸上兵器であるが、最大火力であるシュホウはその口径故に仰角は限られてしまっている。


 言い直せば、この近距離で攻撃対象に高度を上げられてしまうと戦車では補助キジュウ以外に対抗手段が無いという事であり――。


「行け……!」


 撃ち上げられる鉛と曳光の火線を竜血石の力場で弾きながら、竜騎士は最初の突撃と同じように竜剣を撃ち下す。


「3つ目。このまま――」

『避ける、構えろ』


 グゥエルナーに水平方向へ加速を願い、その速度による払い抜けによって周囲の戦車群を一気に殲滅しようと目論んだ竜騎士に対し、竜は彼の脳裏に明確な意思を飛ばしてからの強烈な羽ばたきを実施。


「――っ!?」


 その風の魔術と加速の余波に竜騎士が歯を食いしばる中、飛び上がったグゥエルナーの下を幾つかの砲弾が彼等の下を通り過ぎていくのが見て取れた。


「すまない、助かった」

『お前、攻撃、重き、過ぎる』


 回避を終えたグゥエルナーがそのまま次の急襲に備えるべく高度を上げ続ける中、竜騎士の脳裏に送られた忠告は彼が竜に引き取られた時から言われ続けている耳の痛い忠告であった。


 手痛い失敗に気を落とした竜騎士がグゥエルナーの上昇に合わせて弾の出所に視線を飛ばせば、広く散開した戦車群がそれぞれを援護するようにシュホウを向け、示し合わせた様に後退を始めたのが見て取れた。


『心配、こちらで、助ける。好きに、動け』


 状況を理解した竜騎士にグゥエルナーはそう続け、急降下からの急襲に移る。


 後に『第3次ノース・クラウ‐ウエストザックバール攻防戦』と呼ばれる戦いの初戦、砂漠での戦いを知らぬ竜騎士は経験に長けたグゥエルナーの指導の下、多大な戦果と共にこの砂地での戦い方を学んでいった。






 竜騎士の名は、グラン・サウスココル。

 エクスリックス・ザックバール派遣竜騎隊、第2部隊長を務める中尉であった。


 竜騎士として軍務についた期間こそ短いが、ファルストリアの軍事行動が再び本格化する以前の小競り合いから数多くの戦果を挙げていたエクスリックスの若き実力者。


 そんなグランの才は彼が幼少の頃に竜の目に留まった事で始まり、竜の里と呼ばれる彼等の生活圏で少年期を過ごすという稀有な経験によって鍛えられた結果、20を僅かに越えた程度の齢でありながら熟練の竜騎士に比肩する技量を得るに至っていた。


 成人して間もない身に余る力に自己を肥大させる事も無く、成果によって得られる欲に溺れる事も無く、竜の友として相応しいように在り続ける。


 良くも悪くも我欲に影響される人の性から外れたそれは竜の里と呼ばれる場所で育ったグランの特異な経験が成せる行いであり、それによって人の輪から浮く事があったとしても、それを補って余りある力と能力が彼を隊長という立場に立たせていた。


 そして、その力が遺憾なく発揮されると思われていた21年目の大規模防衛――。


 エクスリックス・ファルストリアの両国が甚大な損害を被る事になる第3次ノース・クラウ‐ウエストザックバール攻防戦が終わるその時まで、グランはこの攻勢を終わらせた竜騎士達の1人として歴史に名を残すと期待されていた。


「――9つ目。……終わりだな」


 同時に、預けられた竜騎士と共にファルストリアの先鋒を壊滅せしめたグランもまた、慢心に至る程では無いものの、グゥエルナーと飛ぶ自らの勝利を疑ってはいなかった。






 この戦いが、師父(メイユウ)から賜る、最後の教導になるとは――夢にも思わずに。





お読み頂き、ありがとうございます。

ブックマークや評価は執筆を加速させる燃料となりますので、よろしければお願い致します。


2018/08/26 Ver1.0

2019/01/27 Ver1.1:配置変更のついでに誤字脱字及び調整を実施

2019/05/04 Ver1.2:08到達に伴う、全文改修化及び見直しを実施

2019/11/11 Ver1.3:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施

2020/06/10 Ver1.4:地形の表現方法に致命的ミスを発見。是正。

2020/09/12 『幕間』実装に伴う配置変更を実施。

2020/09/21 Ver1.5:プロット確認・調整のついでに誤字脱字及び調整を実施


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