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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
銀緑の少女を護るモノ  (転)
31/37

01-29 軍法会議(後)

Ver2.0 (読み直しの結果長すぎると判断し、増長性を確保する為にも分割しました。)




 不愉快な“色”と驚きに満ちた軍法会議を終えたグランは、収監されていた営倉ではなく法廷に程近い一室へと移されていた。


 本来は会議室として使われていたのだろうその部屋にはグラン以外の人間は居ないものの、彼の“目”は唯一の出入口である扉の先に立つ衛兵達の“気配(いろ)”を捉えていた


「――――」


 審議に掛けられている者が自由を失うのは当然の事であり、がらんとした部屋の静寂の中にいるグランは里でそうしていたように自分の“感情(いろ)”を見直し、思案の中に埋没していた。


 軍隊(ちからをもつもの)が従わなければならない軍規。


 それを(ないがし)ろにして自分の都合の良いように解釈しようとする先程の法廷は、グゥエルナーから聞いた事のある昔話――シキタリの本質を蔑ろにした上で、シキタリに(のっと)って対象を殺していた“姫”が居たという里の古い歴史の焼き直しを見ているようだとグランは感じていた。


 自分の手を汚さず、シキタリという全体が従わなければならない力でもって個体の願望を通す。


 それが行き着くのは自己の肥大化による『気に入らないからシキタリを使って排除する』という醜悪な理であり、里においてはそれを成した愚かな“姫”1体の為に『“姫”を殺しても罪にならないという』対策(シキタリ)を発生させる結果となった。


「――――」


 軍規(シキタリ)を含む全てにはそういった黎明期(れいめいき)が必要であり、先程の法廷もその過程の1つなのだろうとグランは考えていた。


 もっとも、成さねばならないシキタリを抱えている身で人間の法規(たにんごと)の礎になるのは避けたいという考えはグランにもあり、助かった経緯に思う所はあれども最悪の結果を免れた結果に彼は感謝していた。


「しかし――戦場以外の場所で、即死するような危機があるとはな」


 とは言え、その幸運に胡坐をかいたままでいては次の死が避けられない事を理解しているグランは、自分が見ていた『人間の世界』を見直す足掛かりとして現状へと思いを巡らせる。


 グランはラフィーアが提示した夢に自分のシキタリを託し、自身が持つほぼ全てをソレに賭けている状態であるものの、あの砂漠の夜から幾分かの時間を得た事でそれ以外の道筋も考えていた。


 その前提は里とは違って治し難いが死に難い人間の戦場で生存し続ける事を土台としており、死なない程度の無理を通す事で奴に至る為の情報を集め、その無理によって四肢の何れかが欠けるような事があった場合には里の“白姫”を頼る事で身体を治し、奴へと至れる状況を作り続ける。


 それがグランの描く次善の策であったが、まさか戦場以外で逃れられない死がある事を想定していなかったグランはシキタリを果たせない確率が上がった事を脅威とみなし、それを避けるべく思案を深める。


「先ずは――もっと『人間の世界』を学ぶ必要があるのだろな……」


 今思えば部下(ラフィーア)達が南方と関わる事を避けていたのは今回の事態を避けられたかもしれない兆しであり、この状況は里での常識に縛られて人間の悪意を考慮しなかった自分の落ち度でもあると認識したグランは、先ずは慣れてしまった人間から距離をとる事を心に決める。


「――――来たか」


 そうしてまた新しい『人間の世界』の常識を自分の物としつつも、『人間の世界の指標(ラフィーア)』からも距離を取らねばならない決定に言いしえぬ騒めきを覚えたグランの“目”に華々しい魔力(いろ)が映り込み、その眩しさに“目”を逸らした彼は自分の目で扉を見据える。


 グランの“目”を焼いた光の持ち主は恐らく先の法廷で彼を救ってくれた人物であり――今の彼が属するザックバール派遣軍の総監の立場にある人間となる。


 『人間の世界』に疎いグランをしてもその人物が『重要な存在』であるという認識を得ており、以前から情報を得ようと動いた彼をしても『自分達の上役であり、同時に卓越した魔術師である』という事位しか調べられなかった存在が、扉を叩くノックの後に姿を現す。


「(――――――やはり、綺麗な人だな)」


 異様な魔力(まぶしさ)を持つ人間――人間(ひとがた)を相手にグランが“目”を逸らした事からして異常なのだが、竜を基準に考えてしまう彼は“白姫”や“霊廟の主”に対して行っていたソレを疑問と思わず、青年の目は素直に開かれた扉の先に居る女性への所感を素直に思う。


 グランの目に映るのは太陽の光のような長い金髪と血を宝石にしたような赤い瞳が特徴的な女性であり、ラフィーアの講義――人間の髪と瞳はその個人が持つ魔力の属性を表している――に照らし合わせば、光と炎の属性を得意としているのだろうと彼は推察する。


 同時に、混じり気のない金髪の人間というだけでもグランに見覚えはなく、その珍しい髪がラフィーアと同じように薄っすらと光を湛えているとなれば魔術的な資質は疑いようがなく、『世界最強の魔術師』という二つ名も自称の類ではないのだろうと彼は認識を改める。


「――面倒を掛けたわね、大尉」

「…………」

「――――」


 グランの視線の中、言葉と共に入室したゼフィリアに続く人物――疲れた“色”と共におぼつかない足取りを見せているラフィーアとグランの記憶にない背の高い女性(ひとがた)が無言のまま入室し、ゼフィリアがグランの対面に腰かけると彼女に続いた2人も思い思いの場所へと移動する。


 どのような経緯があったのか明確な意識があるのかも定かではないラフィーアはゼフィリアの横に座り、背の高い女性は静かに扉を閉めると従者のように扉の傍に佇む。


 グランとしては彼が見た事もない程の不調に陥っているラフィーアの事が気になったものの、こうして上役でもあるゼフィリアと対面するに至った事で先送りにしていた問題に直面する。


「(――――――――なにを話せばいいのだろうか)」


 それは――切実な問題だった。


『知っている事を話し、信ずる事を成す』


 そのグランの在り様は里に居た時から変わっておらず、相手が『人間の世界』の上司であろうと預けられた部下であろうとも事実を話すのであれば彼の言動に迷いはなかった。


 そして、『人間の世界』で求められた事が里での役割と重なっていた事もあり、グランとしては「自分は人間としてそつなくこなせている」と認識していた。


 しかし、歪められた軍規(シキタリ)の被害者となった場合の受け答えなど覚えがある筈もなく、助けられはしたもののその手段についても思う所のあるグランはゼフィリアからの謝罪のような挨拶に対応する言葉が思いつかなかった。


「――」


 歪められているとはいえ軍規(シキタリ)の正しさを示し合わせる場所にゼフィリアが持ち込んだのは“魔眼”による強制であり、それは竜の友としてみれば看過出来ない凶行となる。


 しかし、その理論のままにゼフィリアを否定するのが正しいのかと問われれば、冤罪による極刑から助け上げられた現実がそれを否定する。


「――――」


 頼り過ぎは良くないと理解しつつも、判断に迷ったグランは焦点を目の前の相手(ゼフィリア)に固定したまま『人間の世界の指標(ラフィーア)』に意識を向ける。


「………………」


 しかし、こういった窮地においてグランに道を示してくれていたラフィーアも“色”に見える程の疲労がある状態では反応を示せないらしく、状況を好転させるような気付きを彼が得る事は出来なかった。


 そんなグランの惨状に対し、彼が他所に気を振っているのが判る筈のないゼフィリアは意地の悪い微笑みを浮かべたまま青年の事を眺め、その出方を楽しむように笑みを強めていた。


「――――此方は、次の戦場で同じ状況に晒されれば――同じ判断をする」


 進退窮まったグランはそのまま長い黙考に入り――傍目から見れば失礼に当たる程の長考の末、彼は自分の意思を言葉に表す。


「ええ、それでいいわ」


 否定する事も肯定する事も出来ないグランにはその事実しかなかったのだが、ゼフィリアはそんな彼の言葉に何故か満足そうに笑みで応える。


「南に協力した事自体が失敗だったけれど、その考え方は間違っていないわ」

「――――」


 そのあまりにも軽い言葉に『そうか』と貴人に対して不適格な言葉を返しそうになるのを押し留めたグランを前に、ゼフィリアは機嫌のよさそうな笑みを浮かべたまま言葉を続ける


「それで、今後の事だけど――可能な限り手は回したけれど、道義的処罰というふざけた理由で2週間程拘束される事になるわ」

「――了解です」


 グランの心情は平静とは程遠いものであったが自分の在り方に沿った内容であれば会話は容易であり、彼の口からは最初の長考が嘘であったかのような的確な言葉が発せられる。


 話題から察するに主題はあの法廷から離れたようであり、そうとなれば受け答えは可能であるとグランは安堵していた。


「素直な返事はいいものね。――貴方が謹慎から戻ったら、武力を使ってでもこの子を守りなさい」


 しかし、そんなグランに投げ付けられたゼフィリアの言葉は、彼を驚かせるに十分な威力を持っていた。


「――――副官からは実力行使は厳に慎み、やむを得ない場合にも良く考えるようにと言われています。此方を監督する立場にある貴女は、その発言をどこまで許容されるのですか?」


 『人間の世界の指標(ラフィーア)』の発言と矛盾する発言(それ)はグランを混乱させるに十分な爆弾(ことば)であり、彼は『人間の世界』にあってはラフィーアよりも上位の立場にある存在からの許しに疑問を投げ掛ける。


「全てよ」

「――――もう少し具体的な指標を示して頂きたい」

「私も含め、どんな存在であろうと貴方の考える限りにおいてこの子を害する可能性があり、排除する事以外に選択肢がないと思うならば、存分に切り捨てなさい」


 しかし、その疑念に対する返答は『人間の世界の指標』に反する言葉の追認であり、グランが更に疑問(ことば)を重ねれば、今の彼が持つ常識を真っ向から否定する『許し』がその嫋やかな唇から発せられる。


「――――」


 そのあまりにも大胆な発言は疲れ果てているラフィーアをも微かに震わ(おろどか)せ、応えなければならない立場となったグランは自分が動揺している事を自覚しながらもその真意を黙考する。


「まぁ、私に挑む時は貴方にも命を賭けて貰うけれど――私が居る限り、この子を守る貴方の行いを私が保証するわ」


 グランの沈黙はその多くが動揺によるものであったが、それを疑念によるものと捉えたゼフィリアは更に言葉を追加する。


「――――では、今の時点で副官が疲れ果てている理由をお聴きしたい」

「私に付き合っているから疲れているのでしょうね。――あぁ、大切な子だから意思と命は尊重しているわよ?」


 グランの動揺はまだ収まりきっていなかったが、彼は眼前に居る意図を読めぬ存在(ゼフィリア)が発した言葉(ゆるし)通り、彼女がラフィーアの敵であるかどうかの是非を問うと相手(ソレ)は朗らかな“言葉(いろ)”で返す。


「――――」


 直視が難しい事からグランは“目”を横にずらす事で発せられている“色”の残滓を読んでいるのだが、その残り香からも見えるゼフィリアの“感情(いろ)”は慈しむような“色”であり、その言葉に嘘は無いように見て取れた。


「…………」


 同時に、グランと同じ言葉を耳にしたラフィーアから呆れたような“色”が発せられるのも“目”に映ったが――認識の乖離があれど、ゼフィリアはラフィーアに命の危険を与える存在で無いのは確かだろうとグランは認識する。


「――――」

「質問はもう無いようね。――禁錮中の貴方の護衛として、ファスエルの端末を置いていくわ」


 残滓とはいえゼフィリアの“魔力(まぶしさ)”に眩んだ“目”を休めているグランを前に会話を打ち切ったゼフィリアはそんな言葉を最後に席を立つ。


「南の事は信じず、ファスエルの言う事をよく聞く事で禁錮を乗り切りなさい」


 身を翻しながらそんな言葉を続けたゼフィリアは視線だけをラフィーアに向け、それを受けた副官は普段の所作からは想像もできない鈍さで立ち上がってからゼフィリアの後を追っていく。


「それじゃ、縁があったらまた会いましょう」


 そう言って部屋の扉に手を掛けたゼフィリアは幾分か緩んでいた“雰囲気(いろ)”を法廷で見た時のソレへと引き戻し、貴人としての佇まいを強めてから外へと踏み出していった。


「――――。もしかしたら……」


 そうして(ゼフィリア)が過ぎ去ってから暫くして、思いの外緊張していたらしい自分の身体が弛緩するのを感じたグランはその気怠さの中でふと1つの気付きに至る。


 『人間の世界』では絶大な魅力となるらしい銀髪を持っているが故に、自由を謳歌したくとも数多くの力ある者からの干渉を受けているラフィーアを守っているのはゼフィリアなのかもしれない。


「確かに――それならば辻褄が合う、か」


 今でこそそれなり以上の戦闘能力を有するラフィーアであるが幼少時とれば何者かの庇護を受ける必要があり、里においての“伴”にあたる存在が居る事をグランは確信していた。


 しかし、それだけの魅力があるらしいラフィーアの事を放置している“伴”なぞ居るのだろうかという疑問も付いて回っていたのだが――先程の会話にはその疑問を解決するだけの気付きがあった。


 あれだけ力があるのであれば“姫”の我儘を許すだけの度量があるのも理解でき、自分に刃を向ける事を容認する言動も里に当てはるならば『私に“祭”を仕掛ける心算なら命を掛けろ』と示していると考えれば頷ける。


 そして、里では“伴”を決めた“姫”がやけに消耗している時があり、先程のラフィーアが似た状態にあると考えれば彼女に纏わる疑問の多くに説明がつく。


 しかし――。


「(――――女性でも“伴”になれるのだな)」


 その事実――正確には誤解なのだが――を前にしたグランは里では思いもしなかった理を記憶に収めながら、部屋に残された人型を視界に収める。


「――――」


 見掛けだけをとるならばソレはラフィーアやゼフィリアに勝るとも劣らない美しさを備えた女性のような姿をしていたが、人間と変わりないその顔形は最初から最後まで変化というモノが無く、今も静かにグランの事を眺めていた。


 ソレの事を知らぬ人間が見れば『同じ人間』としてソレを認識し、グランの様子を窺っていると見て取るのだろう。


 しかし、ソレの視線はグランの事を捉えてはいるものの、彼は“目”で“色”を見るまでもなく『ソレが自分を見ていない』事が直感的に理解していた。


 それ故にグランは最初からソレに即した態度を取る事ができ、意識の全てを唯一の未知(ゼフィリア)に集中する事で先の難関を切り抜ける事に成功していた。


「(――やはり、霊廟の幽霊(セカード)のような“色”をしているな)」


 それはグランがソレへの接し方を心得ていたからこそ出来た対応であり――姿形はまるで違うものの、部屋に残った人型と似た存在を彼は知っていた。


 グランの知るソレは竜の里において“霊廟”の中にだけ現れる幽霊のような存在であり、ソレは彼に多くの知識を与えた先生――青年からするとそう認めるのは大変憚(はばか)られるのだが――となる。


 ソレの特徴は“魔力(いろ)”はとても濃いのだが“感情(いろ)”が薄いという生物に当て嵌めるには難しい“見え方”をした存在であり、セカードがそうなのは実態がない故の弊害だとグランは考えていた。


 しかし、『人間の世界』で見る事となったファスエル(ソレ)を見るに、実体が無い事が原因(じぶんのにんしき)は間違っていたかもしれないと考えたグランは自身の記憶にある認識を引き下げる。


「――――」


 グランにとってのセカードは接触すれば無駄話ばかりをする厄介者であったが、助言等の実りのある話をする時は遺憾ながらも(グゥエルナー)に重なって見える程の静けさを見せていた。


 しかし、この場に残されたファスエルはそんな厄介者(セカード)とは違って沈黙を是としているようであり、この存在とならば上手くやっていけるかもしれないという好意的な印象を最後にグランはその美しい人型から視線を外す。


「(――――“霊廟”のようなものが他にもあるとは考えにくいが……在るのだろうな、きっと)」


 “霊廟”があるからこそセカードが居たように、自分の知らない“何か”があるからこそ目の前の存在(ファスエル)は居るのだろう。


 そう直感したグランは、根拠の薄いそれが間違いではないと強く認識しながら部屋に入る衛兵達を見遣る。


「――――『人間の世界』は、驚きに満ちているな」


 誰にも届かないであろう疲れ(つぶやき)を最後に、グランは南の衛兵達とファスエルの先導に従って部屋を後にした。





次からようやく本作を作りたいと思った話の戦場に入ります。

終わりまでのプロット作ってから今日までの長かった。


2021/05/15 Ver1.0:実装

2021/08/28 Ver2.0:実装(読み直しの結果、長いと判断)

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