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竜の息子と鬼の弟子、魔術と機械の世界で出会い、そして――。  作者: サーデェンス・ロー
銀緑の少女を護るモノ  (転)
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01-26 一騎当千(前)

01-26 一騎当千(前)

Ver1.0





 ジャルダイムの南方。


 そこはエクスリックス王国とファルストルア連邦とが砂漠(ザックバール)を介さずに接する地域であり、グラン達が目指している都市(サウスゲート)は数か月前までは王国側が領有する最東端の拠点であった。


 しかし、先の会戦(ノース・クラウ‐ウエストザックバール攻防戦)の折、サウスゲートを含むこの一帯もまたファルストリア側の攻勢を受け、連邦側の最西端にある都市(ナーセキン)の近傍に設置された長距離砲に晒され続けた事で南方軍(おうこくがわ)は同地からの一時撤退を決定。


 その結果、南部でも橋頭堡を獲得したファルストリアは同地の要塞化を開始。


 当然、王国の守り手を自称する南方軍が自分達の勢力圏での失点を見過ごす筈もなく、逃げ帰った方面軍の再編(しょり)を済ませると本隊による反攻作戦を開始。


 虎の子の竜騎隊すら投入したサウスゲートの奪還とナーセキン砲台群の破壊を目指した作戦を発動させるも、この時点で既にサウスゲート周辺の見通しの良い荒地はファルストリア自慢の戦車隊の庭と化しており、進軍した南方軍陸戦隊は第一目標であったサウスゲートにすら到達できなかった。


 そうして陸戦隊が手を(こまね)いている内にサウスゲートの対空砲は次々に拡充され、それにより竜騎による襲撃も困難となった事でこの地域は連邦の勢力圏に染まり、南方軍はサウスゲートの西に存在する都市(サウスウート)に本拠を移し、再攻勢の機を窺っていた。


 そんな状況の中、ザックバール派遣軍の北部での活躍を歯ぎしりしながらも切望していた彼等は中央(ちエクストーラ)に深く浸透していた政治力によってフライア級の派遣を要請。


 中央や北部側の抵抗はあったものの数を頼みに政治闘争を押し切った南方側の意向により、再編成を終えたばかりの新編フライア隊の派遣が決定される。


 道中で合流した合流した南方組――指揮官はサウスコールナー大佐。戦力は魔導騎士100に運竜10――が提示した作戦はフライア艦載機竜隊がサウスゲート北部より急襲を行い、要塞化された同地区北側の戦力を無害化する事で突入路を開口。


 その後、運竜にてグラン等を追従する南方軍魔導騎士がサウスゲート内に突入し、サウスウート近郊を(おびや)かしている残りの砲台群を排除し、此方の作戦に合わせる形で再進攻を開始している南方軍本隊を受け入れた後、元凶であるナーセキンを目指す。


 それがグランの聞かされている作戦概要であり、その先鋒である彼等は――。


『戦隊長から離れたら墜とされるぞ! 怯むな、走れ!』


 相も変わらず敵砲火の中を走っていた。


 敵火線に押されて陣形が縮まった結果、後方へ追いやられてしまった機竜隊長(ザニエル)機が檄を飛ばすものの周辺をはじけ飛ぶ砲火がその声を上書きする。


 彼等が走るのはザックバールの砂地とサウスゲートの荒地とが入り交じった地面――これまでの主戦場であった南方街道から外れた地域であり、12体の機竜は戦隊長(グラン)を乗せた機を先頭とし、砂漠側から都市を囲む防壁を目指して走っていた。


「――想定通りだが、やはり防御を固めた要塞に正面から突っ込むのは止めた方がいいな」


 そんな彼等を阻もうと吹き荒れる砲弾の嵐――“風盾”に妨害されてあらぬ方向へと逸れていく徹甲弾を横目で追いながら、グランは立案段階から判っていた事実を心にも刻む。


 連邦側が想定していた防御線は南方街道周辺にあり、北側は保険程度の戦力であるとされていた。


 しかし、現実は即応してきた連邦戦車隊――数は21両――の歓迎を受ける事となり、もしも攻勢を仕掛けたのが正面からであれば“風盾”で防ぎ難い砲台群(りゅうだん)も攻撃に加わった地獄絵図に追い落とされていた事だろう。


『……指揮官が弱気だと、部下が逃げます。……ご注意を』

「――そうか、これは弱気と取られるのか。……ならば、そんな気がない事を見せないとな」


 砲火に塗れた戦場の中、機体(じぶん)を指揮する上官の呟きを甲斐甲斐しく拾ったラフィーアは諫言を差し込み、その挑発めいた言葉に反応した上官(グラン)の意を受けとめた乗機(ラフィーア)は足を速め、拠り(たいちょう)に置いて行かれまいと後ろの部下達も加速する。


 グランの乗機を先頭とした機竜隊が三機一組の三角形の集合体で突撃陣形を構築しているのに対し、連邦戦車隊は横隊を敷いて火力を集中していた。


 北方での情報を彼等が知っているかは定かではないが、正面からであれば主砲を逸らせる“風盾”であっても集中的に受ければ保有魔力の減衰によって行動不能に陥る事から、火力の集中は下策ではない。


 しかし、機竜隊は竜晶を組み込まれているが故に他とは隔絶した魔力量を持つグランの乗機を先頭(たて)とする事で魔力の節制に努めており、脱落機を出す事なく距離を詰めていた。


「――対空戦車2両を相手に苦戦していたのが嘘のようだな」


 そんな拮抗の中、左右へと視線を浅く飛ばしたグランは部下達に問題がない事を確認し、自分の言葉を含めて『そんな事』が出来る余裕がある事にもう一度驚く。


『……余裕を見せると死神が来ますので、感慨はそこそこにお願いします。…………敵部隊、動くようです』

「――了解だ」


 先程と同じ皮肉めいた言葉とは裏腹なラフィーアの“心配(いろ)”――グランの“目”に映るその“感情(いろ)”に口元を僅かに緩めた彼は、そんなやりとりとは無縁の戦場に“遠見”を向ける。


 元々1個中隊(13りょう)に2個小隊(8りょう)が混じるという変則編成だった連邦戦車隊は、ラフィーアの報告通り中隊と小隊組の2集団に別れながらの後退を始めていた。


 その動きとサウスゲートに4つある砲台群(もくひょう)――その内東側の2つは要塞砲も数も無い予備陣地――を鑑みれば、連邦側は発砲可能な砲台も加えての半包囲を狙っているようだった。


「――――」


 “遠見”に映る状況と共の彼我の距離を勘案したグランは背後(ザニエル)にも判るように視線を送り、機竜隊長(あいて)が頷いて足を緩めたのを確認した彼は竜剣(しきぼう)を振り上げる。


 その大振りな動きに各小隊長の“意識(いろ)”が自分に向いたのを確認したグランは竜剣を敵左翼(みぎがわ)へと2回振り下ろし、乗機の反動に備える。


 グランの動きの意味は『自分を含めた2小隊が示した方に当たる』事を示しており、その伝達通りに右側の小隊がグランの隊の横に並び、残った2小隊が組となって敵右翼(ひだりがわ)を狙う。


「――よし、次だ。……首を下げろ」


 全体として若干の硬さが残るものの、部下達が狙い通りの動きを果たしたのを確認したグランは次の合図を取る。


 少々くどくなるが、横や上下に動いている物を狙う事は難しく、それが増減速を行っているとなれば『当たらない』と表しても違いないのだが、それでも“風盾”の範囲外から主砲を受ければ機竜は確一で戦闘不能に追い込まれる。


 故に、次の指示を出せるだけの空間を確保させたグランは竜剣を大きく横に振り、部下全員の意識を集めた彼は後ろに回った竜剣を振り上げた勢いのままに振り下ろす。


『……行きますよ』


 その指示内容は『散開して襲撃せよ』であり、乗機を含めた全員はその微かな危険性(よこあいからのひだん)を更に減らすべく陣形を捨て、纏まりを解かれたグラン揮下6体の機竜は撃ち出された砲弾のように全力疾走を開始する。


 それは正面を機体の“風盾”、側面は増減速による『運』を当てにした突撃であり、それらの灰色の群体から飛び出した乗機(ラフィーア)は他を置いていくように足を速める。


 その苛烈な加速は敵左翼(みぎがわ)敵右翼(ひだりがわ)の注意を引くには十分な威力があり、敵戦車隊の旋回砲塔の全てがグランと乗機(ラフィーア)へと指向されるも、恐怖に駆られた敵の動きはグラン等の思う壺であり――。


「1つ」


 突出する事で注意を引き、部下達に向かう砲弾を減らしながら連邦戦車隊への間合いを詰めた乗機は跳躍によってグランの刃を車体(てき)へと導き、その流れのままに振り下した竜剣によって彼等は本日初めての戦果を得る。


『……次です』


 そうして敵左翼の只中に飛び込んだ乗機は残心の(いとま)すら惜しむように地面を蹴り、身を捻る事で旋回しながら次の戦車に迫る彼女の意図を察したグランがその回転に乗せるように刃を振るえば、それは斜めに両断される。


「――2つ」


 まだ敵戦車群の砲身はグラン等の方に向いていない――否、彼等か突入前の部下達のどちらを狙うか迷っているのを見た2人は敵左翼の端へと跳躍。


 その先には逃走を許してしまう危険性が最も高かった遠方の車両が居り、それを強撃によって縦に寸断したのと時を同じくして部下達が敵群に取り付き、戦車の後方や上方等の弱点部位に30mmや魔石砲を叩き込む事で撃破していく。


『……ザニエル准尉の方も敵小隊群を突破した模様』

「信号弾、青1。次が来る前に要塞に取り付く」


 ラフィーアからの報告にグランが作戦の初動を完遂した旨を周知させる命令を発すれば彼女は流れるような所作で信号弾を打ち上げ、止まる事が大きな過失である事を知る副官はすぐに足を動かし――置いていかれまいと部下達もまた走り出す。


 連邦の戦力は南方軍が展開する西(サウスウート)側に出払っており、(ザックバール)側への備えは薄い。


 今作戦の前提は南部から(もたら)された情報にあり、それと共に南方軍が提示した作戦はグラン等が前衛と出現するかもしれない予備選力、そして砂漠側に接している要塞砲を破壊する事で突入口を開口し、そこから先は敵地制圧に優れた南方軍の魔導騎士達(ほへい)の役目となる。


 グランはとしては敵戦力の詳細や後詰めの可否に不安が残るものの、潜砂艦や“風盾”の特性を上手く汲んだ妥当な作戦と感じていたのだが、その案に対する部下達――彼が重きを置くラフィーアを含む――の反応は芳しくないものだった。


「――――此方でも使いそうな手であったのだがな」

『……竜士様、何か仰いましたか?』

「いいや、なんでもな――いや、意外と後続が整っているな、と」


 その「終わった話」を蒸し返す事を避ける為に言葉を濁したグランであったが、意図せず巡らせた視界に入った部下達の動きを前に彼は新たな話題を咲かせる。


 相手が戦車であれば先頭の“風盾”に便乗する事で保有魔力を節約出来る陣形は効果的な策となる。


 しかし、“風盾”の範囲外である上方や足元、側面や後方からも機体を加害する可能性がある榴弾を相手取るとなれば陣形を組む事は集団壊滅を招きかねない愚策となる。


 故に、グランは陣形を組み直す事なく散開したままでの襲撃を選んだのだが――。


『……竜士様の魅力が成せる成果ですよ』

「あまりおだててくれるな。――手早く片付けて、南方軍に引き継ぐぞ」


 乗機の後ろに展開する部下達は榴弾による被害を減らす為に広く散開しつつも突撃陣形の位置取りを保持しており、各小隊長を先頭とした大きく広げた三角形を形作りながら砲台群(もくひょう)に向かっていた。


 それはグランの判断――今の練度では複雑な部隊行動は不可能であるというある種の見限り――を覆した動きであり、この形を自主的に作れたのであれば敵の予備戦力が現れても問題なく処理できるだろう。


「――――人間の世界は驚きに満ちているな」


 そんな予想外の状況を前にしたグランがこれまでの人生で感じた事のない感覚(こうよう)を覚える中、背後から轟いた壮絶な爆音が衝撃となってグランの身体を震わせる。


「――漸く、か」


 威力を解き放った後ですらグランの身体を揺らす元凶(それ)は漸く準備が整った要塞砲からの砲撃であり、その威力は“風盾”の範囲外であれば至近弾でも行動不能に陥りかねない程の威力であった。


 しかし、放たれた火力(それ)は事前の想定通りであり、戦車隊の相手をしている時に撃たれれば相当に厄介であっただろうとは思うものの、今になって撃たれても対策を実行している此方の動きは揺るがないとグランは考える。


 勿論、要塞化されたサウスゲートの防御力が合わさった砲台群を正面切って相手すれば機動兵器である機竜に勝ち目はないが――。


「――15秒か……行けるか?」

『…………次のもう1発を凌いだ後でしょうか』


 “遠見”で捉え続けた砲台群から噴き上がった砲煙にグランが確認(ことば)を投げ掛ければ、さらりと目算を済ませたラフィーアが条件で応え――その瞬間、2人の五感全てが爆炎の煙と熱に染まる。


「――っ、“風盾”の範囲内でも衝撃が届くのか」


 それはグラン等の進行方向上で爆裂した榴弾の威力であり、先程よりも近い爆炎は“風盾”の効果内であっても熱と耳鳴りを齎し(※1)彼は耳に残る衝撃に言葉(どく)を零す。


 連邦側に北方での戦訓が伝わっているのかは定かではないが、砲台群は“風盾”を持つ機竜に対して正面からの水平射撃が意味をなさない事を把握しているらしく、グラン等が距離を詰めても尚曲射を継続していた。


 それが勘に依る砲撃だったとしても“風盾”の範囲外に当たれば確実に破壊される一撃は確かな脅威であり――今の砲撃も、正面でなければ危なかった。


『…………ご無事で何よりです。……次は予定通りに?』

「ああ」


 想定通りの脅威である事を身を持って体験する事になったグランであったが、榴弾がそうそう当たるモノではない事も理解している彼はラフィーアが機体越しに滲ませた“安堵(いろ)”とは裏腹な確認(ことば)に継続を明言。


 その言葉通り、後続する部下達が爆炎の残滓から抜けた事を確認したグランは竜剣の樋にあたる部分に左手を添え、後ろに続く全員からも見えるように高く掲げる。


 先程の榴弾には1個小隊を覆い隠す程の爆炎(いりょく)があり、それがまぐれ当たりであったにせよ部下達を怯ませるだけの効果があった。


 しかし、グランが明確な行動(あいず)を成せば部下達は大なり小なり感じていた動揺に蓋をし、指揮官(かれ)の動きを待つ。


「――――」


 視界に入っていないその眼差し(かんじょう)を“目”で受け止めたグランもまた再び感じた感覚(こうよう)に蓋をし、自分が成すべき『その時』を狙う。


「――っ」


 そうして研ぎ澄まされた視線の先に砲炎が映り込んだ瞬間、グランは掲げていた竜剣を降り下げ、合図(それ)を待っていた部下達は土煙を巻き上げながらの急制動と共に榴弾を発砲する。


 直射と曲射。


 あまりにも違う弾道を描くにも拘わらず、双方の飛距離と弾速が釣り合った砲弾は同時着弾という結果を成し、機竜隊と砲台群の双方が爆炎に包まれる。


「――――足だけで、支えるのは……中々に効くな」


 その爆炎――機竜隊(ぶかたち)砲台群(もくひょう)とによる榴弾を使った壮絶な殴り合いを見下ろすグランは、一斉射撃の合図に両手を使う所作を宛てた己の判断に後悔していた。


『……もっと効率的な伝達手段は考えたい所ですね』


 そんな雑談(ことば)を交わすグランと乗機(ラフィーア)が在るのは部下達と砲台群との間に広がる空の只中であり、彼女は“干渉”によって変質させた空気を足場に空を駆けていた。


 積載量に制限がある機竜に対して砲台群は全てが固定されているが故に潤沢な装備を有しており、これらが真正面から撃ち合えば機竜側が敗北するのは目に見えている。


 また、機動兵器が得意とする接近戦に持ち込もうとしても連邦の兵器には地雷と呼ばれる埋設兵器があり、運悪く踏んでしまっても1撃で行動不能になるのは稀な事だが、それでも数の少ない機竜側は動きが鈍るその危険性があるだけで砲台群に近づけなくなる。


 故に、航空支援の無い状況下で要塞化された砲台群を排除するのは至難の業であり、強引に事を進めれば多大な損害を被る愚策となるのだが――。


 それらの諸問題を一気に解消するべくグラン等が画策したのは『自力での航空支援』であり、翼を持たない機竜を飛ばそうなど荒唐無稽な話ではあるが、竜晶が無い状態で竜の戦闘高度(2500m)近くまで昇ったラフィーアならば可能であるという彼の提案が通り――2人は今、この空にいる。


「手振りや発光信号以外か……当てはあるのか?」

『……私は定命薄弱な小娘ですよ? …………思い付くのであれば、もう創っています。――そろそろ落ちますよ』


 吹き荒れる空の暴風の中で交わせる会話の終わり。“干渉”に回すだけの余裕がなくなった乗機は砲台群への落下軌道に入り、グラン等は吸い込まれる様に要塞砲へと落ちていく。


「――――?」


 その終点――出会った時と同じような状況を前にしたグランは相応の衝撃がある事を覚悟していたのだが、乗機は高々度からの落下とは思えぬ軽やかさで要塞砲の天蓋装甲に着地する。


「(――魔力があれば、君は本当になんでもできるのだな)」


 それはラフィーアの“風舞”と“干渉”の魔術との合わせ技である事まではグランにも理解出来たものの、その繊細な配分に舌を巻いた彼は、希代の魔術師に尊敬の念を抱きながら静かになった戦場へと視線を飛ばす。


 そこには“目”で察した通りの連邦側――彼等からすれば突然現れた機竜に硬直し、部下達に注目していたが為にグランを向いていない無数の砲が見て取れた。


「――締めるぞ」


 その張り詰めた静寂の中、グランは乗機(ラフィーア)の踊るような旋回に合わせて竜剣を振るい、下段に置いておいた刃は要塞砲(もくひょう)の砲身を切り落とす。


『……っ』


 乗り手に剣を振るわせた自分の慣性(かいてん)が抜ける暇すら惜しむように要塞砲から跳び降りた乗機は防壁に配されていた砲台(つぎ)へと向かい、その天蓋装甲に着地する。


 そうして新たな獲物を得たグランが竜剣を振るい、次の瞬間には乗機が別の砲台へと跳ぶ。


 それを繰り返し、防壁の北西側に配されていた砲台の粗方潰したグラン等が跳躍(りだつ)を図ると、それを待っていたかのように部下達の砲撃が再開され――損傷した敵砲台群を一方的に砕いていく。


「――自分で認可しておいて何だが……案外危険な判断だったか?」

『……竜士様が無能な指揮官でしたら、砲台諸共に撃たれてましたね』

「――――そんなものか?」

『……指揮官の死因は『後ろからの弾』の方が多いのですよ?……撤退中に受けものかもしれませんけれど』


 その物騒な小話の最中にも部下達の砲撃は続き、手筈通り防壁の外側を粉砕した後は内側へと射角をずらす事で戦果の拡大を狙い、背負い込んだ榴弾の全てを撃ち尽くした所で漸く砲声が止む。


要塞砲(もくひょう)の基部が残ってしまったな……降りた時に天蓋も切った方が良かったか?」


 その結果――竜血石の障壁で軽減されても尚届く誘爆の熱を疎ましく思いながらも戦果を検めたグランは、残敵を警戒しながらそんな呟きを零す。


 北西側の砲台群を無力化できた事に変わりはないものの要塞砲は原型を留めており、もしも天蓋に一太刀でも入れておけば熱で炙られた砲弾が誘爆し、もっと明確な結果を残せたかもしれない。


『……完全に破壊してしまうより、使えると思わせて直させた方が敵を長く拘束できますよ』

「まだ失敗はしていないのだがな――信号弾、青3」


 そんなグランの心残りに重ねられたラフィーアの言葉は中々に辛辣であり、これだけの状況を前にしても連邦側が盛り返す事を前提とした話を続ける副官に『中央や北部の南方嫌いは相当だ』と認識を改めた彼は次の命令を下し、それを速やかに実行した乗機によって空に青色の煙が咲く。


 これでサウスゲートの北西側を無力化出来た事が周知され、手の空いたグランが『任せてしまった北東側は上手くいっただろうか』と気を揉んでいると東側からも同じ信号弾が上がり、彼等の目的が果たされた事が周知される。


「――――南方軍は何をしている? 発光信号」


 しかし、安全な突入路が開いたというのに本命である魔導騎士隊は一向に姿を見せず、自分達の急襲(せいか)を無駄に消費する遅れに素直な愚痴(ことば)を零したグランは状況を確認するべく行動を起こす。


『………………了解』

「――――?」


 だがその命を受けたラフィーアの反応は鈍く、それに疑問を覚えたグランが自分の言動を(かえり)みるも特に間違った判断を下しているとは思えず、『ならば何故?』と彼は頭を捻る。


 グランの記憶の中にあるラフィーアは思いの外実直であり、戦場等の余裕がない状況ではそれが顕著になる事から副官がこういった時の反応は人間の世界を学ぶ上で重要な起点になると彼は考えていた。


 その経験則に従ったグランはもう一度自分の言動を思い返すも自分の命令はそう矛盾のある言葉とは思えず、そうして彼が思い悩んでいる内に乗機(ラフィーア)は命令を果たす。


 遠くに発光信号を伝える為に安全な高所を探す乗機は誘爆の熱波の影響に晒されていない防壁の中腹まで一気に飛び上がり、発光器のある頭部を北へ向けるとすぐに信号(ことば)を送る。


「――――」


 グラン等や南方軍の方針が急襲や奇襲である以上、作戦の第一段階が完了した時点で次の部隊が突入出来るようにしているのが最善であり、此方の結果を疑問視しているにしても目視で確認できる距離に居なければ彼方も困る筈。


 それがグランの最初に思った疑問であり、他の問題も生まれてしまったもののそれが解決されれば新しい方の課題(ラフィーアのはんのう)に集中できるという期待を抱いて返信(しんごう)を待っていると――。


『ホカノ ホウダイモ ゲキハ サレタシ』


「――――は?」


 その答えとして返された信号(ことば)はグランの予想外に過ぎる内容であり、自分の読み間違えかと考えた彼がラフィーアに確認を取ろうとした瞬間、次の信号(ようきゅう)が届く。


『コチラハ ソンモウヲユルサレナイ ナンポウグンノセイエイデアル タイショサレタシ』


「――――」


 事前に提示された作戦の前提を覆すような命令にグランをしても絶句し、『だったら最初から言え』という彼らしからぬ悪態を思うと同時に、元竜騎士は部下達が南方軍を嫌っていた理由を今更ながらに理解する事が出来た。


『……相変わらず――いえ、どうしますか?』

「――向こうの方が階級は上だ。――――従わない訳にはいかないだろう」


 しかし、軍隊が命令と条件の下でのみ武力を行使する組織である以上、命じられればやらないわけにはいかない。


「――第1、第3小隊の指揮を君に任せる。部隊を率いて東進。准尉と合流して南東の砲台群とその周囲の敵戦力を排除しつつ潜める場所を探せ」

『…………了解しました。……りゅ――いえ、大尉殿は?』

「南西の砲台を潰してから君達と合流する」


 グランの命令に言い澱んだラフィーアからは『無理をするのだろうという』“確信(いろ)”と『それが間違いであって欲しいという』“願望(いろ)”が見て取れたが、彼は自分の理解の及ばぬそれらの“思い(いろ)”を無視し、副官が予想した通りの『最善』を選択する。


『…………。……了解しました』


 上手くいけば最も被害が少なく済むものの、1人の負担だけが大きい案。


 グランのそれは複数の人間が1つの生物のように動く事が望まれる軍隊の基本に反した命令であったが、現状での最適解であるそれを覆せるだけの理論を組めなかったラフィーアは幾分かの黙考の後に常識を破る命令(それ)を受諾する。


「1機も欠けるなよ? ――その為の別行動だ」

『…………了解しました』


 指揮官(ずのう)は判断に徹し、その部下(てあし)は指示通りに動くという定石に反し、手足を惜しんで頭部(じぶん)を危険に晒す悪手。


 しかし、近距離での遭遇戦に優れる機竜とはいえ遮蔽物を利用した籠城戦においては守備側に利があり、部隊として突入してしまえば練度に不安のある機竜隊が大きく損耗するのは火を見るよりも明らかであり、その現実を前にすれば悪手こそが最善となる。


 そう――単独で対空戦車を切り捨てた実績に鱗鎧が加わった『グラン』という元竜騎士(まどうきし)であれば、それ単体で遮蔽物に潜む戦車を切り捨てる事も待ち伏せる歩兵を蹂躙する事もできる。


 それがグランの判断であり、その伝達を終えた彼は竜剣を乗機の左足に巻かれた剣帯へと差し、事を終えた後に使う信号弾を懐に仕舞い込むと機体(ラフィーア)から飛び降りる。


「(――――人間の世界は、(せわ)しないものだな)」


 その最中、グランは、静かな呟きを洩らす。


 此方が単独行動を提示した辺りからラフィーアが発していた“感情(いろ)


 その複雑な“色”を自然と深く理解出来た自身の変化や自身の想定以上の動きを示した部下達を見た時に生まれた自身の感覚(こうよう)


 戦場という特異な場所はグランにとっては『考えたい』事が多く生まれる場所であり、同時に、答えてくれる(グゥエルナー)が居なくなったこの世界ではその疑問は残り続け――結果としてやり残した事ばかりが積み重なっていく。


『……ご武運を』


 そんな中、何の気負いもなく思考を巡らせていたグランの内情を知る由もないラフィーアは、上官への“気遣い(いろ)”を別れの言葉に乗せ、大きな跳躍によって地雷があると思われる区域を飛び越えると部下達を引き連れて東へと転進する。


「――――人間の世界は、不思議が多いな」


 副官としての当然の礼節(ことば)に確かな喜びを感じている自分。そしての“色”を読みにくい筈の機竜越しであってもその“感情(いろ)”が判る事を今更ながらに認識したグランは、更に増えた考え事に息を零す。


「――――さて」


 そんな贅沢を噛みしめながら走り去る部下達を見送ったグランは聳える防壁を見上げる。


 その高さを前に「部隊の長に収められはしたが、個人で戦う事が多いな」と心内で自嘲したグランは鞘に収まっている騎士剣を確かめる。


「行くか」


 グランの次の目標は南西の要塞砲を含むであり――味方の目を気にする事なくグゥエルナーの鱗鎧に頼れるのであれば戦い様はいくらでもある彼は、何の気負いもなく入口を探して走り出した。



(※1):機竜内にいる搭乗者達は無事だが、普通の生身が機上に居たら爆圧で死亡~挽肉のどれかです。決して無対策で真似をしないように。



 ここまで自信がない文章、固いと感じてしまうのは久しぶりですが――調整していると切りがないので展開します。

 他と同じく、その内徐々に更新していきます。



2021/02/20 Ver1.0:実装


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